説の検証確認日 2026.09.29

タバコを吸う人は減ったのに、肺がんが増えているのはなぜ? 喫煙と肺がんの種類、肺のためにできることを国のデータと論文で確かめる

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日本の男性の喫煙率は、1966年の83.7%から2018年には27.8%まで下がりました(JT「全国たばこ喫煙者率調査」)。2024年の国の調査では、20歳以上で習慣的にたばこを吸う人は14.8%(男性24.5%、女性6.5%)です(厚生労働省「国民健康・栄養調査」)。

それなのに、肺がんで亡くなる人は増え続け、2022年には76,663人と過去最多になりました。いまも年間7万5千人を超え、がんで亡くなる人の原因でいちばん多いのが肺がんです(国立がん研究センター がん統計)。

「タバコをやめる人が増えたのに肺がんが増えているなら、タバコは関係ないのでは?」という声もあります。

この記事では、

  • 喫煙者が減っているのに、肺がんが増えて見えるのはなぜか
  • 肺がんの種類(腺がん・扁平上皮がん・小細胞がんなど)ごとに、喫煙との関係はどう違うのか
  • タバコを吸わない人の肺がんの原因として、何が分かっているか
  • 肺のためによいとされる行動・食べもの・習慣は、どこまで確かなのか

を、国の統計と論文で確かめます。

結論

  • 肺がんで亡くなる「人数」は増えましたが、同じ年齢どうしで比べた「死亡率」は1996年をピークに下がっています。年齢調整死亡率は1996年から2024年までに、男性で33%、女性で21%下がりました
  • 人数が増えた最大の理由は高齢化です。肺がんで亡くなる人のうち75歳以上が占める割合は、1975年の23%から2024年の70%になりました。2024年の人口に1996年の年齢別の死亡率を当てはめると、死亡数は約9万2千人になるはずでしたが、実際は約7万6千人でした
  • 喫煙と肺がんのあいだには20年以上の時間差があります。たばこを多く吸っていた世代がいま高齢になり、肺がんの年齢になっています。50〜60歳代の男性の肺がん死亡率は、1996年から2024年までにおよそ4〜6割下がりました
  • 肺がんは種類によって喫煙との関係の強さが違います。扁平上皮がん・小細胞がんは喫煙との関係がとくに強く、日本人の研究では、たばこを吸う男性の扁平上皮がんのリスクは吸わない人の約12倍です。腺がんは吸わない人にも多く、喫煙によるリスクの上がり方は約2倍と小さめです
  • 喫煙者の減少とともに扁平上皮がん・小細胞がんは減り、いま最も多いのは腺がんです。とくに早い段階で見つかる腺がんが増えていて、検査で見つけやすくなったことも関係していると考えられています
  • タバコを吸わない人の肺がんには、受動喫煙(国立がん研究センターの評価は「確実」)、職場のアスベスト(「ほぼ確実」)、大気汚染(PM2.5)、ラドン、調理の煙などが関係しています
  • 肺のためにできることで、根拠がはっきりしているのは禁煙(何歳からでも)と、受動喫煙を避けることです。果物・野菜や運動は「リスクが低い可能性がある」段階で、β-カロテンのサプリメントは喫煙者の肺がんを増やすことが分かっています
  • 加熱式たばこは、紙巻たばこより少ない有害物質が多い一方、多い物質もあり、肺がんとの関係は「判定できない」というのが、2026年5月の厚生労働省の研究班の整理です

喫煙率と肺がんの推移

喫煙率と肺がんの死亡数・年齢調整死亡率の推移(1958〜2024年)男性の喫煙率は1966年の83.7%から2018年の27.8%まで下がった。肺がんの死亡数は2022年の76,663人まで増え、2024年は75,569人。年齢調整死亡率は男性が1996年の48.1をピークに2024年は32.1、女性は1996年の12.6から2024年は10.0に下がった。成人の喫煙率(%、JT調査 1965〜2018年)02550751001965年 男性82.3%1966年 男性83.7%1967年 男性82.3%1968年 男性78.5%1969年 男性79.1%1970年 男性77.5%1971年 男性77.4%1972年 男性77.6%1973年 男性78.3%1974年 男性78.8%1975年 男性76.2%1976年 男性75.1%1977年 男性75.1%1978年 男性74.7%1979年 男性73.1%1980年 男性70.2%1981年 男性70.8%1982年 男性70.1%1983年 男性66.1%1984年 男性65.5%1985年 男性64.6%1986年 男性62.5%1987年 男性61.6%1988年 男性61.2%1989年 男性61.1%1990年 男性60.5%1991年 男性61.2%1992年 男性60.4%1993年 男性59.8%1994年 男性59.0%1995年 男性58.8%1996年 男性57.5%1997年 男性56.1%1998年 男性55.2%1999年 男性54.0%2000年 男性53.5%2001年 男性52.0%2002年 男性49.1%2003年 男性48.3%2004年 男性46.9%2005年 男性45.8%2006年 男性41.3%2007年 男性40.2%2008年 男性39.5%2009年 男性38.9%2010年 男性36.6%2011年 男性33.7%2012年 男性32.7%2013年 男性32.2%2014年 男性30.3%2015年 男性31.0%2016年 男性29.7%2017年 男性28.2%2018年 男性27.8%男性 1966年 83.7%27.8%1965年 女性15.7%1966年 女性18.0%1967年 女性17.7%1968年 女性15.4%1969年 女性15.4%1970年 女性15.6%1971年 女性14.7%1972年 女性15.5%1973年 女性15.1%1974年 女性16.7%1975年 女性15.1%1976年 女性15.4%1977年 女性15.1%1978年 女性16.2%1979年 女性15.4%1980年 女性14.4%1981年 女性15.3%1982年 女性15.4%1983年 女性13.5%1984年 女性14.0%1985年 女性13.7%1986年 女性12.6%1987年 女性13.4%1988年 女性13.1%1989年 女性12.7%1990年 女性14.3%1991年 女性14.2%1992年 女性13.3%1993年 女性13.3%1994年 女性14.8%1995年 女性15.2%1996年 女性14.2%1997年 女性14.5%1998年 女性13.3%1999年 女性14.5%2000年 女性13.7%2001年 女性14.7%2002年 女性14.0%2003年 女性13.6%2004年 女性13.2%2005年 女性13.8%2006年 女性12.4%2007年 女性12.7%2008年 女性12.9%2009年 女性11.9%2010年 女性12.1%2011年 女性10.6%2012年 女性10.4%2013年 女性10.5%2014年 女性9.8%2015年 女性9.6%2016年 女性9.7%2017年 女性9.0%2018年 女性8.7%女性 1966年 18.0%8.7%1960198020002020肺がんで亡くなった人の数(全国、人)02万4万6万8万1958年 4,271人1959年 4,739人1960年 5,171人1961年 5,698人1962年 6,227人1963年 6,736人1964年 7,172人1965年 7,725人1966年 8,365人1967年 8,862人1968年 9,365人1969年 10,133人1970年 10,489人1971年 11,129人1972年 12,290人1973年 12,856人1974年 13,716人1975年 14,759人1976年 15,869人1977年 17,235人1978年 18,530人1979年 19,923人1980年 21,294人1981年 22,799人1982年 24,216人1983年 25,651人1984年 27,356人1985年 28,590人1986年 29,535人1987年 31,729人1988年 33,388人1989年 35,477人1990年 36,486人1991年 38,199人1992年 40,163人1993年 41,527人1994年 43,476人1995年 45,745人1996年 48,041人1997年 48,994人1998年 50,871人1999年 52,177人2000年 53,724人2001年 55,034人2002年 56,405人2003年 56,720人2004年 59,922人2005年 62,063人2006年 63,255人2007年 65,608人2008年 66,849人2009年 67,583人2010年 69,813人2011年 70,293人2012年 71,518人2013年 72,734人2014年 73,396人2015年 74,382人2016年 73,860人2017年 74,127人2018年 74,328人2019年 75,394人2020年 75,585人2021年 76,212人2022年 76,663人2023年 75,762人2024年 75,569人1958年 4,271人2022年 76,663人1996年 48,041人点線=1996年1960198020002020肺がんの年齢調整死亡率(10万人あたり)02040601958年 男性11.31959年 男性12.61960年 男性13.61961年 男性14.31962年 男性15.41963年 男性16.51964年 男性17.31965年 男性18.11966年 男性19.11967年 男性20.21968年 男性20.91969年 男性22.21970年 男性22.51971年 男性23.61972年 男性25.31973年 男性25.81974年 男性27.21975年 男性28.11976年 男性29.61977年 男性31.31978年 男性32.51979年 男性34.51980年 男性35.51981年 男性37.21982年 男性38.01983年 男性39.31984年 男性40.71985年 男性41.51986年 男性41.11987年 男性42.81988年 男性43.71989年 男性45.01990年 男性45.01991年 男性45.31992年 男性45.81993年 男性46.11994年 男性46.71995年 男性47.51996年 男性48.11997年 男性47.31998年 男性47.31999年 男性47.02000年 男性46.32001年 男性45.62002年 男性45.32003年 男性44.22004年 男性45.22005年 男性44.62006年 男性44.02007年 男性44.02008年 男性43.52009年 男性42.52010年 男性42.42011年 男性41.72012年 男性41.02013年 男性40.42014年 男性39.72015年 男性39.22016年 男性37.62017年 男性36.82018年 男性35.52019年 男性35.32020年 男性34.82021年 男性34.22022年 男性33.92023年 男性32.92024年 男性32.1男性 1996年 48.132.11958年 女性4.41959年 女性4.51960年 女性4.81961年 女性5.31962年 女性5.61963年 女性5.81964年 女性6.01965年 女性6.51966年 女性6.81967年 女性6.81968年 女性6.91969年 女性7.31970年 女性7.31971年 女性7.31972年 女性7.91973年 女性7.91974年 女性8.01975年 女性8.31976年 女性8.91977年 女性9.01978年 女性9.51979年 女性9.61980年 女性10.21981年 女性10.41982年 女性10.81983年 女性11.01984年 女性11.31985年 女性11.31986年 女性11.31987年 女性11.51988年 女性11.81989年 女性12.01990年 女性11.61991年 女性11.91992年 女性12.31993年 女性12.11994年 女性12.31995年 女性12.51996年 女性12.61997年 女性12.51998年 女性12.61999年 女性12.52000年 女性12.32001年 女性12.22002年 女性11.82003年 女性11.12004年 女性11.52005年 女性11.72006年 女性11.72007年 女性11.72008年 女性11.72009年 女性11.42010年 女性11.52011年 女性11.42012年 女性11.42013年 女性11.42014年 女性11.42015年 女性11.12016年 女性11.02017年 女性10.32018年 女性10.62019年 女性10.42020年 女性10.32021年 女性10.42022年 女性10.32023年 女性10.12024年 女性10.0女性 1996年 12.610.01960198020002020
喫煙率はJT「全国たばこ喫煙者率調査」(2018年で調査終了)。死亡数・年齢調整死亡率は国立がん研究センター がん統計(人口動態統計による全国がん死亡データ)。年齢調整死亡率は昭和60年モデル人口を使用。点線は年齢調整死亡率がもっとも高かった1996年。
年 男性の喫煙率 肺がんの死亡数 年齢調整死亡率(男性) 年齢調整死亡率(女性)
1966 83.7% 8,365人 19.1 6.8
1975 76.2% 14,759人 28.1 8.3
1985 64.6% 28,590人 41.5 11.3
1996 57.5% 48,041人 48.1 12.6
2005 45.8% 62,063人 44.6 11.7
2015 31.0% 74,382人 39.2 11.1
2022 ― 76,663人 33.9 10.3
2024 24.5%(国の調査) 75,569人 32.1 10.0

(年齢調整死亡率は人口10万あたり。2024年の喫煙率は厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査」の値で、JT の調査とは調べ方が違います)

グラフの上2つだけを見ると「喫煙率は下がったのに、肺がんは増えた」ように見えます。いちばん下の年齢調整死亡率を見ると、話が変わります。

分析:喫煙者が減っているのに、肺がんが増えて見える理由

① 高齢化:人数は増えても、同じ年齢で比べると減っている

がんは年をとるほどなりやすい病気です。高齢の人が増えれば、ひとりひとりのなりやすさが同じでも、がんの人数は増えます。

そこで、年齢構成の違いを取り除いて比べるのが年齢調整死亡率です。肺がんの年齢調整死亡率(男女計)は、1996年の27.4をピークに下がり、2024年は19.9になりました(27%低い)。

1975年 1996年 2024年
肺がんの死亡数 14,759人 48,041人 75,569人
そのうち75歳以上の割合 23% 43% 70%
年齢調整死亡率(男女計) 16.9 27.4 19.9

もし、2024年の人口に1996年の年齢別の死亡率をそのまま当てはめると、肺がんの死亡数は約9万2千人になる計算です。実際の2024年の死亡数は約7万6千人でした。つまり、年齢ごとに見た肺がんのなりやすさ(亡くなりやすさ)は下がっていて、人数が増えたのは、高齢の人が大きく増えたためです。

② 時間差:喫煙の影響は20年以上たってから出る

たばこを吸いはじめてから肺がんになるまでには長い時間がかかります。英国や米国のように喫煙率がピークを過ぎた国では、男性の肺がんの率は喫煙率と同じ形で動き、20〜25年遅れて下がりはじめたとされています(Shong 2025 の総説)。日本の研究でも、喫煙を始めてから肺がんで亡くなるまでの「長い時間差」が指摘されています(Funatogawa 2013)。

年齢別に見ると、この時間差がよく分かります。

男性の肺がん死亡率(10万人あたり) 1975年 1996年 2015年 2024年 1996年からの変化
50〜54歳 20.8 29.2 20.0 12.3 −58%
60〜64歳 79.7 98.9 88.2 56.0 −43%
70〜74歳 210.5 319.8 252.1 226.7 −29%
80〜84歳 191.7 580.0 503.4 440.0 −24%
85歳以上 127.4 603.5 723.9 565.5 −6%

(国立がん研究センター がん統計から計算)

  • 50〜60歳代では、1996年から大きく下がりました。たばこを吸う人が減った世代です
  • 85歳以上では2015年まで上がり続け、その後ようやく下がりはじめました。喫煙率が80%前後だった時代に大人だった世代が、この年齢に入ってきたためと考えられます
  • 大阪府のがん登録の研究でも、肺がんの罹患率は生まれた年代ごとに見ると「喫煙率とほぼ並行している」と報告されています(Toyoda 2008)

「いま喫煙者が減っていても、肺がんがすぐに減らない」のは、たばこの害が出るまでに時間がかかるためです。いまの肺がんの多くは、数十年前の喫煙を反映しています。

③ 見つかる肺がんがふえた:とくに早い段階の腺がん

亡くなる人だけでなく、新たに肺がんと診断される人の数も見てみます。

1975年 1996年 2015年 2023年
新たに肺がんと診断された人 17,672人 59,741人 ― 123,989人
年齢調整罹患率(男性) 33.2 58.5 61.9 56.9
年齢調整罹患率(女性) 10.2 16.9 25.3 25.3

(人口10万あたり。2015年までは全国推計値、2016年からは全国がん登録の値で、集め方が違います。2016〜2023年の罹患数は年12万〜12万6千人でほぼ横ばい)

  • 女性の年齢調整罹患率は1975年から2015年までに約2.5倍になりましたが、年齢調整死亡率は8.3から11.1(約1.3倍)にとどまっています
  • 日本の3つのがん登録をまとめた研究(Nguyen 2022、1993〜2015年)では、がんが肺の中にとどまっている早い段階の腺がんが、男性で年4.5%、女性で年5.7%のペースで増えていました。著者は、検査(診断の方法)が進歩して見つけやすくなったことが関係している可能性を挙げています
  • 台湾では、たばこを吸う女性が5%未満なのに、低線量CT検査が広まると、早い段階の肺がんが6倍以上に増えました。一方、進んだ段階の肺がんは減らず、死亡率も変わらなかったため、増えた分のほとんどは「過剰診断」(命にかかわらないがんを見つけていること)と分析されています(Gao 2022)

新たに見つかる肺がんが増えたことには、病気そのものの増加だけでなく、見つけ方の変化も含まれています。

④ 喫煙と関係の薄い肺がん:タバコを吸わない人の肺がん

肺がんは「喫煙者の病気」と思われがちですが、吸わない人もかかります。

  • 日本の3つの大規模な追跡研究をまとめた JACC 研究では、肺がんで亡くなった人のうち喫煙が原因と考えられる割合は、男性で67%、女性で15%でした(Wakai 2005)
  • 手術を受けた日本の非小細胞肺がんの患者876人を調べた研究では、435人(約半数)がたばこを吸ったことのない人でした(Kawaguchi 2016)

喫煙者が減れば、肺がんのうち「吸わない人の肺がん」が占める割合は大きくなります。吸わない人の肺がんの原因は、次の章で見ます。

分析のまとめ

疑問 答え
肺がんは増えている? 人数は増えたが、同じ年齢で比べた死亡率は1996年から下がっている
なぜ人数が増えた? 高齢化。肺がんで亡くなる人の7割が75歳以上
なぜ喫煙率ほど早く減らない? 喫煙の影響は20年以上遅れて出る。たばこを多く吸った世代がいま高齢
新たに診断される人が多いのは? 高齢化に加えて、CT などで早い段階の腺がんが見つかるようになった
タバコは関係ない? 関係ある。男性の肺がん死亡の約3分の2は喫煙による。年齢別の死亡率は喫煙率の低下に遅れて下がっている

肺がんの種類と、喫煙との関係

肺がんは、顕微鏡で見たがん細胞の形(組織型)で分けられます。国立がん研究センターによると、腺がんは女性や吸わない人にも多く、扁平上皮がんと小細胞がんは喫煙との関連が強いとされています。

種類 特徴 喫煙との関係
腺がん いま最も多い。肺の奥(末梢)にできやすい。女性や吸わない人にも多い ある(喫煙でリスクは上がる)が、ほかの種類より弱い
扁平上皮がん 太い気管支(肺の入口近く)にできやすい とても強い
小細胞がん 増えるのが速く、転移しやすい とても強い
大細胞がん 数は少ない ある

喫煙でリスクが何倍になるか

研究 対象 扁平上皮がん 小細胞がん 腺がん
Wakai ら(2006年) 日本人の研究22件のまとめ。たばこを吸う人と吸わない人の比較 男性 11.7倍、女性 11.3倍 ― 男性 2.3倍、女性 1.4倍
Pesch ら(2012年) ヨーロッパ・カナダの症例対照研究のまとめ(患者13,169人)。1日30本を超えて吸う男性 約104倍 約111倍 約22倍

(Pesch らの数字はオッズ比。日本人は欧米人より、喫煙による肺がんのリスクの上がり方が小さいことが知られています)

  • 日本人の研究をまとめると、たばこを吸う人の肺がん全体のリスクは、吸わない人の男性で約4.4倍、女性で約2.8倍です(Wakai 2006)
  • Pesch らの研究では、禁煙すると早くからリスクが下がりはじめましたが、35年たっても吸わない人と同じにはならなかったと報告されています

喫煙者が減って、種類の割合が変わった

  • 大阪府のがん登録では、1990年代から扁平上皮がんと小細胞がんの罹患率は下がり、腺がんは上がり続けていました(Toyoda 2008)
  • 日本の3つのがん登録(1993〜2015年)では、腺がんは男性の肺がんの35%、女性の58%を占め、どちらでもいちばん多い種類でした。男性では扁平上皮がん・小細胞がんが減っていました(Nguyen 2022)
  • 国の肺がん検診のガイドライン(2025年度版)も、喀痰(たん)の検査で見つけていた肺の入口近くの扁平上皮がんが、喫煙率の低下で減っていることを理由に、たんの検査を勧めない判断をしています

「フィルターつきの軽いたばこ」と腺がん

たばこを吸う人の中でも、腺がんの割合が増えてきました。米国公衆衛生総監の報告書(2014年)は、フィルターの小さな穴(通気孔)でタールの測定値を下げたたばこが、喫煙者の腺がんの増加を招いたと結論しています(Song 2017 による紹介)。

  • 「軽い」たばこだと思って、深く、たくさん吸い込むようになる
  • 煙が肺の奥まで届き、腺がんができやすい場所に当たる

と考えられています。「軽いたばこなら安全」ではありません。

タバコを吸わない人の肺がん:何が関係しているか

要因 分かっていること 評価
受動喫煙 日本人の研究のまとめで、家庭で受動喫煙がある人は肺がんが1.28倍(Hori 2016)。夫がたばこを吸う女性は、腺がんが2.03倍(JPHC 研究、Kurahashi 2008) 国立がん研究センター:確実
職場のアスベスト 建材・造船などで吸い込んだ石綿 国立がん研究センター:ほぼ確実
大気汚染(PM2.5) PM2.5 が 10μg/m³ 高いごとに肺がんが16%多い(追跡研究15件、Ciabattini 2021) 研究多数。東アジアの研究で関係が強め
ラドン 土や岩から出る放射性の気体。吸わない人の肺がんで、100Bq/m³ ごとに15%多い(Cheng 2021) 世界では吸わない人の肺がんの主な原因とされる
調理の煙 調理の油煙を浴びる女性で約2倍、換気の悪い台所で1.2倍(観察研究23件のまとめ、Jia 2018) 観察研究が中心
家族歴・体質 東アジアの吸わない女性の腺がんには、EGFR 遺伝子の変異が多い(Mitsudomi 2014) 変異そのものは喫煙と関係なく起きるとされる
肺結核 過去の結核 国立がん研究センター:可能性あり
  • 健康な人の肺の組織にも、EGFR 遺伝子の変異をもつ細胞がある程度あり(調べた組織の18%)、PM2.5 がその細胞に働いてがんを促す、という仕組みが報告されています(Hill 2023、Nature)
  • 日本の非喫煙女性の研究では、閉経の時期などホルモンに関わる要因と腺がんとの関係も報告されています(Wilunda 2021)

加熱式たばこはどうか

2024年の国の調査では、たばこを吸う人の4割以上(男性41.4%、女性44.2%)が加熱式たばこを使っています。

厚生労働省の研究班は、2010〜2025年の論文を整理し、2026年5月に「加熱式たばこに関するこれまでの知見の整理」として公表しました。

項目 研究班の整理
主流煙の成分 一酸化炭素・多環芳香族炭化水素など燃焼でできる物質は、おおむね紙巻たばこより少ない。一方、発がん物質のたばこ特異的ニトロソアミン(TSNAs)やアクリルアミドなど、製品によっては紙巻たばこより多い物質もある
発がん物質のリスク評価 NNK・ベンゾ(a)ピレンなどは「がんの過剰発生率が高い」判定。NNK とベンゾ(a)ピレンは肺がんとの関連があり、リスクが強く懸念される
使う人の病気との関係 循環器の病気・ニコチン依存は「関連が強い」。発がん(肺がんを含む)・COPD は「判定できない」(発がんそのものを直接調べた研究がない)
受動喫煙 空気中の有害物質は増える。発がん性は「判定できない」

「判定できない」は「安全」という意味ではありません。加熱式たばこが広まってからまだ年月が短く、肺がんのように何十年もかかる病気との関係は、調べられるだけの時間がたっていません。

なお、研究班はたばこ会社が行った研究・資金を出した研究を判定の対象から外しています。

肺のためにできること:根拠の強さ別

「肺にいい」と言われる行動・食べもの・習慣を、国と国際機関の評価の強さで並べました。

根拠がはっきりしているもの

行動 分かっていること
禁煙(何歳からでも) 日本の男性の研究で、60歳代でやめても、70歳代での肺がん死亡率は吸い続けた人の0.60倍(Wakai 2007)。やめてからの年数が長いほどリスクは下がる。アジアの16の追跡研究では、やめて15〜19年後もまだ吸わない人の約2倍で(Yang 2022)、早くやめるほどよい
受動喫煙を避ける 国立がん研究センターの評価で「確実」にリスクを上げる。家の中・車の中で吸わない・吸わせない
職場の粉じん・アスベスト対策 国立がん研究センターの評価で「ほぼ確実」。解体・改修工事などでは防じんマスクなど職場の決まりを守る
肺がん検診 40〜79歳は年1回の胸部X線検査。50〜74歳で喫煙指数(1日の本数×年数)が600以上の人(やめて15年以内の人を含む)は、年1回の低線量CTが勧められる(国立がん研究センター ガイドライン2025年度版)。吸わない人・軽い喫煙者の CT は、国の検診としては勧められていない(過剰診断などの不利益が大きい可能性)

肺の働き(肺機能)も同じで、たばこをやめた人は、吸い続けている人より肺機能の低下が小さく、低下の上乗せ分は吸い続けている人の約2割でした(米国の6つの追跡研究、Oelsner 2020)。一方で、やめた後も数十年にわたって、まったく吸わない人よりは低下がやや速いことも分かっています。

可能性があるもの(研究が限られる)

食べもの・習慣 評価
果物 国立がん研究センター:可能性あり(リスクを下げる)。WCRF:たばこを吸う人・やめた人で「リスクを下げる可能性(限定的)」
野菜 国立がん研究センター:データ不十分。WCRF:たばこを吸う人・やめた人で「リスクを下げる可能性(限定的)」
カロテノイドを含む食べもの(緑黄色野菜など) WCRF:リスクを下げる可能性(限定的)
ビタミンCを含む食べもの WCRF:たばこを吸う人で、リスクを下げる可能性(限定的)
大豆などイソフラボンを含む食べもの WCRF:吸わない人で、リスクを下げる可能性(限定的)。国立がん研究センター:データ不十分
運動 WCRF:リスクを下げる可能性(限定的)。国立がん研究センター:データ不十分
  • 果物・野菜:追跡研究のまとめでは、1日100g ふえるごとに肺がんが果物で8%、野菜で6%少なく、1日400g くらいを超えると、それ以上は差がなかったと報告されています(Vieira 2016、WCRF のための解析)。ただし、関係ははっきりしているのは主にたばこを吸う人・やめた人で、著者も「喫煙の影響を取り除ききれていない可能性がある」「肺がんを防ぐいちばんの方法はたばこをなくすこと」としています
  • 運動:余暇の運動が多い人は肺がんが24%少ないという結果ですが、吸わない人では差がありませんでした(Brenner 2016)
  • 食事全体:野菜・果物・魚が多い食事で肺がんが少なく、精製穀物・赤肉・加工肉が多い「欧米型」の食事で32%多い、というまとめがあります(Zhao 2023)

これらは「どんな食事の人に肺がんが少なかったか」を調べた観察研究です。「〇〇を食べれば肺がんを防げる」とまでは言えません。

避けたいもの

食べもの・習慣 評価
β-カロテンのサプリメント(高用量) WCRF:たばこを吸う人・やめた人で、肺がんのリスクを上げる(確実)
飲料水のヒ素 WCRF:肺がんのリスクを上げる(確実)。日本の水道水は水質基準で管理されている
赤肉・加工肉・お酒 WCRF:リスクを上げる可能性(限定的)。国立がん研究センター:データ不十分

β-カロテンは、野菜や果物から食べる分には問題になっていません。問題になったのはサプリメントで大量にとった場合です。

  • フィンランドの喫煙男性29,133人の試験(ATBC):β-カロテン1日20mg のサプリで、肺がんが18%多くなりました
  • 米国の喫煙者・アスベスト作業者18,314人の試験(CARET):β-カロテン30mg+ビタミンA で、肺がんが28%多く、予定より早く試験が中止されました
  • ランダム化試験をまとめた研究でも、β-カロテンのサプリで肺がんが19%多く、著者は「がん予防のためにβ-カロテンのサプリはすすめられない」としています(Zhang 2023)

「肺にいい成分」をサプリで足すより、たばこをやめることのほうが、はるかに大きな違いになります。

たばこをやめたい人へ

やめ方と、研究で分かっていること

方法 分かっていること
禁煙外来(医療機関) 条件を満たせば健康保険で治療を受けられる(ニコチン依存のテストが5点以上、35歳以上は1日の本数×年数が200以上、すぐに禁煙したい、文書で同意)。飲み薬(バレニクリン)とニコチンパッチなどを使う。バレニクリンは、何も使わない場合より禁煙できる人が多い(オッズ比2.33、コクランの解析 Lindson 2023)
ニコチンパッチ・ニコチンガム(薬局・通販) ニコチンを少しずつ補って、禁煙中のイライラなどをやわらげる薬。何も使わない場合より禁煙できる人が約1.5倍(試験133件、6万4千人のまとめ、Hartmann-Boyce 2018)
禁煙本・講習 アレン・カー式の1日講習は、英国の標準的な禁煙支援(カウンセリング+薬)と同じくらいの禁煙率(26週で19.4%と14.8%、はっきりした差なし、Frings 2020)。ただし本を読むだけの効果を調べた研究は少ない(Possenti 2023)
  • ニコチンパッチ・ガムは医薬品です。妊娠中・授乳中の人、重い心臓病、急性期の脳卒中、うつ病と診断されたことがある人などは使えません。持病のある人や薬を飲んでいる人は、医師・薬剤師に相談してください
  • ニコチンパッチ(第1類医薬品)は、ネットで買うときも薬剤師の確認があります
  • たばこを吸う人が禁煙中に加熱式たばこに切りかえることは、上の「禁煙」には当たりません

禁煙補助薬と本(楽天市場)

ニコチンパッチ ニコチンガム 本
名前 ニコチネル パッチ20(14枚) ニコレット(96個) 禁煙セラピー(アレン・カー)
区分 第1類医薬品 指定第2類医薬品 書籍
使い方(添付文書) 1日1回1枚を起床時から就寝時まで貼る。最初の6週間はパッチ20、次の2週間はパッチ10。連続8週間まで 吸いたくなったとき1個を30〜60分かけてかむ。1日24個まで。使用期間は3か月をめど 読む
価格(税込) 3,361円(送料別) 5,820円 1,500円
お店 サンドラッグ 楽天24 ヘルスケア館 楽天ブックス
購入 楽天市場で見る(サンドラッグ) PR 楽天市場で見る(楽天24) PR 楽天市場で見る(楽天ブックス) PR

(2026年9月29日に楽天市場の販売ページで確認。価格・送料は変わることがあります。医薬品は使用上の注意をよく読み、用法・用量を守ってください)

ご注意 ニコチンパッチ・ガムの効能・効果は「禁煙時のイライラ・集中困難・落ち着かないなどの症状の緩和」です。肺がんを防ぐ薬ではありません。禁煙がうまくいかないときは、禁煙外来で相談できます。

果物・野菜をふだんの食事に

果物は、国立がん研究センターの評価で肺がんのリスクを「下げる可能性あり」とされる、数少ない食べものです。研究では1日400g くらいまでで差が出ていました(Vieira 2016)。国の「健康日本21」の目標は、野菜が1日350g、果物が1日200g です。

毎日の買い物で野菜・果物をそろえるのが難しい人には、食材宅配のおためしセットで量と中身を確かめる方法もあります。各社の基準や料金の違いは食材宅配の比較記事にまとめています。

ご注意 食材宅配で肺がんを防げるわけではありません。果物・野菜の研究は観察研究で、とくにたばこを吸う人・やめた人で関係が見られたものです。たばこを吸う人にとっていちばん大きいのは、禁煙です。

まとめ

  • 肺がんで亡くなる人数は高齢化で増えましたが、同じ年齢で比べた死亡率は1996年から下がっています
  • 喫煙の影響は20年以上遅れて出ます。たばこを多く吸った世代がいま高齢になり、肺がんの年齢を迎えています
  • 肺がんのうち、扁平上皮がん・小細胞がんは喫煙との関係がとても強く、喫煙者の減少とともに減っています。いちばん多い腺がんは、吸わない人にも多く、受動喫煙・大気汚染・ラドン・体質なども関係します。検査で早い段階の腺がんが見つかるようになったことも、新たに診断される人が多い理由のひとつです
  • 加熱式たばこと肺がんの関係は、まだ「判定できない」段階です
  • 肺のためにできることで確かなのは、禁煙(何歳からでも)と受動喫煙を避けること。果物・野菜・運動は「可能性あり」の段階で、β-カロテンのサプリは喫煙者では逆効果です
  • 喫煙指数600以上の50〜74歳(やめて15年以内を含む)は、年1回の低線量CT検診が勧められています

参考にした資料

関連する読みもの・データベース

この記事は、公的機関の資料と研究をもとに表示のルールや評価を整理したもので、特定の食品や添加物の安全性・危険性を判定するものではありません。制度や海外の規制は変わることがあります(確認日 2026.09.29)。