説の検証確認日 2026.09.28

油のとりすぎで認知症やうつ病になる? 研究で分かっていること

植物油に多いリノール酸などの多価不飽和脂肪酸(PUFA)を避けよう、という考え方があります(「プーファ・フリー」と呼ばれることもあります。書籍では『[図解]その油が寿命を縮める』『オメガ3神話の真実』など)。その中では、「油のとりすぎがアルツハイマー病やうつ病の原因になる」とも言われます。

この記事では、人を対象にした研究を中心に、どこまで分かっているのかを整理します。

植物油の種類による成分の違いや、ラベルの「植物油脂」の読み方は、植物油脂の記事 にまとめています。

はじめに:言葉の整理

  • 多価不飽和脂肪酸(PUFA):分子の中に二重結合が2つ以上ある脂肪酸。酸化しやすい
  • n-6系(オメガ6):大豆油・とうもろこし油などに多いリノール酸が代表
  • n-3系(オメガ3):なたね油・えごま油などのα-リノレン酸や、魚に多いEPA・DHA
  • 4-HNE(4-ヒドロキシノネナール):多価不飽和脂肪酸が酸化してできる物質(過酸化脂質からできるアルデヒドの一種)

認知症(アルツハイマー病)

確かなこと:アルツハイマー病の脳では、過酸化脂質が増えている

亡くなった方の脳を調べた研究では、アルツハイマー病の人の海馬などで4-HNEが増えていました。症状が出る前の段階の人でも、海馬で増えていたという報告があります。

ただし、これは「脳の中で酸化が起きている」ことを示すもので、食べた油が原因かどうかは別の問題です。マウスの餌のリノール酸を増やした実験では、脳のリノール酸由来の酸化物は増えた一方、脳の4-HNEは増えませんでした。

人の追跡研究:結果は一致していない

研究 結果
米シカゴの高齢者 815人(2003年) 飽和脂肪酸が多い人はアルツハイマー病が2.2倍、トランス脂肪酸が多い人は2.4倍。反対に、植物性の脂肪が多い人ほどリスクが低かった。n-6系脂肪酸も低い傾向(統計的にははっきりしない)
同じシカゴの高齢者 2,560人の認知機能を6年追跡(2004年) 飽和脂肪酸・トランス脂肪酸が多い人ほど認知機能の低下が速かった。植物性の脂肪の量そのものとは関連なし。飽和脂肪酸に対して多価不飽和脂肪酸の割合が高い人では低下がゆるやかだった(一部の人に絞った分析)
フランス3都市の高齢者 8,085人(2007年) n-6系の多い油をいつも使い、n-3系の油や魚で補っていない人は、認知症が2.12倍(アルツハイマー病になりやすい遺伝子型を持たない人の場合)。魚を週1回以上食べる人はアルツハイマー病が少なかった
遺伝子を使った研究(2024年) 血中の脂肪酸に占めるリノール酸の割合が高くなりやすい体質の人ほど、認知機能テストの成績がよかった

「植物油をとると認知症になる」と言える一貫した結果はありません。一方、フランスの研究のように、n-6系に偏り、魚やn-3系が少ない食事では、リスクが高かったという報告もあります。

うつ病

揚げ物をよく食べる人は、不安・うつが多かった

約14万人を追跡した研究(2023年)では、揚げ物をよく食べる人は、そうでない人より不安が12%、うつが7%多く、特にフライドポテトで関連が強く出ました。ただし、この研究で仕組みとして調べられたのは、油そのものではなく、揚げる過程でできるアクリルアミド(魚の一種での実験)です。また観察研究なので、揚げ物の多い食生活全体の影響と分けることはできていません。

リノール酸とうつ:研究が少なく、決着していない

研究 結果
フィンランドの成人 4,856人を約10年追跡(2009年) リノール酸の摂取が多い男性で、重いうつ状態が2.34倍。女性ではオリーブ油に多いオレイン酸が多い人ほど少なかった
イランの成人 3,362人(2022年、一時点の調査) リノール酸が多い人でうつが1.41倍。著者自身が「追跡研究での確認が必要」としている

関連を示す研究はありますが、数が少なく、同じ結果がくり返し確かめられた段階ではありません。

n-3系(オメガ3)のサプリメントでうつは良くなる?

臨床試験をまとめたコクランの分析(2021年)では、うつの症状はわずかに改善したものの、臨床的に意味のある差とは言えず、証拠の確かさも「非常に低い」とされました。「オメガ3でうつが治る」とも、「オメガ3がうつを悪化させる」とも言えないのが現状です。

よく引用されるが、注意が必要な研究

植物油と脳の話でよく引き合いに出される研究の中には、論文の内容と紹介のされ方がずれているものがあります。

  • 大豆油で脳の遺伝子が変わったマウスの研究(2020年):大豆油を与えたマウスで、脳(視床下部)の遺伝子の働きが変わったのは事実です。ただし、リノール酸を減らした大豆油でも似た変化が起きたため、著者は、変化の中心だったオキシトシン(ホルモン)の遺伝子の変化について「リノール酸が原因ではない」と推定しています
  • 高脂肪の餌を3日食べたマウスで記憶が落ちた研究(2024年):変化が起きたのは、アルツハイマー病になるよう遺伝子を改変したマウスだけで、普通のマウスでは起きませんでした。植物油だけを調べた研究でもありません
  • ストレスで脳にできるホルムアルデヒドがうつに関わるという研究(2025年):論文が調べたのはストレスとホルムアルデヒドの関係で、食べた油との関係は調べていません

まとめ

  • アルツハイマー病の脳で過酸化脂質が増えているのは確か。ただし、食べた油が原因とは示されていない
  • 植物油と認知症の人の研究は割れている。植物性の脂肪がむしろリスク低下と関連した研究がある一方、n-3系で補わずn-6系の油ばかり使う人でリスクが約2倍という研究もある。シカゴの研究でリスクが高かったのは、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸のほうだった
  • つまり「植物油か、そうでないか」より、脂肪の種類のバランス(飽和・トランスが多すぎないか、n-3系が足りているか)が問われている
  • 揚げ物の多い食生活と不安・うつの関連は大規模研究で出ている。ただし、油そのものが原因かは分かっていない
  • n-6系に偏らず、魚などのn-3系もとることは、どちらの立場の研究とも矛盾しない

ウラヨミの考え方

「油で脳が壊れる」と言える人の研究はありません。一方で、揚げ物の多い食生活や、n-6系に偏った食事には注意信号があります。どちらにしても、まず何の油が使われているかが分からなければ、バランスを考えることもできません。ウラヨミでは商品ページで、油の種類が表示されているかを確認して書いていきます。油の種類の見分け方は 植物油脂の記事 をご覧ください。

参考にした資料

  • Morris MC, et al. Arch Neurol 2003, doi:10.1001/archneur.60.2.194(脂肪の種類とアルツハイマー病)
  • Morris MC, et al. Neurology 2004, doi:10.1212/01.WNL.0000123250.82849.B6(脂肪の摂取と6年間の認知機能の変化)
  • Barberger-Gateau P, et al. Neurology 2007, doi:10.1212/01.wnl.0000278116.37320.52(フランス3都市研究)
  • J Alzheimers Dis 2024, doi:10.3233/jad-240715(血中脂肪酸と認知機能、NHANES とメンデルランダム化)
  • Free Radic Biol Med 2010, doi:10.1016/j.freeradbiomed.2010.02.016(発症前アルツハイマー病の脳の4-HNE・アクロレイン)
  • J Neuropathol Exp Neurol 1998, doi:10.1097/00005072-199805000-00005(アルツハイマー病の脳の4-HNE)
  • Biochim Biophys Acta Mol Cell Biol Lipids 2018, doi:10.1016/j.bbalip.2018.07.007(リノール酸を増やしたマウスの脳の酸化脂質と4-HNE)
  • Wang A, et al. PNAS 2023, doi:10.1073/pnas.2221097120(揚げ物と不安・うつ)
  • Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry 2009, doi:10.1016/j.pnpbp.2009.05.002(フィンランドのリノール酸と重いうつ状態)
  • Front Nutr 2022, doi:10.3389/fnut.2022.841282(イランのリノール酸と心理的な不調)
  • Appleton KM, et al. Cochrane Database Syst Rev 2021, doi:10.1002/14651858.CD004692.pub5(オメガ3とうつ病)
  • Endocrinology 2020, doi:10.1210/endocr/bqz044(大豆油とマウス視床下部の遺伝子)
  • Brain Behav Immun 2024, doi:10.1016/j.bbi.2024.07.021(短期の高脂肪食とアルツハイマー病モデルマウス)
  • Mol Psychiatry 2025, doi:10.1038/s41380-025-03405-2(ストレス由来のホルムアルデヒドとうつ)

※この記事は、特定の食品や油の健康効果・病気の予防をうたうものではありません。気分の落ち込みやもの忘れが続くときは、医師にご相談ください。

関連する読みもの・データベース

この記事は、公的機関の資料と研究をもとに表示のルールや評価を整理したもので、特定の食品や添加物の安全性・危険性を判定するものではありません。制度や海外の規制は変わることがあります(確認日 2026.09.28)。