腫瘍マーカーとは? はじまり・種類・がん別の陽性率・費用・結果の見方を、学会の資料と論文で確かめる

PR この記事には、楽天市場のアフィリエイト広告のリンク(「楽天市場で見る」)を含みます。書いている内容は、広告の有無と関係なく、公的機関・学会の資料と論文をもとにしています。
この記事について この記事は、腫瘍マーカーという検査のしくみと、学会・公的機関の資料に書かれていることを整理したものです。ひとりひとりの検査結果の意味を判断するものではありません。結果が気になるときは、検査を受けた医療機関や、かかりつけの医師に相談してください。
健康診断や人間ドックの結果に「CEA」「CA19-9」「PSA」といった項目が並んでいて、基準値を少し超えていた――。あるいは、人間ドックの申し込みで「腫瘍マーカー(オプション)」を付けるかどうか迷っている。そんなときに「血液でがんが分かる検査」と聞くと、受けたほうが安心な気がします。
この記事では、次のことを日本臨床検査医学会のガイドライン、国立がん研究センター、海外の公的機関の資料と論文で確かめます。
- 腫瘍マーカーとは何か。いつ、誰が見つけたのか
- どんな種類があり、それぞれ体の中の何という物質を測っているのか
- どのマーカーが、どのがんで、何%くらい陽性になるのか(がんの種類別・病期別)
- 健診で「陽性」だったとき、本当にがんである割合はどれくらいか
- がんでなくても上がる原因、がんがあっても上がらない理由
- 結果の見方と判断基準、費用(保険と自費)
- 日本と海外で、検診としての評価はどうちがうか
結論
- 腫瘍マーカーは、がん細胞が多く作るたんぱく質などの物質です。多くは正常な細胞も作るため、がん以外の病気・喫煙・妊娠・月経・腎機能の低下・薬でも上がります(国立がん研究センター、日本臨床検査医学会)
- はじまりは1847年のベンス・ジョーンズ蛋白。1960年代に胎児のたんぱく質の AFP・CEA、1975年のモノクローナル抗体の発明のあとに CA19-9・CA125 などが見つかりました。SCC・ProGRP・AFP-L3 など、日本の研究から生まれたものも多くあります
- がんの人のうち陽性になる割合(陽性率・感度)は、膵臓がんの CA19-9 で約78%、前立腺がんの PSA で約80%、大腸がんの CEA で約50%、胃がんの CEA で約24%(日本臨床検査医学会 JSLM2021 のおよその値)。ただし早いがんほど低く、胃がんの CA19-9 はⅠ期で3%でした
- 症状のない人の検診では、もっと低くなります。国立がん研究センターの検診データでは、見つかった胃・十二指腸・大腸のがんのうち CEA が陽性だったのは7.8%、CEA が陽性の人のうち本当にがんだったのは3.7%でした
- 国の5つのがん検診に腫瘍マーカーは入っておらず、国立がん研究センターは「がん検診としての効果…は認められていません」としています。PSA だけは評価が分かれ、国立がん研究センターは市区町村の検診としては勧めず、日本泌尿器科学会は強く勧めています。海外では、CA125 による卵巣がん検診は大規模な試験で死亡を減らしませんでした
- 費用は、保険で測れるのは「がんが強く疑われるとき」だけで、3割負担なら検査関係で約850円(1項目)〜約1,710円(4項目以上)。人間ドックのオプション(自費)は単品でおおむね2,000〜3,000円台です。基準値は病院・試薬でちがうため、数値の程度と推移、ほかの検査と合わせて判断する、というのが学会の書き方です
この記事で紹介しているもの
記事の中で、論点に合わせて次の本を紹介しています(楽天市場のリンクです)。
| こんな人に | 紹介しているもの | 選んだ理由(事実) | 場所 |
|---|---|---|---|
| 検査項目ごとの意味を手元で引きたい | 『パッと引けてしっかり使える 検査値の読み方ポケット事典[第5版]』(成美堂出版) | 2023年発行。目次に「第7章 腫瘍マーカー検査」がある | 結果はどうみる? |
| 健診の結果全体の見方を知りたい | 『健診結果の読み方 気にしたほうがいい数値、気にしなくていい項目』(講談社+α新書) | 2024年発行。目次に「第10章 がん検診」がある | 国が勧めるがん検診との関係 |
腫瘍マーカーとは
国立がん研究センターのがん情報サービスは、腫瘍マーカーを次のように説明しています。
腫瘍マーカーとは、主にがん細胞によって作られるタンパク質などの物質で、がんの種類や臓器ごとに特徴があります。 (国立がん研究センター がん情報サービス「腫瘍マーカー検査」、2024年7月8日更新)
日本臨床検査医学会の「臨床検査のガイドライン JSLM2021」は、腫瘍マーカー検査を「腫瘍細胞が産生する物質や、腫瘍に反応して生体が産生する物質の血清中濃度などを測定する検査」とし、目的を腫瘍の診断の補助・治療の効果を時間を追って見ること・再発の監視と書いています。
ここで大事なのは、腫瘍マーカーの多くはがんだけが作る物質ではないことです。米国国立がん研究所(NCI)は、多くの腫瘍マーカーは「正常な細胞でもがん細胞でも作られるたんぱく質で、がん細胞のほうがたくさん作る」と説明し、次の3つの限界を挙げています(NCI「Tumor Markers」ファクトシート、2023年12月7日)。
- 腫瘍マーカーが高くても、がんがあるとは限らない
- がんではない病気でも、腫瘍マーカーが上がることがある
- そのがんの人が、みんな腫瘍マーカーが上がるわけではない
そして JSLM2021 は、はっきりこう書いています。
腫瘍マーカーは早期癌では有意な増加はみられないため、癌の早期発見のスクリーニングには適さない。 (日本臨床検査医学会「臨床検査のガイドライン JSLM2021」腫瘍マーカー検査・コンパニオン診断検査、p.87)
同じ箇所には、例外として前立腺がんの PSA が挙げられています。この記事の後半では、PSA だけが別扱いになる理由と、日本と海外で評価が分かれている点も見ていきます。
腫瘍マーカーのはじまり

「最初の腫瘍マーカー」は1847年の尿の検査
「最初の腫瘍マーカー」とよく言われるのは、英国の医師ヘンリー・ベンス・ジョーンズが1847年に、骨の病気の患者の尿から見つけた物質(ベンス・ジョーンズ蛋白)です。報告は1848年に英国王立協会の論文誌に載りました。その正体が免疫グロブリン(抗体)の部品である「軽鎖」だと分かったのは、100年以上あとの1962年です(Edelman・Gally、1962年)。ベンス・ジョーンズ蛋白は、いまでいう多発性骨髄腫の患者の尿にたくさん出るものです(Sewpersad・Pillay 2021)。なお、発見の年を1846年とする資料もあります。
1960年代:胎児のたんぱく質が、がんで再び現れる
腫瘍マーカーの研究が本格的に進んだのは1960年代です。見つかったのは、胎児のときに作られ、生まれるころには作られなくなるたんぱく質が、がんになると再び血液に出てくるという現象でした。
- AFP(α-フェトプロテイン):1963年にソ連のアベレフらがマウスの肝がんで、1964年にタタリノフがヒトの肝がん患者の血清で報告しました。AFP は胎児の肝臓と卵黄嚢で作られるたんぱく質です
- CEA(癌胎児性抗原):1965年にカナダのゴールドとフリードマンが、ヒトの大腸がんにある抗原が、妊娠2〜6か月の胎児の腸・肝臓・膵臓にもあることを示し、「carcinoembryonic antigen(癌胎児性抗原)」と名づけました
1975年:モノクローナル抗体で「目印」を探す時代へ
1975年、ケーラーとミルスタインが、決まった1種類の抗体を作り続ける方法(モノクローナル抗体)を発表しました。この業績は1984年のノーベル生理学・医学賞につながっています。
これ以降は、がん細胞を使って抗体を作り、その抗体がくっつく相手を腫瘍マーカーにする方法が広がりました。CA19-9(1979〜1983年、コプロフスキーら)、CA125(1981〜1983年、バストら)、CA15-3(1984〜1985年)などです。名前の数字(19-9、125 など)は、もとになった抗体の番号に由来します。
日本の研究者が見つけたり、臨床で広めたりしたマーカーも多くあります。
- SCC:1977年に日本の Kato と Torigoe が子宮頸部の扁平上皮がんから見つけた TA-4 という抗原の一部
- PSA:1971年に日本の Hara らが報告した精液のたんぱく質「γ-セミノプロテイン」は、のちに PSA と同じ物質だと分かりました(総説で確認。1971年の原著は未確認)。PSA を前立腺から精製したのは1979年の米国のワンらです
- PIVKA-II:1984年に米国で肝細胞がんの91%の血清に見つかったと報告され(Liebman ら)、1986年に日本でモノクローナル抗体を使う測定法が報告されました。日本では1989年に保険で測れるようになりました
- AFP-L3(1993年、日本の多施設研究)、ProGRP(1994年、国立がんセンター研究所)、SPan-1(1987年)なども日本の研究です
PSA の承認の歴史
米国では1986年に、PSA の測定キットが前立腺がんの患者の経過観察用として承認されました。「50歳以上の男性で、直腸診と合わせて前立腺がんを見つける補助」に使えるようになったのは1994年です(米国官報)。もともとは、がんと分かった人の経過を見るための検査でした。
日本臨床検査医学会の「4つの世代」
日本臨床検査医学会のガイドライン(2005/2006年版)は、腫瘍マーカーを見つかった時代で4つに分けています。
| 世代 | 時代 | 代表例 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 第一世代 | 1960年以前 | ベンス・ジョーンズ蛋白、hCG | 尿・血液のたんぱく質やホルモン |
| 第二世代 | 1960年代 | AFP、CEA | 胎児のときに作られるたんぱく質 |
| 第三世代 | 1970〜80年代 | CA19-9 など | モノクローナル抗体で見つかった糖鎖抗原 |
| 第四世代 | 1990年代以降 | HER2 たんぱく、p53 たんぱく | がん遺伝子・がん抑制遺伝子が作るもの |
腫瘍マーカーの種類
国立がん研究センターのがん情報サービスは、臓器ごとに次のような腫瘍マーカーを挙げています。
| 臓器 | 主な腫瘍マーカー |
|---|---|
| 肺 | CYFRA(シフラ)、CEA、ProGRP、NSE |
| 胃・大腸 | CEA、CA19-9 |
| 肝臓 | AFP、PIVKA-II、AFP-L3分画 |
| 膵臓 | CA19-9、SPan-1、DUPAN-2、CEA、CA50 |
| 前立腺 | PSA |
| 乳房 | CEA、CA15-3 |
| 卵巣 | CA125 |
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「腫瘍マーカー検査」(2024年7月8日更新)の一覧を表にしたもの。
ひとつのマーカーが1つのがんだけを指すわけではありません。たとえば CEA は大腸がんのほか、肺がん・胃がん・乳がんなどでも上がります。逆に、ひとつのがんに対して複数のマーカーがあり、医師はがんの種類や目的に合わせて組み合わせを選びます。
腫瘍マーカーでみる成分一覧
腫瘍マーカーは、測っている「物質」の種類で見るとすっきりします。たんぱく質に糖がついた糖たんぱく、糖の鎖の形を目印にした糖鎖抗原、酵素、ホルモン、細胞の骨組みのかけらなど、正体はさまざまです。
| マーカー | 物質の種類(正体) | 本来どこで作られるか | 主に見るがん |
|---|---|---|---|
| CEA(癌胎児性抗原) | 糖たんぱく | 胎児の腸・肝臓・膵臓。大人でも大腸などの粘膜の細胞 | 大腸がんなど消化器のがん、肺がん |
| AFP(α-フェトプロテイン) | 糖たんぱく | 胎児の肝臓と卵黄嚢 | 肝細胞がん、胚細胞腫瘍 |
| AFP-L3分画 | 根元にフコースという糖がついた AFP | 肝細胞がんが作る AFP で割合が増える | 肝細胞がん |
| PIVKA-II | 異常プロトロンビン(ビタミンKが足りないときにできる、不完全な血液凝固たんぱく) | 肝臓(正常なプロトロンビンは肝臓で作られる凝固因子) | 肝細胞がん |
| CA19-9 | 糖鎖抗原(シアリルルイスAという糖の鎖)。血液中では主にムチン(粘液のたんぱく質)に乗っている | 唾液腺・膵管などの粘液 | 膵臓がん、胆道がん、胃がん・大腸がん |
| CA125 | ムチン(MUC16)の一部 | 卵管・子宮内膜の粘膜、胸膜・腹膜の膜 | 卵巣がん |
| CA15-3 | ムチン(MUC1)の一部 | 乳腺の分泌細胞 | 乳がん(主に転移・再発の経過観察) |
| PSA(前立腺特異抗原) | 酵素(たんぱく質を分解するセリンプロテアーゼ) | 前立腺。精液をさらさらにする働き | 前立腺がん |
| SCC | たんぱく質分解酵素の働きを止めるたんぱく質(セルピン) | 皮膚や粘膜の扁平上皮 | 子宮頸がん、肺・食道・頭頸部の扁平上皮がん |
| CYFRA(シフラ) | 細胞の骨組み(サイトケラチン19)のかけら | 粘膜の細胞の骨組み | 肺がん(とくに扁平上皮がん) |
| ProGRP | ホルモン(ガストリン放出ペプチド)のもとになるペプチド | 小細胞肺がんの細胞が多く出す | 小細胞肺がん |
| NSE(神経特異エノラーゼ) | 酵素(糖を分解する酵素の神経型) | 神経細胞・神経内分泌細胞 | 小細胞肺がん、神経芽腫 |
| DUPAN-2 | 糖鎖抗原(シアリルルイスC。CA19-9 のひとつ手前の形) | 膵管の粘膜 | 膵臓がん |
| SPan-1 | 糖鎖抗原(シアリルルイスAとシアリルルイスCの両方に反応) | 唾液腺などの粘液 | 膵臓がん |
| CA72-4 | ムチンに似た糖たんぱく(TAG-72)の糖鎖 | 正常な組織にはほとんどない | 胃がん、卵巣がん |
| STN(シアリル Tn) | 糖鎖抗原(ムチン型の糖鎖の根元) | 正常な組織にはほとんどない | 卵巣がん(とくに粘液性)、消化器のがん |
| NCC-ST-439 | 糖鎖抗原(シアリルルイスX) | 唾液腺・気管に少し | 乳がん、胃がん、大腸がん |
| エラスターゼ1 | 膵臓の消化酵素 | 膵臓 | 膵臓がん(膵炎でも上がる) |
| sIL-2R(可溶性インターロイキン2受容体) | 免疫細胞の受容体が血液に出たもの | 活性化した T リンパ球 | 悪性リンパ腫、成人T細胞白血病 |
| hCG | ホルモン(糖たんぱくホルモン) | 胎盤(妊娠で上がる) | 絨毛がん、胚細胞腫瘍 |
| 抗p53抗体 | 自分の体が作った抗体(がん細胞で変化した p53 たんぱくへの抗体) | 免疫細胞 | 食道がん、大腸がん、乳がん |
| HE4 | たんぱく質(プロテアーゼを止めるたんぱく質に似た形) | 精巣上体の粘膜 | 卵巣がん |
出典:Gold・Freedman 1965、Magnani ら 1983、Yin・Lloyd 2001、Liebman ら 1984、Schneider ら 1995、Pujol ら 1993、Miyake ら 1994、Kawa ら 1994、Kirchhoff ら 1991 ほかの原著論文と、日本臨床検査医学会のガイドライン(2005/2006・2021)、NCI の一覧から作成。
表を見ると、本来どこで作られるかの列に、がんではない場所が並んでいることが分かります。腫瘍マーカーは「がんだけが作る物質」ではなく、「がんがあると増えやすい、もともと体にある物質」が大半です。これが、がんでなくても数値が上がる理由のひとつです。
どのマーカーが、どのがんで何%陽性になる?
がんの種類別の陽性率
次の図は、日本臨床検査医学会の JSLM2021 の表1にある「およその感度」です。感度(陽性率)とは、そのがんがある人のうち、腫瘍マーカーが基準値を超える人の割合のことです。
たとえば、膵臓がんの人の約78%で CA19-9 が基準値(37 U/mL)を超え、前立腺がんの人の約80%で PSA が基準値(4 ng/mL)を超える、という意味です。
ただし JSLM2021 自身が、この数字について次のように注意しています。
同じマーカーの同じ腫瘍に対する調査であっても、その陽性率は検査方法、設定されたカットオフ値、対象とした患者集団の病期の分布によって大きく異なるため、感度が特定の数値として定まっているわけではない。
図にないマーカーの報告例も挙げておきます。どれも論文ごとに対象や基準値がちがう数字です。
| マーカー | がん | 報告されている陽性率 | 出典 |
|---|---|---|---|
| CA19-9 | 膵臓がん | 79%(研究ごとに70〜90%) | Goonetilleke・Siriwardena 2007(系統的レビュー) |
| CEA | 胃がん | 21.1% | Shimada ら 2014(日本胃癌学会のタスクフォース) |
| CA19-9 | 胃がん | 27.8% | Shimada ら 2014 |
| CA72-4 | 胃がん | 30.0% | Shimada ら 2014 |
| DUPAN-2 | 膵臓がん | 63% | Gong ら 2025(メタアナリシス) |
| SPan-1 | 膵臓がん | 72.0%(64人) | Takeda ら 1991 |
早いがんほど、腫瘍マーカーは上がりにくい
陽性率は、がんがどこまで進んでいるか(病期、ステージ)で大きく変わります。次の図は、日本臨床検査医学会の2005/2006年版のガイドラインに載っている病期別の陽性率です。
CA19-9 で見ると、胃がんではⅠ期で3%、Ⅳ期で67%。PIVKA-II の肝細胞がんでは、Ⅰ期0%からⅣ期100%まで変わります。図1の「約80%」などの数字は、進んだがんの人も含めた全体の数字です。早く見つけたい段階のがんほど、腫瘍マーカーは上がりにくい――これが、日本臨床検査医学会が「早期発見のスクリーニングには適さない」と書く理由です。
陽性ならがん?「陽性率」と「がんである確率」はちがう
健診で CEA を測った 12,349人の結果
図1の「陽性率」は、がんの人のうち何%が陽性になるかでした。健診を受ける人が知りたいのは逆で、陽性になった人のうち何%が本当にがんか(陽性的中率)です。この2つは、まったくちがう数字になります。
国立がん研究センター中央病院の検診センターで、症状のない人が任意型のがん検診(人間ドックのような検診)を受けたデータがあります。上部・下部の内視鏡で、胃・十二指腸・大腸のがん(論文の分け方では上部・下部の消化管がん)があるかを確かめたうえで、CEA と CA19-9 の成績を調べた研究です(Sekiguchi・Matsuda、Scientific Reports 2020)。
- 胃・十二指腸・大腸のがんが見つかった230人のうち、CEA が基準値を超えていたのは18人(7.8%)でした。212人は基準値以内でした
- CEA が基準値を超えた487人のうち、本当にこれらのがんだったのは18人(3.7%)でした
- CA19-9(基準値 37 U/mL)では、感度7.4%・陽性的中率2.7%でした
- 全身の画像検査も受けた7,616人で、全身のがんを対象にしても、陽性的中率は CEA 4.1%・CA19-9 5.8%でした
- 胃・十二指腸・大腸のがん(12,349人の分析)について、基準値を CEA 10 ng/mL・CA19-9 74 U/mL に上げると、陽性的中率は11.8%・4.9%に上がりましたが、感度は2.6%・1.7%に下がりました
がん患者の病院で測れば70〜80%陽性になるマーカーでも、症状のない人の検診では、がんがあっても1割未満しか陽性にならず、陽性になっても9割以上はがんではなかった、ということです。論文の題名も「CEA と CA19-9 は、消化管と全身のがんの検診には有用性が限られる」でした。
人間ドックで CA19-9 が高かった人のその後
日本の人間ドックの報告も、ほぼ同じ数字です。
| 対象 | CA19-9 が高かった人 | そのうちがんだった人 | 出典 |
|---|---|---|---|
| がん研有明病院の健診センター、延べ32,508件 | 790件(約2.4%) | 再検査した320人のうち8人(2.5%) | 鈴木ら 2015、人間ドック 30:22-29 |
| 人間ドック 15,773人(2010年度) | 308人(2.0%) | 二次健診を受けた243人のうち10人(4.1%)。膵臓がんは4人 | 矢島ら 2014、人間ドック 29:610-615 |
矢島らの報告は、陽性的中率の低さと同時に、CA19-9 の異常が見つかるきっかけになった悪性腫瘍5人(うち膵臓がん3人)で、手術で取りきる治療(治癒切除)ができたことも書いています。著者らは、3か月ごとに CA19-9 の推移を見る方法をとっていました。陽性になった人の多くががんではない一方で、見つかったがんの中には早めに治療できたものもある――この両方が、同じ報告に書かれています。
なぜこんなに低くなるのか

理由は、検診を受ける人の中に、がんの人がとても少ないからです。JSLM2021 は計算例を載せています。感度60%・特異度90%(がんでない人の90%が陰性になる)のマーカーを、がんの人が0.1%しかいない住民1万人に使うと、
- がんの人10人のうち、陽性になるのは6人
- がんでない9,990人のうち、10%の999人が陽性になる
- 陽性の1,005人のうち、がんの人は6人=約0.6%
になります。同じマーカーでも、がんが疑われる人が集まる専門病院で使えば陽性的中率は上がります(2005/2006年版のガイドラインは、感度・特異度80%の CEA で、一般診療所なら約4%、がん専門病院なら約31%という例を挙げています)。JSLM2021 が「その腫瘍を疑わせる症候のある人や発症リスクの高い人に対象を絞って、検査を行う必要がある」と書くのはこのためです。
がんでなくても上がる、がんがあっても上がらない
がん以外で上がる原因
腫瘍マーカーは、がん以外の病気や体の状態でも上がります。主なものを日本臨床検査医学会のガイドラインと論文からまとめました。
| マーカー | がん以外で上がる主な原因 | 数字の例 |
|---|---|---|
| CEA | 喫煙、加齢、肝炎・肝硬変、炎症性腸疾患、膵炎、糖尿病 | 任意型検診で CEA が陽性だった人は、たばこを吸う人12.5%、吸わない人2.8%(Sekiguchi 2020) |
| CA19-9 | 胆石症、胆道炎、閉塞性黄疸、膵炎、子宮内膜症、血糖コントロールの悪い糖尿病 | 胆石症の約20%が陽性(ガイドライン2005/2006) |
| CA125 | 子宮内膜症、月経、妊娠、腹膜炎、胸膜炎、膵炎、肝硬変 | - |
| PSA | 前立腺肥大症、前立腺炎、尿閉、尿道の処置、射精 | 射精の24時間後でも40%の人で上がっていた(20人の研究、Herschman 1997) |
| AFP | 慢性肝炎、肝硬変、妊娠 | 慢性肝炎・肝硬変の20〜40%が陽性(ガイドライン2005/2006) |
| PIVKA-II | ビタミンK不足、ワルファリン(血液をさらさらにする薬)、一部の抗菌薬・抗結核薬、閉塞性黄疸 | - |
| SCC | 皮膚の病気(アトピー性皮膚炎・天疱瘡など)、肺炎・気管支炎、腎不全 | 透析前の腎不全の95.1%が陽性(Odagiri 1991) |
| CYFRA | 肝炎・肝硬変、肺の炎症、腎機能の低下 | 透析を受けている人の57%が基準値超え(Nakahama 1998) |
| ProGRP | 腎機能の低下 | 透析を受けている人の90%が基準値超え(Nakahama 1998) |
| NSE | 脳血管障害、脳炎、溶血(採血後の赤血球の破壊) | - |
出典:日本臨床検査医学会「臨床検査のガイドライン JSLM2021」表1・肝臓癌の章、同 2005/2006年版、Sekiguchi・Matsuda 2020、Herschman ら 1997、Odagiri ら 1991、Nakahama ら 1998。
自転車に長く乗ると PSA が上がるという話もありますが、上がったという研究(Mejak ら 2013、平均9.5%上昇)と、8研究をまとめて意味のある差はなかったという研究(Jiandani ら 2015)があり、結論は分かれています。
がんがあっても上がらない理由
- 早いがん:上の図2のとおり、Ⅰ期では陽性率がぐっと下がります
- CA19-9 を生まれつき作れない人がいる:CA19-9 は、ルイス式血液型という血液型の仕組みで作られる糖の鎖です。ルイス式で「陰性」の人(日本人の約10%)は、膵臓がんがあっても CA19-9 がほとんど上がりません(ガイドライン2005/2006)。日本で手術を受けた膵臓がん2,418人のうち7.7%が、CA19-9 を作らない人でした(Omiya ら 2026)。このような人では DUPAN-2 が役に立つことがあります
- 薬で下がる:前立腺肥大症や男性型脱毛症の治療に使う5α還元酵素阻害薬を飲んでいると、PSA は平均で約半分に下がります(日本泌尿器科学会「前立腺がん検診ガイドライン2018年版」)
結果の判断基準
基準値(カットオフ値)の目安
腫瘍マーカーの結果は、多くの場合「基準値(カットオフ値)を超えたかどうか」で陽性・陰性を分けます。日本臨床検査医学会の JSLM2021 表1に載っている値と、病院の基準値の例を並べます。
| マーカー | JSLM2021 表1のカットオフ値 | 病院の基準値の例 |
|---|---|---|
| CEA | 5.0 ng/mL | 愛知県がんセンター 5.0 以下 |
| AFP | 15 ng/mL | 愛知県がんセンター 10.0 未満 |
| CA19-9 | 37 U/mL | 愛知県がんセンター 37.0 未満、和歌山県立医大 37 以下 |
| CA125 | 35 U/mL | - |
| CA15-3 | 27 U/mL | 愛知県がんセンター 25.0 以下 |
| PSA | 4 ng/mL | 年齢別:50〜64歳 3.0、65〜69歳 3.5、70歳以上 4.0(日本泌尿器科学会 2018年版) |
| PIVKA-II | 40 mAU/mL | 和歌山県立医大 33.3 mAU/mL 以下 |
| SCC | 1.5 ng/mL | 愛知県がんセンター 2.5 以下 |
| CYFRA(シフラ) | 3.5 ng/mL | 愛知県がんセンター 3.5 以下 |
| NSE | 10 ng/mL | - |
| ProGRP | (表に記載なし) | 愛知県がんセンター 81.0 pg/mL 未満 |
| 抗p53抗体 | 1.3 U/mL | - |
出典:日本臨床検査医学会「臨床検査のガイドライン JSLM2021」表1(p.88)、愛知県がんセンター「臨床検査基準値一覧」(2026年2月1日適用)、和歌山県立医科大学附属病院の検査案内、日本泌尿器科学会「前立腺がん検診ガイドライン2018年版」。
同じ AFP でも 15 と 10、SCC でも 1.5 と 2.5 のように、病院や測定キットによって基準値がちがいます。和歌山県立医大は、基準値の根拠を使っている試薬の添付文書としています。国際的な外部精度評価のデータを調べた研究では、CA125・CA15-3・CA19-9 は測定法どうしの差が大きく、最低限の基準も満たしていなかったと報告されています(van Rossum、Clinical Chemistry 2024。抄録と学会の要約で確認)。別の病院で測った値を、そのまま並べて比べないほうがよい理由です。
人間ドックの「A〜E判定」と腫瘍マーカー
日本人間ドック・予防医療学会は、結果を A(異常なし)・B(軽度異常)・C(要再検査・生活改善)・D(要精密検査・治療)・E(治療中)に分ける判定区分を示しています。ただし、2026年度の判定区分表と基本検査項目のどちらにも、腫瘍マーカーは入っていません。人間ドックの結果票にある腫瘍マーカーの判定は、その施設が決めた基準によるものです。
PSA は年齢別の基準値も使われる
日本泌尿器科学会の「前立腺がん検診ガイドライン2018年版」は、PSA の基準値を「4.0 ng/mL、または年齢階層別(50〜64歳 3.0、65〜69歳 3.5、70歳以上 4.0)」とし、次のような流れを示しています。
| PSA の値 | 2018年版ガイドラインが示す次の行動 |
|---|---|
| 1.0 ng/mL 以下 | 3年後に検診 |
| 1.1 ng/mL〜基準値 | 1年後に検診 |
| 基準値を超えた | 前立腺生検ができる泌尿器科専門医へ紹介 |
なお、同じ学会の「2025年版」が2025年9月に出ていますが、この記事では本文を確認できていません。
PSA が 4.1〜10 ng/mL の「グレーゾーン」で生検をしたときに、がんが見つかった割合は、日本の報告で23.6%(浜松労災病院、Kobayashi ら 2004)から46%(生検の本数を増やした方法、Ito ら 2002)でした。逆に、米国の大規模試験では、PSA が一度も4.0を超えなかった男性2,950人に生検をしたところ、15.2%に前立腺がんが見つかっています(Thompson ら、NEJM 2004)。
結果はどうみる?
「少し超えた」と「とても高い」はちがう
日本臨床検査医学会の JSLM2021 は、結果の見方について次のように書いています(p.87〜88)。
実際には、マーカーの陽性・陰性だけで判断するわけではなく、数値の程度、すなわち、カットオフ値をわずかに超えた陽性か、異常な高値かによって、臨床上の判断は異なってくる。
腫瘍マーカーとなる物質は腫瘍細胞だけが産生するわけではなく、正常細胞からも産生され、炎症、加齢、妊娠、腎機能低下、薬剤などによって上昇する腫瘍マーカーもあるため、結果の解釈には症状、身体所見、他の検査結果などを総合して判断する必要がある。
同じ文書は、AFP や PSA が少し上がったときは、より特異度の高い AFP-L3分画や free PSA/総PSA 比を確認すること、複数のマーカーを組み合わせること、時間を追って推移を見ることも有用だとしています。
ここから読み取れる見方を、ガイドラインの言葉の範囲でまとめると次のようになります。
| 確かめること | なぜ | 根拠 |
|---|---|---|
| どれくらい超えたか | わずかに超えたのか、とても高いのかで判断が変わる | JSLM2021 |
| 前回までの値と比べてどう動いたか | 推移を見ることが有用とされる。別の病院の値とは基準値・測定法がちがうことがある | JSLM2021、van Rossum 2024 |
| がん以外で上がる原因がないか | 喫煙・加齢・妊娠・月経・腎機能の低下・薬・良性の病気でも上がる | JSLM2021 表1 |
| 症状や、ほかの検査の結果 | 腫瘍マーカーだけでは決められず、総合して判断する | JSLM2021 |
腫瘍マーカーが高かったときに、どの検査をどの順番で受けるかを一般向けに定めた学会・公的機関の手順は、調べた範囲では見つかりませんでした。PSA については、前の節の泌尿器科学会の流れがあります。結果票で「要精密検査」となっていたら、その健診機関の指示に従い、医療機関で相談してください。
「腫瘍マーカーで再検査」は、がん検診の精密検査にはならない
自治体のがん検診(胃・大腸・肺・乳・子宮頸)で「要精密検査」になった人が、精密検査の代わりに腫瘍マーカーだけを測っても、それは精密検査として扱われません。厚生労働省の資料(「がん検診事業のあり方について」令和6年7月)は、報告の作成要領として「精密検査として不適切な検査(便潜血検査の再検、CT 検査や腫瘍マーカー等)が行われたものについては未受診として計上すること」と書いています。
腫瘍マーカーの費用
保険で測れるのは「がんが強く疑われるとき」
健康保険で腫瘍マーカーを測れるのは、診療報酬の点数表のルールで「診療及び腫瘍マーカー以外の検査の結果から悪性腫瘍の患者であることが強く疑われる者」とされています。原則として、診断が確定するまでに1回です。症状のない人が健診として測るときは保険が使えず、自費になります(健康診断は保険診療の対象外)。
例外として、肝硬変や B型・C型の慢性肝炎の人の AFP・PIVKA-II(月1回まで)、子宮内膜症の CA125 などは、決められた条件で保険で測れます。PSA は、4.0 ng/mL 以上でがんと確定しない場合に限り、3か月に1回・3回まで測れます。
保険の点数(2026年6月施行の令和8年度版)
| 項目 | 点数(1点=10円) |
|---|---|
| AFP | 98点 |
| CEA | 99点 |
| SCC | 101点 |
| CA15-3 | 112点 |
| DUPAN-2 | 115点 |
| PSA、CA19-9 | 121点 |
| PIVKA-II | 131点 |
| CA125 | 136点 |
| NSE | 142点 |
| SPan-1 | 144点 |
| シフラ | 154点 |
| 抗p53抗体 | 163点 |
| ProGRP | 175点 |
| AFP-L3% | 185点 |
| sIL-2R | 438点 |
| 2項目まとめて | 230点 |
| 3項目まとめて | 290点 |
| 4項目以上まとめて | 385点(何項目でも同じ) |
出典:令和8年厚生労働省告示第69号 別表第一(医科診療報酬点数表)D009 腫瘍マーカー。ここに挙げた項目と「まとめ」の点数は令和6年度版と同じです(令和8年度に下がったのは CSLEX と γ-Sm の2項目だけ)。
窓口で払う額の目安
検査の点数に、生化学的検査(II)判断料(144点)と採血料(静脈、40点)を足した「検査関係」の目安です。診察料(初診料291点・再診料76点)や、病院ごとの加算は別にかかります。
| ケース | 合計点数 | 10割 | 3割負担 | 1割負担 |
|---|---|---|---|---|
| CEA だけ | 283点 | 2,830円 | 約850円 | 約280円 |
| PSA だけ | 305点 | 3,050円 | 約920円 | 約310円 |
| CA125 だけ | 320点 | 3,200円 | 約960円 | 約320円 |
| 2項目まとめて | 414点 | 4,140円 | 約1,240円 | 約410円 |
| 4項目以上まとめて | 569点 | 5,690円 | 約1,710円 | 約570円 |
| 4項目以上+再診料 | 645点 | 6,450円 | 約1,940円 | 約650円 |
令和8年度の点数表から計算(10円未満は四捨五入した目安)。
がんと分かったあとの経過観察
がんと確定した人が、腫瘍マーカーを使って計画的に治療の管理を受けるときは、「悪性腫瘍特異物質治療管理料」になります。1項目で360点、2項目以上で400点(月1回まで)で、検査と採血の費用もここに含まれます。3割負担なら1か月あたり約1,080〜1,200円です。最初の月は150点が加わります(前の月に診断のための腫瘍マーカー検査を保険で受けていた場合は加わりません)。
人間ドック・健診のオプション(自費)
自費の料金は、施設によって2倍以上ちがいます。公的病院・大学病院などの健診センターが公表している料金の例です(2026年10月1日に各施設の料金表で確認。税込)。
| 施設(地域) | 単品の例 | セットの例 |
|---|---|---|
| 札幌複十字総合健診センター(北海道) | PSA 1,980円、CA125 2,090円 | CEA・シフラ・ProGRP 4,290円、男性・女性セット 各8,800円 |
| JCHO 札幌北辰病院(北海道) | PSA 2,530円 | CEA・AFP・CA19-9 4,250円 |
| 日本大学病院 健診センター(東京) | CEA・AFP 各2,420円、PSA・CA19-9 各2,750円、CA125 3,080円 | - |
| 大森赤十字病院(東京) | PSA 3,080円、CA125 3,520円 | AFP・CEA・CA19-9・ペプシノーゲン 8,800円 |
| 横浜市立みなと赤十字病院(神奈川) | - | 6項目(男性:PSA・CEA・CYFRA・CA19-9・APOA2・DUPAN-2 など)各13,200円 |
| 国立病院機構 まつもと医療センター(長野) | CA125 1,760円、AFP 1,210円 | CEA・CA19-9 2,750円 |
| 伊勢赤十字病院(三重) | - | 男性:CEA・CA19-9・AFP・PSA/女性:PSA の代わりに CA125 各5,810円 |
| ベルランド総合病院(大阪府堺市) | PSA・CA125 各2,200円 | CEA・CA19-9 2,200円、CYFRA・ProGRP 4,950円 |
| 福岡赤十字病院(福岡) | PSA 1,980円、CA125 2,420円 | CEA・AFP・CA19-9 4,950円 |
出典:各施設の人間ドック・健診のオプション料金表(2026年10月1日確認)。料金は改定されることがあるため、申し込む前に施設で確認してください。
単品はおおむね2,000〜3,000円台、3〜4項目のセットは4,000〜9,000円台でした。
検診として受けるべき? 日本と海外の評価
日本:国の検診に腫瘍マーカーは入っていない
国が市区町村に勧めているがん検診は、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(令和7年12月一部改正、令和8年4月適用)で決まっています。
| がん検診 | 検査 | 対象 |
|---|---|---|
| 胃がん | 問診+胃部X線検査 または 胃内視鏡検査 | 50歳以上(X線は当分の間40歳以上も可) |
| 子宮頸がん | 細胞診 または HPV検査単独法 | 20歳以上の女性(HPV検査単独法は30歳以上) |
| 肺がん | 質問+胸部X線検査 | 40歳以上 |
| 乳がん | 質問+マンモグラフィ | 40歳以上の女性 |
| 大腸がん | 問診+便潜血検査 | 40歳以上 |
出典:厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」。
この中に腫瘍マーカーはありません。国立がん研究センターのがん情報サービスは、人間ドックのオプションについて次のように書いています。
オプション項目として、高性能の検査機器や最先端の技術(CT、PET、腫瘍マーカーなど)を使った検査が選べるようになっています。これらはがんの再発や転移を調べるための検査としては大変重要ですが、がん検診としての効果(がん死亡を減らす効果が確実、かつ、利益が不利益を上まわる)は認められていません。 (国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診について」、2026年4月1日確認)
PSA だけは、日本の中でも評価が分かれる
| 機関 | PSA 検診の評価 |
|---|---|
| 国立がん研究センター(有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン、2008年度版・2011年の更新でも据え置き) | 推奨グレードI。死亡を減らす効果があるかを判断する証拠が不十分で、市区町村の検診(対策型)としては勧めない。人間ドックなど(任意型)で行うなら、効果が不明であることと過剰診断などの不利益を説明する必要がある |
| 日本泌尿器科学会(前立腺がん検診ガイドライン2018年版) | PSA 検診を「強く推奨する」。利益と不利益を受診する人に正しく伝えたうえで行う |
| 市区町村の実態(2022年) | 全国の79.1%の市区町村が PSA 検診を行っていた(国立がん研究センターの集計、厚生労働省資料) |
「過剰診断」とは、検診をしなければ一生気づかずに過ごせたはずの、進みのゆっくりしたがんまで見つけてしまい、治療の負担を受けることです。前立腺がんでは、これが不利益として議論されてきました。
海外:PSA は「個別に判断」、CA125 は「勧めない」
| 対象 | 機関・研究 | 内容 |
|---|---|---|
| PSA | 米国予防医学専門委員会(USPSTF、2018年) | 55〜69歳は「受けるかどうかは個人の判断」(グレードC)。70歳以上は「勧めない」(グレードD)。2026年10月時点で改訂作業中 |
| PSA | 欧州の ERSPC 試験(8か国、55〜69歳 162,236人、23年追跡。NEJM 2025) | 検診に招かれた群で前立腺がんによる死亡が13%減った(絶対的な減り方は0.22%)。前立腺がんと診断される人は1.30倍になった |
| PSA | コクラン・レビュー(6つのランダム化比較試験、2026年更新) | 検診は前立腺がんによる死亡を「おそらく減らす」。2013年版の「はっきりした減少なし」から結論が変わった |
| CA125(卵巣がん) | USPSTF(2018年) | 症状のない女性への卵巣がん検診は「勧めない」(グレードD) |
| CA125(卵巣がん) | 英国 UKCTOCS 試験(閉経後の女性 202,562人、中央値16.3年。Lancet 2021) | CA125 を使う検診でも、卵巣がん・卵管がんによる死亡は減らなかった |
| CA125(卵巣がん) | 米国 PLCO 試験(78,216人。JAMA 2011) | 死亡は減らなかった。偽陽性になった3,285人のうち1,080人が手術を受け、163人(15%)に重い合併症が起きた |
| 腫瘍マーカー全般 | 米国臨床生化学アカデミー(NACB)のガイドライン(2008年) | 一般の人の検診には勧めていない(CA125 は、超音波と組み合わせて高リスクの女性に限って勧めている) |
PLCO 試験の数字は、偽陽性が「もう一度測ればすむ」だけでは終わらないことを示しています。陽性になれば精密検査を受け、なかには体に負担のある検査や手術に進む人もいます。
国が勧めるがん検診との関係
ここまでをまとめると、症状のない人ががんを早く見つけるための検査として、国や学会が勧めているのは腫瘍マーカーではなく、前の節の表にある5つのがん検診です。国立がん研究センターのがん情報サービスは「5つのがん検診以外の受診はお勧めできません」としています。
腫瘍マーカーを人間ドックのオプションで付けるかどうかは、自費で受ける人が決めることです。そのときは、
- 5つのがん検診を、決められた間隔で受けているか
- 陽性になったら、どこで何の精密検査を受けることになるか
- 陽性でも9割以上はがんではなかった、という健診のデータ(前の節)
を先に知っておくと、結果を受け取ったときに慌てずにすみます。
がんと分かったあとの使い方
腫瘍マーカーが本来の力を出すのは、がんと分かったあとです。JSLM の2005/2006年版のガイドラインは、陽性のときには病期の判定、がんの組織の種類の推定、手術・抗がん剤治療の効果の判定、再発の早期発見に力を発揮すると書いています。
| がん | 治療後の経過観察での扱い | 出典 |
|---|---|---|
| 大腸がん(米国) | 診察・CEA を3〜6か月ごとに5年間 | 米国臨床腫瘍学会(ASCO)のガイドライン(2013年) |
| 大腸がん(日本) | 術後の経過観察で血清 CEA と CA19-9 を測る | 大腸癌研究会「大腸癌治療ガイドライン 医師用 2024年版」 |
| 乳がん(米国) | 症状のない人の経過観察に腫瘍マーカー(CEA・CA15-3 など)は勧めない | ASCO のガイドライン(2013年) |
| 前立腺がん | PSA は再発の発見と治療の監視に使える | NACB のガイドライン(2008年) |
大腸がんの術後に CEA を測っても、それだけでは再発を見逃すことがあります。コクラン・レビュー(2015年)は、基準値5のときの感度を71%とし、「CEA だけで使うには感度が足りない」としています。英国のランダム化比較試験(FACS、1,202人)では、CEA で経過を見た群は、治療で治せる段階の再発を多く見つけましたが(2.3% 対 6.7%)、死亡数にはっきりした差は出ませんでした。
新しい血液・尿のがん検査は?
線虫を使った尿の検査、血液中のマイクロRNA、血液中のがん由来の DNA を調べて多くのがんを一度に探す検査(多がん早期検出検査、MCED)など、新しい検査が増えています。
- 国立がん研究センターは「血液や尿からがんのリスクを調べる新たな検査法も開発されていますが、がん検診としての効果はまだ十分に検証されていません」とし、これらの検査が異常になったあとにどう行動すればよいかの流れも示されていない、と書いています
- 線虫検査やマイクロRNA の検査を名指しで評価した国・学会の見解は、調べた範囲では見つかりませんでした
- 多がん早期検出検査(Galleri)を英国で14万人あまりに試したランダム化比較試験(NHS-Galleri)は、2026年9月の論文で、主な目的(ステージⅢ・Ⅳで見つかるがんを減らすこと)を達成しなかったと報告されました。がんを見つける感度は26.7〜37.2%でした(Neal ら、Nature Medicine 2026)。死亡を減らすかどうかのデータはまだありません
- 米国の PATHFINDER 研究(6,662人)では、この検査で陽性になった92人のうち57人(62%)はがんではありませんでした(Lancet 2023)
- 血液中のがんの DNA を調べる検査(リキッドバイオプシー)が日本の保険で使われているのは、がんと診断された人の治療薬を選ぶためで、検診のためではありません(JSLM2021)
よくある疑問
基準値以内なら、がんはない?
いいえ。早いがんでは陽性率が低く(図2)、健診の研究では、見つかった胃・十二指腸・大腸のがんの9割以上で CEA は基準値以内でした(図3)。日本臨床検査医学会も、早期がんでは上がらないとしています。
たばこを吸うと上がる?
CEA は喫煙で上がることが知られています(JSLM2021 表1)。国立がん研究センターの検診では、CEA が基準値を超えた人の割合は、たばこを吸う人で12.5%、吸わない人で2.8%でした(Sekiguchi・Matsuda 2020)。喫煙そのものと肺がんの関係は タバコと肺がんの記事 でまとめています。
妊娠中・月経中は?
AFP と CA125 は妊娠で、CA125 は月経でも上がります(JSLM2021 表1)。
飲んでいる薬で変わる?
前立腺肥大症の薬デュタステリド(アボルブ)は、添付文書に「投与6ヵ月後にPSA値を約50%減少させる」とあり、6か月以上飲んでいる人は「測定値を2倍した値を目安として基準値と比較すること」とされています。男性型脱毛症の薬(フィナステリド・デュタステリド)でも PSA は下がります。ワルファリンや一部の抗菌薬では PIVKA-II が上がることがあります。飲んでいる薬は、検査を受けるときに伝えてください。
甲状腺がんの腫瘍マーカーは?
甲状腺がんでは、全摘後のサイログロブリンや、髄様がんのカルシトニンと CEA が使われます。CA19-9 は甲状腺がんの標準的な腫瘍マーカーではありません。詳しくは 甲状腺がんの記事 にまとめています。
まとめ
| 論点 | 分かっていること | 主な出典 |
|---|---|---|
| 腫瘍マーカーとは | がん細胞が多く作る物質。多くは正常な細胞も作る | がん情報サービス、NCI |
| はじまり | 1847年のベンス・ジョーンズ蛋白、1960年代の AFP・CEA、1975年のモノクローナル抗体以降の CA19-9・CA125 など | 原著論文、JSLM 2005/2006 |
| がん別の陽性率 | 膵臓がんの CA19-9 約78%、前立腺がんの PSA 約80% など。早いがんほど低い(胃がんの CA19-9 はⅠ期3%) | JSLM2021 表1、JSLM 2005/2006 |
| 陽性ならがん? | 健診で CEA が陽性の人のうちがんは3.7%。CA19-9 は2.5〜4.1% | Sekiguchi 2020、人間ドック学会誌 |
| がん以外で上がる | 喫煙・妊娠・月経・腎機能の低下・薬・良性の病気 | JSLM2021 表1 ほか |
| 判断基準 | 基準値は病院・試薬でちがう。程度・推移・ほかの検査と合わせて判断 | JSLM2021、各病院の基準値 |
| 費用 | 保険は「がんが強く疑われるとき」だけ。3割で約850〜1,710円(検査関係)。自費は単品2,000〜3,000円台 | 令和8年度点数表、各施設の料金表 |
| 検診として | 国の5つのがん検診に入っていない。PSA は日本でも海外でも評価が分かれる。CA125 の卵巣がん検診は死亡を減らさなかった | 厚労省の指針、国立がん研究センター、USPSTF、UKCTOCS |
| がんと分かったあと | 治療効果の判定・再発の監視に使う | JSLM、ASCO |
参考にした資料
定義・総論
- 国立がん研究センター がん情報サービス「腫瘍マーカー検査」(2024年7月8日更新). https://ganjoho.jp/public/dia_tre/inspection/marker.html
- 日本臨床検査医学会「臨床検査のガイドライン JSLM2021」腫瘍マーカー検査・コンパニオン診断検査(p.87-91)、肝臓癌(p.334-336). https://jslm.org/books/guideline/2021/gl/JSLM_GL2021.pdf
- 日本臨床検査医学会「臨床検査のガイドライン 2005/2006」腫瘍マーカーの見方(p.298-306). https://www.jslm.org/books/guideline/05_06/298.pdf
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基準値・結果の見方
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- 和歌山県立医科大学附属病院 検査案内(CA19-9、PIVKA-II)
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- 日本人間ドック・予防医療学会「判定区分(2026年4月1日改定)」. https://www.ningen-dock.jp/ningendock/wp-content/uploads/2026/02/2026hanteikijun.pdf
- 日本泌尿器科学会「前立腺がん検診ガイドライン2018年版」. https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/32_prostate_cancer_screening_2018.pdf
- Kobayashi T, et al. Urology. 2004;63:727-731. PMID 15072889 / Ito K, et al. Cancer. 2002;95:2112-2119. PMID 12412164
- Thompson IM, et al. N Engl J Med. 2004;350:2239-2246. PMID 15163773
- アボルブカプセル0.5mg 添付文書(2025年8月改訂 第2版). https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/340278_2499011M1027_1_15
- 厚生労働省「がん検診事業のあり方について」(令和6年7月). https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001280634.pdf
費用
- 診療報酬の算定方法の一部を改正する件(令和8年厚生労働省告示第69号)別表第一 医科診療報酬点数表. https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001686842.pdf
- 令和6年厚生労働省告示第57号 別表第一. https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001251499.pdf
- しろぼんねっと「D009 腫瘍マーカー」「B001の3 悪性腫瘍特異物質治療管理料」(令和8年). https://shirobon.net/
- 各施設の人間ドック・健診オプション料金表(札幌複十字総合健診センター、JCHO 札幌北辰病院、日本大学病院、大森赤十字病院、横浜市立みなと赤十字病院、国立病院機構 まつもと医療センター、伊勢赤十字病院、ベルランド総合病院、福岡赤十字病院。2026年10月1日確認)
検診としての評価
- 厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(令和7年12月一部改正). https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001642974.pdf
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診について」. https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/about_scr01.html
- 国立がん研究センター「有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン」. https://canscreen.ncc.go.jp/guideline/zenritsusengan.html
- U.S. Preventive Services Task Force. Prostate Cancer: Screening(2018)/ Ovarian Cancer: Screening(2018). https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/
- Roobol MJ, et al. N Engl J Med. 2025;393:1669-1680(ERSPC 23年). PMID 41160819
- Franco JV, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2026;CD004720. PMID 42134821
- Menon U, et al. Lancet. 2021;397:2182-2193(UKCTOCS). PMID 33991479
- Buys SS, et al. JAMA. 2011;305:2295-2303(PLCO). PMID 21642681
- Sturgeon CM, et al. Clin Chem. 2008;54:e11-79(NACB). PMID 19042984
がんと分かったあと・新しい検査
- Meyerhardt JA, et al. J Clin Oncol. 2013;31:4465-4470. PMID 24220554 / Khatcheressian JL, et al. J Clin Oncol. 2013;31:961-965. PMID 23129741
- 大腸癌研究会「大腸癌治療ガイドライン 医師用 2024年版」. https://www.jsccr.jp/guideline/2024/particular.html
- Nicholson BD, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;CD011134. PMID 26661580 / Primrose JN, et al. JAMA. 2014;311:263-270(FACS). PMID 24430319
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