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ラベルの読み方日本と海外の違い説の検証確認日 2026.10.03

トランス脂肪酸は体に悪い? 心臓病の研究・世界の規制と日本に規制がない理由・多い食品と日本人の摂取量

PR この記事には、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピングのアフィリエイト広告のリンク(「楽天市場で見る」など)を含みます。書いている内容は、広告の有無と関係なく、公的機関の資料と論文をもとにしています。

「マーガリンはトランス脂肪酸だらけだから体に悪い」「アメリカやヨーロッパでは禁止されているのに、日本は野放し」「パンやお菓子の『トランス脂肪酸ゼロ』は本当にゼロなのか」。トランス脂肪酸には、こんな話がつきまといます。

一方で、日本の国の機関は「通常の食生活では、健康への影響は小さい」と評価しています。どちらが本当なのでしょうか。

この記事では、

  • トランス脂肪酸はいつ、どうやって見つかり、なぜ問題にされたのか
  • 体に何が起きるのか。心臓病・がん・認知症などの研究は、どこまで言えているのか
  • 世界の規制はどうなっているのか。日本に規制も表示の義務もないのはなぜか
  • どんな食品に多いのか。サラダ油にもあるというのは本当か
  • 日本人はどのくらい食べているのか。平均の「裏側」はどうなっているのか
  • 減らした分、何が増えたのか。バターに戻せばよい、という話ではないのはなぜか
  • ラベルの「0g」「ゼロ」の読み方と、自分で量を計算する方法

を、国の統計、法令、公的機関の資料、論文で確かめます。数字は「どの調査の、いつの、何の値か」を必ず添えます。

よく打たれる疑問と、この記事の答えの場所

Google の検索候補(2026年10月3日に日本語で取得)に、「マーガリン」「ショートニング」「トランス脂肪酸」のあとに続けて打たれる言葉が、あわせて2,031種ありました。そのうち、この記事のテーマに当たるものを数えると、次のとおりでした。検索の回数ではなく、「実際に打たれている問いの幅」です。

疑問 当たる候補の数 答えの場所
多い食品は? ランキングは? 67 トランス脂肪酸が多い食品
「ゼロ」「不使用」は本当にゼロ? 57 ラベルの読み方と自分で計算する方法
天然(バター・チーズ・牛乳)は? 37 牛乳やバターの天然のトランス脂肪酸
海外の禁止国・規制は? 36 世界の規制はどこまで進んだか
飽和脂肪酸とどっちが悪い? 27 飽和脂肪酸との比べ方
なぜ悪い? 何が悪い? 25 体に何が起きるのか
妊娠中・子ども・認知症・がん・太る 16 ほかの病気との関係
日本はなぜ規制しない? 15 日本はなぜ規制しないのか

英語(日本の外でよく読まれる側)では、候補の傾向が少し違います。英語版 Wikipedia の「Trans fat」は年に約22万回(2024年)読まれていて、日本語版の「トランス脂肪酸」の約4万回(2024年)の5倍以上です。ただし、Wikipedia 全体の閲覧が2025年から大きく減っているので、年ごとの増減を話題の盛り上がりとは読みません。

シリーズの3本

  • マーガリンの記事:マーガリンの歴史・作り方・バターやファットスプレッドとの違い、「プラスチック」「日本だけ」説の検証
  • ショートニングの記事:ショートニングの原料・パンやお菓子に使う理由、「発がん性」説、代わりの油脂
  • トランス脂肪酸の記事:この記事。トランス脂肪酸そのものの研究・規制・含有量・摂取量

結論

  • トランス脂肪酸は、油の分子の「形」が変わった脂肪酸です。油に水素を加えて固めるとき(部分水素添加)にできるほか、植物油の精製の高温の「脱臭」でもできます。牛や羊の胃の中の微生物でもできるので、牛乳・バター・牛肉にも天然のものがあります
  • 確かなのは2点です。血中のLDLコレステロールが上がり、HDLが下がること(食事を決めて食べてもらう試験)。冠動脈疾患との関連(追跡研究)です。1990年の試験(59人・各3週間)では、LDLが14mg/dL高く、HDLが7mg/dL低くなりました。2015年のメタ分析では、トランス脂肪酸が多い人は冠動脈疾患が1.21倍、工業由来に限ると1.42倍でした
  • 心臓病そのものを、試験で調べた研究はありません。追跡研究は食事アンケートにもとづく観察研究なので、「原因だ」とは言い切れません。がん・認知症・不妊・うつ・糖尿病・アレルギーは、研究が割れていて因果は言えません(食品安全委員会は多くを「結論できない」としています)
  • 日本には、含有量の上限も表示の義務もありません。食品表示基準(2015年)に「トランス脂肪酸」の語は0件で、消費者庁の指針(2011年)にそって、会社が自主的に書いています。「0g」と書けるのは、100gあたり0.3g未満のときです。規制しない理由は「平均的な日本人の摂取量がエネルギー比1%未満だから」で、国は「増える傾向があれば、規制や義務化を検討する」としています
  • 世界では、2023年末までに53か国(世界人口の46%)が、WHOの勧める「ベストプラクティス」の政策を実施しています。日本は含まれません。WHOの報告書は、日本を「新たに政策を入れれば世界の負担の90%を減らせる8か国」のひとつに挙げています。ただし、日本が評価書で見ている「平均の摂取量」と、WHOが見ている「国の数と人口」は、物差しが違います
  • 日本の食品の濃度は、規制がなくても大きく下がっています。農水省の調査の中央値で、マーガリンは8.7→0.99→0.65 g/100g、ショートニングは12→1.0→0.61 g/100g(2006-07→2014-15→2022-23年度。試料の採り方が違うので、単純な増減ではありません)。サラダ油には1.2 g/100g 程度あり、今のマーガリンより多いです(精製の脱臭の工程でできます)
  • 日本人の平均摂取量は、エネルギー比0.3%(食品安全委員会)〜0.6%(生産量からの逆算)で、WHOの目標の1%未満を下回ります。 ただし、1〜6歳の男児の上位5%は1.02%、食事記録の研究では30歳以上の女性の24%が1%を超えていました。平均で語ると見落とすものがあります
  • 減らした分、飽和脂肪酸が増えた面があります。食品安全委員会の調査では、飽和脂肪酸の平均が業務用マーガリンで1.4倍、業務用ショートニングで1.9倍になりました(2006→2010年度。業務用は同じ銘柄を測り直したものではありません)。ただし「バターに戻せばよい」でもありません。10gで比べると、バターの飽和脂肪酸は家庭用マーガリンの2.2倍です

この記事で紹介しているもの

紹介しているもの どんなときに 記事の中の場所
トランス脂肪酸の公表値が小さい食用油(エキストラバージンオリーブオイルなど) 揚げ物や炒め物に使う油を、公表値で選びたいとき サラダ油にもあるのは脱臭の工程のため

トランス脂肪酸はいつ、どうやって見つかった?

トランス脂肪酸の歴史は、「液体の油を固める技術」の歴史です。マーガリンやショートニングの歴史は、それぞれ マーガリンの記事 と ショートニングの記事 にあります。ここでは、トランス脂肪酸に関わる部分だけをたどります。

油を固める技術が生まれた(1901〜1911年)

  • フランスのサバティエが、ニッケルを使って気体の水素を加える反応(水素添加)を見つけたのは1890年代の終わりです(のちに1912年にノーベル化学賞)
  • ドイツのノルマンは、1901年2月27日に、液体のオレイン酸に固体のニッケルと気体の水素を作用させて、固いステアリン酸を得る最初の実験に成功したと伝えられています。ドイツの特許は1903年に成立(効力は1902年8月14日から)、英国の特許は1903年です(米国の油脂化学者の学会 AOCS、特許の記録)
  • 1911年6月に、米国の P&G が「Crisco(クリスコ)」を発売しました。ラードの代わりになる、植物油(綿実油)を固めた白い油脂です。販売量は1912年の260万ポンドから、1916年には6,000万ポンドへと急増しました(AOCS)

日本でも早い時期に始まっています。1908年に農商務省工業試験所の辻本満丸が魚油の水素化に成功し、英国系のリーバー・ブラザーズが尼崎に、日本とアジアで最初の硬化油の工場を建て(1910年に建設、1913年に製造開始)、原料は魚油と大豆の搾り粕、製品の大部分は中国向けでした。当時、日本の魚油は硬化油の原料として欧州へも大量に輸出されていました(触媒学会のニュース。二次資料です)。

「トランス型ができている」と、誰も気づいていなかった

1920年、米国の最高裁は、P&G の Crisco をめぐる特許(バーチェナル特許)のうち、主要な部分を無効にしました(Berlin Mills 対 P&G)。AOCS は、当時の化学者は、部分水素添加で「エライジン酸」=トランス型の脂肪酸ができていることを、認識していなかったと書いています。

つまり、トランス脂肪酸は「害があると分かって使われた」のではなく、油が固まる過程で、知られないまま増えた副産物でした。

トランス型とは何か

トランス型とは何かを示す図。脂肪酸の二重結合のまわりの水素の向きが同じ側ならシス型、反対側ならトランス型。シス型は水素が同じ側で、鎖が曲がった形。トランス型は水素が反対側で、まっすぐな形になり、飽和脂肪酸に似た固さになる。下の段は、トランス脂肪酸ができる3つの場面。1つ目は水素添加(硬化)で、液体の油に水素を加えて固めるとき、反応を途中で止めた部分水素添加油脂にできる。量の目安は、部分水素添加油脂のトランス脂肪酸が平均25〜45%(WHO)。完全水素添加では、トランス脂肪酸は精製した油と同じ程度(2%未満)だが、固い飽和脂肪酸の油になる。2つ目は精製の脱臭で、植物油のにおいを取る高温・真空の工程で、シス型の一部がトランス型に変わる。精製した油では一般に2%未満(米国FDA)。3つ目は反すう動物の胃の中で、牛・羊などの胃の微生物が作り、牛乳・乳製品・肉の脂に入る。反すう動物の脂肪でおよそ3%(米国FDA)。揚げ調理(160〜200℃、繰り返し加熱)でできる量はごく微量(農林水産省)。
図:トランス型とは何かと、トランス脂肪酸ができる3つの場面(農林水産省、米国 FDA、WHO、文部科学省 日本食品標準成分表をもとに作成)(押すと拡大)

脂肪酸には、炭素が鎖のようにつながった中に「二重結合」という部分があります。二重結合のまわりについた水素の向きが、同じ側なら「シス型」、反対側なら「トランス型」です。文部科学省の食品成分表の説明は、「二重結合を有する炭素原子につく水素原子の配置が異なる」ものと書いています。シス型は曲がった形、トランス型はまっすぐな形になり、まっすぐなほうが飽和脂肪酸に似た固さになります。

トランス脂肪酸ができる場面は、農林水産省の説明では次の3つです。

できる場面 中身 量の目安
水素添加(硬化) 液体の油に水素を加えて固めるとき、反応を途中で止めた「部分水素添加油脂」にできる WHO は、部分水素添加油脂のトランス脂肪酸を平均25〜45%としている
精製の「脱臭」 植物油のにおいを取る高温・真空の工程で、シス型の一部がトランス型に変わる 精製した油では、一般に2%未満(米国 FDA)
反すう動物の胃の中 牛・羊などの胃の微生物が作り、牛乳・乳製品・肉の脂に入る 反すう動物の脂肪でおよそ3%(米国 FDA)

揚げ調理(160〜200℃、繰り返し加熱)でも、できる量はごく微量で、影響は無視できる、と農水省は書いています(WHO は「2〜3%程度の増加」としています)。

「部分水素添加」と「完全水素添加」は別物です。米国 FDA は、ヨウ素価(不飽和の残り具合)が4以下まで水素添加を進めたものを完全水素添加油、4を超えるものを部分水素添加油と区別しています。完全水素添加油は、不飽和の部分がほぼ飽和脂肪酸に変わるので、トランス脂肪酸は精製した油と同じ程度(2%未満)です。ただし、固い飽和脂肪酸の油になります。この話は、あとの「減らした分、何が増えたのか」でもう一度出てきます。

「バターより健康」と言われた時代

米国では、1958年に、1人あたりの年間の消費量でマーガリンが初めてバターを上回りました(マーガリン8.9ポンド、バター8.4ポンド。米国農務省)。マーガリンの消費は1976年に約12ポンドで頂点になりました。

背景には、動物性の飽和脂肪酸が心臓病に関わるという考え方がありました。米国心臓協会(AHA)は、1961年に、飽和脂肪を多価不飽和脂肪に置き換えることを勧めています。ところが、トランス脂肪酸については、当時の科学の側も「懸念は小さい」としていました。

  • 米国の連邦実験生物学会連合(FASEB、FDA の依頼)は、1976年に硬化した大豆油について「公衆への危険を示す証拠はない」、1985年には「現在の摂取量でも将来の予想される量でも、安全性を懸念する理由はほとんどない」と報告したと、米国の消費者団体 CSPI の請願書が引用しています(引用なので、原文は確かめていません)
  • 1989年には、FDA は欧州でマーガリンに使われた部分水素添加の魚油(メンハーデン油)も「一般に安全と認められる(GRAS)」と判断しました(同じ請願書の引用)

1990年の転換

1990年に、オランダの研究者メンシンクとカタンが、無作為化試験の結果を発表しました。ここから、見方が変わります(くわしくは次の章)。

年 できごと
1990年8月 メンシンクとカタンの試験(NEJM)。トランス脂肪酸でLDLが上がりHDLが下がる
1993年3月 ウィレットらの追跡研究(Lancet)。看護師85,095人で、冠動脈疾患が1.50倍
1993〜94年 米国の消費者団体 CSPI が、FDA にトランス脂肪酸の表示を求める書簡と請願
1999年11月 FDA が表示案を公表。FDA 自身が「1980年代後半の報告は有害影響はなさそうとしていた」と書いたと、CSPI の請願書が引用している
2003年 WHO と FAO が、総エネルギーの1%未満を勧告。デンマークが規則を作る
2006年1月 米国で、栄養成分表示にトランス脂肪酸の記載が義務になる
2015年6月 FDA が、部分水素添加油脂は「一般に安全と認められる」ものではない、と最終判断(遵守期限は2018年6月18日)
2018年5月 WHO が「REPLACE」を発表。2023年までの工業由来のトランス脂肪酸の排除を目指す

なお、WHO の目標だった「2023年末までの排除」は、達成できませんでした。目標は「2025年までの事実上の排除」に改められています。

体に何が起きるのか

トランス脂肪酸の研究は、数が多く、強さもばらばらです。この章では、確かな部分(血液の脂質と冠動脈疾患)と、確かでない部分(それ以外の病気)を分けて、研究の種類・人数・期間・資金を添えて並べます。

血液のLDLが上がり、HDLが下がる

いちばん確かなのは、血液の脂質への影響です。食事を決めて食べてもらう試験で、くり返し確かめられています。

1990年のメンシンクとカタンの試験(NEJM)は、いまも引かれる古典です。

  • 対象:健康な59人(女性34人・男性25人、平均25〜26歳)
  • 方法:3種類の食事を、各3週間、順番をくじで決めて食べてもらう(無作為化クロスオーバー試験)。エネルギーの10%を、オレイン酸(シス型の油)・トランス型のオレイン酸・飽和脂肪酸のどれかにした
食事(エネルギーの10%) LDL(悪玉)の変化 HDL(善玉)の変化
オレイン酸(基準) 0 0
トランス型のオレイン酸 14mg/dL 高い(0.37mmol/L) 7mg/dL 低い(0.17mmol/L)
飽和脂肪酸 18mg/dL 高い(0.47mmol/L) 差なし

飽和脂肪酸もLDLを上げますが、HDLは下げません。トランス脂肪酸は、LDLを上げるうえにHDLも下げる点が、飽和脂肪酸と違います。この試験が、「トランスは、HDLを下げる点で飽和脂肪酸より不利」と言われる出どころです。

その後の研究のまとめです。

  • 60の試験をまとめた分析(メンシンクら、2003年)では、総コレステロール/HDL比への影響は、トランス脂肪酸を炭水化物とシス型の不飽和脂肪酸に置き換えた効果が、飽和脂肪酸を置き換えた効果のおよそ2倍でした。日本の食事摂取基準(2025年版)も、同じ「約2倍」を計算に使っています(引いているのはアシェリオらの1999年のまとめ)
  • 7つの無作為化試験をまとめた分析(アロニスら、2012年)では、総コレステロールとLDLは上がり、HDLは下がりました。一方、血糖・インスリン・中性脂肪は変わりませんでした
  • WHO の2023年のガイドラインは、16の試験(680人)の分析で、トランス脂肪酸の1%分を多価不飽和脂肪酸に置き換えると、LDLが0.048mmol/L下がるとしています(確実性は「高」)

ただし、試験で使う量は、ふだんの食事より多いことに注意が必要です。メンシンクらの試験の10%は、日本人の平均摂取量(エネルギーの0.3%)の30倍以上です(ウラヨミの計算)。日本人で行った一連の試験を振り返った日本の研究者のレビュー(2017年)は、「工業由来のトランス脂肪酸が1%未満なら、血清コレステロールに影響しない」ことを示唆していますが、少ない量での試験そのものが少なく、許容できる上限の確かな証拠はない、とも書いています。

冠動脈疾患との関連

もうひとつ確かなのは、冠動脈疾患(心臓の血管が狭くなる病気)との関連です。こちらは、食事のアンケートをもとに人々を長く追いかける「追跡研究(コホート研究)」で調べられています。

研究 対象・期間 結果(多い群と少ない群の比)
看護師研究(ウィレットら、1993年) 米国の女性85,095人、8年、冠動脈疾患431件 最も多い五分位は最も少ない群の1.50倍(1.12〜2.00)。マーガリンを10年間安定して食べていた69,181人では1.67倍
看護師研究(フーら、1997年) 同じ研究、女性80,082人、14年、939件 エネルギーの2%を炭水化物から置き換えると1.93倍(1.43〜2.61)
看護師研究(オーら、2005年) 同じ研究を20年に延長、78,778人、1,766件 最も多い群は1.33倍(1.07〜1.66)。65歳未満では1.50倍
Chowdhury ら(2014年) 観察研究32件・530,525人のまとめ 冠動脈疾患1.16倍(1.06〜1.27)。同じ分析で飽和脂肪酸は1.02倍(0.97〜1.07)で関連なし
デ・スーザら(2015年、BMJ) 観察研究のまとめ 全死亡1.34倍、冠動脈疾患による死亡1.28倍、冠動脈疾患1.21倍。脳梗塞1.07倍・2型糖尿病1.10倍は有意でない
WHO のガイドライン(2023年)に載る分析 前向き観察研究のまとめ エネルギーの2%増えるごとに、冠動脈疾患が25%、全死亡が14%多い(確実性は「中程度」)

カッコの中は95%信頼区間(真の値が入ると考えられる幅)です。

トランス脂肪酸の摂取量が多い群は、少ない群の何倍か(追跡研究・まとめ)点は推定値、線は95%信頼区間。1より右=多い群のほうが病気や死亡が多い。対数目盛区間が1をまたがない(統計的に有意)区間が1をまたぐ(有意でない)0.71.01.52.0米国の看護師研究(女性・食事アンケート)1993年・85,095人・8年追跡:冠動脈疾患米国の看護師研究(女性・食事アンケート) 1993年・85,095人・8年追跡:冠動脈疾患:1.50(1.12〜2.00)1.50(1.12〜2.00)2005年・78,778人・20年追跡:冠動脈疾患米国の看護師研究(女性・食事アンケート) 2005年・78,778人・20年追跡:冠動脈疾患:1.33(1.07〜1.66)1.33(1.07〜1.66)Chowdhury 2014(観察研究32件・530,525人)冠動脈疾患(食事のトランス脂肪酸)Chowdhury 2014(観察研究32件・530,525人) 冠動脈疾患(食事のトランス脂肪酸):1.16(1.06〜1.27)1.16(1.06〜1.27)de Souza 2015 BMJ(総トランス脂肪酸・天然を含む)全死亡de Souza 2015 BMJ(総トランス脂肪酸・天然を含む) 全死亡:1.34(1.16〜1.56)1.34(1.16〜1.56)冠動脈疾患による死亡de Souza 2015 BMJ(総トランス脂肪酸・天然を含む) 冠動脈疾患による死亡:1.28(1.09〜1.50)1.28(1.09〜1.50)冠動脈疾患de Souza 2015 BMJ(総トランス脂肪酸・天然を含む) 冠動脈疾患:1.21(1.10〜1.33)1.21(1.10〜1.33)脳梗塞de Souza 2015 BMJ(総トランス脂肪酸・天然を含む) 脳梗塞:1.07(0.88〜1.28)1.07(0.88〜1.28)2型糖尿病de Souza 2015 BMJ(総トランス脂肪酸・天然を含む) 2型糖尿病:1.10(0.95〜1.27)1.10(0.95〜1.27)de Souza 2015 BMJ(由来別・冠動脈疾患)工業由来de Souza 2015 BMJ(由来別・冠動脈疾患) 工業由来:1.42(1.05〜1.92)1.42(1.05〜1.92)反すう動物(牛乳・牛肉)由来de Souza 2015 BMJ(由来別・冠動脈疾患) 反すう動物(牛乳・牛肉)由来:0.93(0.73〜1.18)0.93(0.73〜1.18)Bendsen 2011(コホート8件・冠動脈疾患)工業由来Bendsen 2011(コホート8件・冠動脈疾患) 工業由来:1.21(0.97〜1.50)1.21(0.97〜1.50)反すう動物由来Bendsen 2011(コホート8件・冠動脈疾患) 反すう動物由来:0.92(0.76〜1.11)0.92(0.76〜1.11)対象も比べ方も研究ごとに違うので、数字どうしを並べて順位をつけるものではない(最も多い群と最も少ない群の比べ方が研究で違う)。どれも食事アンケートにもとづく観察研究のまとめ。マーガリン・菓子を多く食べる人は、ほかの生活習慣も違う可能性がある。血中脂質(LDL・HDL)は、別の「食事を決めて食べてもらう試験」で確かめられている。心臓病そのものを試験で調べたものはない。出典:Willett 1993(PMID 8094827)、Oh 2005(15781956)、Chowdhury 2014(24723079)、   de Souza 2015(26268692)、Bendsen 2011(21427742)。各論文の抄録の値をウラヨミで図にした。
出典:Willett 1993、Oh 2005、Chowdhury 2014、de Souza 2015、Bendsen 2011(各論文の抄録の値をウラヨミで図にした)

見えてくることは、次のとおりです。

  • 結果は研究ごとに1.16〜1.93倍と幅があります。対象の人も、数え方(五分位の比べ方、2%増の比べ方)も違うので、並べて順位はつけられません
  • 工業由来だけを見ると、冠動脈疾患は1.42倍(1.05〜1.92)でした(デ・スーザら)
  • 脳梗塞と2型糖尿病は、信頼区間が1をまたぎ、関連がはっきりしませんでした

これらはすべて観察研究です。マーガリン・クッキー・ケーキ・白いパンをたくさん食べる人は、ほかの生活習慣も違うかもしれません。食事アンケートは、食べた量を正確には測れません。さらに、トランス脂肪酸を減らして心臓病が減るかを、試験で確かめた研究はありません(食品安全委員会の評価書も、日本人でさらに減らしたときの影響は「未知」と書いています)。WHO のガイドラインも、血液の脂質は試験、病気は観察研究、と分けて評価しています。

牛乳やバターの天然のトランス脂肪酸

天然のものは、人工のものと同じ作用なのでしょうか。研究者の間で、解釈は割れています。

研究 内容 注意点
ブラウワーら(2010年) 人の試験39件をまとめた。LDL/HDL比の上がり方は、エネルギーの1%あたり、工業由来0.055、反すう動物由来0.038、CLA 0.043で、差は有意でない 結論は「トランス型の二重結合があれば、すべてLDL/HDL比を上げる」
TRANSFACT 試験(2008年) 46人(完了40人)がエネルギーの約5%(1日11〜12g)を食べた。工業由来と比べて、女性だけ、天然由来でHDLもLDLも高かった 量が極端に多く、ふだんの食事ではない
Gayet-Boyer ら(2014年) 反すう動物由来を調べた13の試験のまとめ。エネルギーの4.19%までは、脂質の比に影響なし 第一著者の所属はフランスの乳業団体(CNIEL)
追跡研究(デ・スーザら、2015年) 反すう動物由来と冠動脈疾患:0.93倍(0.73〜1.18)で関連が見えない 摂取量が少ないためと説明されている
WHO のガイドライン(2023年) 工業由来と天然由来を区別しない。天然由来の摂取量を0.7〜1.3%にそろえて分析すると、冠動脈疾患との関連が消える。試験では、天然由来が2%を超えると、工業由来と同等以上にLDLを上げた 区別するだけの証拠が足りない、という立場
食品安全委員会(2012年) 日本人では、冠動脈疾患との関係は反すう動物由来のほうが低いと考えられる、としつつ、トランス脂肪酸全体で評価した

つまり、「天然だから無害」とも「天然も同じように有害」とも、言い切れません。違いが出にくいのは、天然由来は摂取量が少ないためだ、というのが多くの研究者の見方です。

天然のものは、実際にどのくらいあるのでしょうか。

  • 農水省の調査で、バターは1.9g/100g(2006-07年度、13点)。バターやマーガリンと似た用途の「乳等を主要原料とする食品」は、1.0g/100g(2022-23年度、24点)で、この年の調査では中央値がいちばん高い品目でした
  • 食品安全委員会が測った平均は、牛乳0.091g/100g、牛肉0.521g/100g、プロセスチーズなど0.826g/100gでした(2006年度)
  • 日本人の摂取量のうち、乳類が1日0.13g、肉類が0.11gで、合わせて約4分の1です(農水省トータルダイエット、2005〜07年度)
  • 米国農務省の古い分析値では、有塩バターは3.28g/100gでした。ただし年代も分析方法も違い、日本の値とは並べて断定できません

なお、「ギー」(バターから作る油)は、日本の食品成分表に載っていません。米国農務省の表のトランス脂肪酸は「0.0g」ですが、分析されていない欠損の可能性が高く、確かな値は確かめられませんでした。

ほかの病気との関係

がん・認知症・不妊・うつなどとの関連も、よく聞きます。ここからはほとんどが観察研究で、因果は言えません。

病気 研究 分かったこと 因果は言える?
認知症 シカゴの研究(モリスら、2003年):65歳以上815人、約4年 トランス脂肪酸が最も少ない群に比べ、2番目以降の群でアルツハイマー病が2.4倍 人数が少ない観察研究
認知症 久山町研究(ホンダら、2019年):60歳以上1,628人、中央値10.3年 血中のエライジン酸(工業由来の目印)が高いと、認知症とアルツハイマー病が多い。血管性認知症は関連なし 日本人での数少ない研究。1時点の血液
認知症 系統的レビュー(2022年) 「どの脂肪酸も、頑強な関連はない」。確実性は不十分 言えない
不妊 看護師研究II(シャヴァロら、2007年):18,555人、排卵性不妊438件 エネルギーの2%増で1.73倍 観察研究。しくみは仮説
うつ スペインの大卒者の研究(2011年):12,059人、中央値6.1年 最も多い五分位が1.42倍 観察研究
2型糖尿病 追跡研究のまとめ(2015年)、試験のまとめ(2012年)、血中の目印12コホート(2022年) 関連が見えない 明確な害は見えない
がん 観察研究46件のまとめ(2021年) 前立腺がん1.49倍・大腸がん1.26倍は有意、乳がん1.12倍は有意でない。ばらつきが大きい 追跡研究だけで見ると、乳がん1.02倍・大腸がん1.03倍で関連なし
アレルギー 欧州10か国の比較(1999年)ほか 国ごとの比較は、個人の関連を示さない 言えない

認知症については 油と認知症・うつ病の記事 に詳しくまとめています。

食品安全委員会(2012年)の整理は、次のとおりです。

  • 冠動脈疾患:増加させる可能性が高い(ただし、日本人の喫煙・糖尿病・高血圧などの危険因子と比べると、トランス脂肪酸による冠動脈疾患のリスクは「かなり小さい」)
  • 肥満・アレルギー性疾患:関連あり(肥満は2つのコホートで正の関連、サルの試験で体重と内臓脂肪が増える傾向)。妊産婦では、胎児の体重減少や流産・死産との関連が報告されている
  • 糖尿病・がん・胆石・脳卒中・加齢黄斑変性・認知症:結論できない

ですから、「トランス脂肪酸で認知症になる」「不妊になる」とは書けません。「関連が報告されている」までが、いまの研究で言える範囲です。

「1.94倍」と「50万人」の数字の出どころ

トランス脂肪酸の「害」を示す数字は、前提が違うものが混ざって広がっています。よく見かける数字を、出どころで並べました。

よく見かける数字 出どころ 注意点
心筋梗塞の危険度が1.94倍 食品安全委員会の Q&A が例に挙げた、1994年の米国の症例対照研究(患者239人・対照282人) 植物由来のトランス脂肪酸の最大と最小の五分位の比で、信頼区間は0.93〜4.04(1をまたぐ)。退院の8週間後に食事を思い出して答える調査で、記憶の偏りが入りうる。同じ研究で反すう動物由来は1.02倍(0.43〜2.41)。評価書は傾向検定(p<0.001)を理由に「有意な増加」とした
年間50万人が死亡 ワンら(2016年)の推計:2010年に、トランス脂肪酸が原因の冠動脈疾患死が537,200人(全体の7.7%)。WHO は2018年に「年50万人以上」、2023年1月に「最大50万人」と発表(規模は近いが、同じ計算かは確かめていない) 天然由来も含む推計。この論文には訂正(Erratum)が2件あるが、内容は確かめていない
年間27.8万人超が死亡 WHO の fact sheet(2024年)と2023年の報告書 工業由来だけの推計。上の50万人とは方法も年も違う
全死亡34%・冠動脈疾患死亡28%・冠動脈疾患21%増 WHO の fact sheet が引く、デ・スーザら(2015年)の数字 天然由来を含む総トランス脂肪酸の数字。工業由来だけだと冠動脈疾患は1.42倍、冠動脈疾患による死亡は1.18倍
エネルギーの2%増で冠動脈疾患が23%増 食品安全委員会の評価書が引くメタ分析(2006年) 原文の数字は、評価書の引用で確認した(孫引き)

1.94倍は、切り出して紹介しないほうがよい数字です。国の機関の Q&A にある数字ですが、元の論文の信頼区間が1をまたいでいます。

日本の公的評価:「通常の食生活では健康への影響は小さい」

日本の国は、トランス脂肪酸をどう評価しているのでしょうか。

食品安全委員会(2012年3月)は、評価書で次のように結論しました。

  • 日本人の大多数は、WHO の目標(エネルギーの1%未満)を下回っており、通常の食生活では、健康への影響は小さい
  • ただし、脂質に偏った食事をしている人は、留意が必要
  • トランス脂肪酸は人に不可欠なものではなく、できるだけ少なく。低減に伴って増えた飽和脂肪酸にも留意

評価書の後ろ盾は欧米の研究で、「日本人の摂取量で疾病リスクと関連があるかは明らかでない」とも書いています。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」は、トランス脂肪酸の目標量は設けていません。日本人の摂取量が欧米より少なく、影響の報告も十分でないためです。ただし「現状のままでよいという意味ではない」として、参考値として、エネルギーの1%未満、できるだけ低くが望ましいとしています。

研究をもっと読みたい人へ

世界の規制はどこまで進んだか

WHO の勧めと、実施している国の数

WHO は、トランス脂肪酸を総エネルギーの1%未満にすることを勧めています(2003年に WHO と FAO が勧告、2023年のガイドラインで1%までを強く推奨)。2000kcal の食事なら、1日2.2g未満です。これは「目標」で、毎日これ以下なら安全という「許容量」ではありません。

工業由来のトランス脂肪酸をなくす「最良の政策」として、WHO は次のどちらかを法律にすることを勧めています。

  • 食品の脂肪100gあたり、工業由来は2gまでという上限を決める
  • 部分水素添加油脂の製造と使用を禁止する
時点 この政策を実施している国 人口の割合 出典
2018年(REPLACE の開始時) 11か国 6% WHO(2025年5月の発表)
2023年末 53か国(37億人) 46% WHO(2024年1月の発表、5年報告書)
2025年5月 約60か国 46% WHO(2025年5月の発表)

数え方(実施中か、可決済みか)が資料で違うので、農水省が引く「2015年7か国→2020年14か国→2024年10月60か国」とは一致しません。年を添えて読んでください。2023年末に実施中とされた53か国には、米国・カナダ・ブラジル・インド・タイ・サウジアラビア・欧州の多くの国が入っています。日本・中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランドは入っていません。

さらに WHO は、実施した国の政策が実際に機能しているかを確かめる「検証証明」を出しています。これまでに認められたのは11か国です。2024年にデンマーク・リトアニア・ポーランド・サウジアラビア・タイ、2025年5月にオーストリア・ノルウェー・オマーン・シンガポール、さらにポルトガルとアラブ首長国連邦が加わっています(WHO のページ、2026年10月3日確認)。日本は含まれません。

国ごとの規制

トランス脂肪酸の研究と規制を、世界と日本の2列に分けた年表。1901年、ノルマンが水素を加えて油を固める最初の実験に成功したと伝えられる。1911年、米国P&GがCriscoを発売。1913年、尼崎に日本とアジアで最初の硬化油の工場。1920年、Criscoの特許の判決で、当時の化学者はトランス型ができていると認識していなかった。1990年、メンシンクとカタンの試験でLDLが上がりHDLが下がった。1993年、ウィレットらの追跡研究で、看護師85,095人の冠動脈疾患が1.50倍。2003年、WHOとFAOが総エネルギーの1%未満を勧告し、デンマークが規則を作った。2006年、米国で表示が義務になり、日本の2006〜07年度の調査ではマーガリンの中央値が8.7g/100g。2011年、消費者庁の指針。2012年、食品安全委員会の評価書。2015年、FDAが部分水素添加油脂を除外し、日本は任意表示に。2018年、WHOのREPLACE、雪印メグミルクと明治の切り替え。2019年タイとEU、2022年インド。2022〜23年度の調査でマーガリンの中央値は0.65g/100g。2023年末に53か国が実施し、WHOの報告書が日本を8か国のひとつに挙げた。2024年ラーマ終了、2025年マレーシアの上限と食事摂取基準。
図:トランス脂肪酸の年表(AOCS、WHO、米国 FDA、農林水産省、消費者庁、食品安全委員会、厚生労働省をもとに作成)(押すと拡大)

規制の方式は大きく2つに分かれます。含有量に上限を決める方式(デンマーク・EU など)と、部分水素添加油脂を禁止する方式(米国・カナダ・タイ・台湾など)です。

国・地域 方式 中身 始まり
デンマーク 上限 最終製品の油脂100gあたり2g超を禁止(天然由来は除く) 2003年に規則、2004年1月から2g
スイス 上限 食用植物油脂100gあたり2g超を禁止 2008年4月1日
オーストリア 上限 総脂質100gあたり2g以上の食品の製造・流通を禁止 2009年
米国 禁止 部分水素添加油脂を「一般に安全と認められる」ものから外した。栄養成分表示は2006年から義務 規制開始2018年6月18日(流通は2020〜21年まで猶予)
カナダ 禁止 部分水素添加油脂の使用を禁止。包装食品の表示は世界で最初に義務化 禁止2018年9月17日、表示2005年
EU 上限 規則2019/649:小売向け食品は、脂肪100gあたり2gまで(天然由来を除く) 2021年4月1日まで猶予
台湾 禁止 ヨウ素価が4を超える部分水素添加油脂を禁止(完全水素添加は可) 2018年7月1日
タイ 禁止 部分水素添加油脂と、それを使う食品の製造・輸入・販売を禁止 2019年1月9日
シンガポール 禁止 部分水素添加油脂を含む油脂の輸入と、原料としての使用を禁止 2021年6月1日
インド 上限 工業由来を油脂の2%以下に(天然由来は除く) 2022年1月1日
香港 禁止 部分水素添加油脂の食品使用と、それを含む油脂の輸入を禁止 2023年12月1日
マレーシア 上限 脂質100gあたり2g以上(動物性脂肪由来を除く)の食品の販売などを禁止 2025年9月1日
中国・韓国 表示 表示を義務化(上限の規制ではない) 韓国2007年12月、中国2013年1月
オーストラリア・ニュージーランド なし 規制なし。強調するときだけ表示が必要 ―
日本 なし 上限も表示義務もない(任意の自主開示) ―

表の読み方に、注意が3つあります。

  • 米国の決定は、「トランス脂肪酸」の禁止ではなく、「部分水素添加油脂(PHO)」を一般に安全と認められるものから外すものです。完全水素添加油や、牛乳・牛肉の天然のトランス脂肪酸は対象外です。「アメリカではマーガリンが禁止された」という話は、この決定が元になった誤解です(くわしくは マーガリンの記事)
  • タイの Q&A は、「食品からトランス脂肪酸が検出されることを禁止するものではない」と書いています。禁止の国でも、微量は残ります
  • 上限の「2g」は、食品100gではなく、脂肪100gあたりです。分母が違うので、日本の農水省の調査の「g/100g」と混ぜて比べられません

規制のあとに何が起きたか

規制の効果を調べた研究があります。どちらも「自然実験」と呼ばれる観察研究で、因果の証明ではありません。

  • デンマーク(2004年に世界で初めて規制):OECD の国々から作った比較対象と比べると、規制後の3年間で、心血管疾患の死亡が年に10万人あたり約14.2人少なかった(Restrepo と Rieger、2016年)。2g を超える製品の割合は、26%(2002-03年、253製品)→ 11%(2004-05年)→ 9% → 7%(2010年)→ 6%(2012-13年、95製品)と下がりました
  • ニューヨーク州:飲食店などを規制した11郡と、しなかった25郡を比べると、3年以上たったあとの心筋梗塞と脳卒中の入院が6.2%少なかった(心筋梗塞は7.8%減、脳卒中は3.6%減だが有意でない。Brandt ら、2017年)

一方で、自主的な低減だけでは足りない、という研究もあります。南東欧6か国で、規制のない国のビスケットやケーキを2012年と2014年に買って調べたところ、工業由来が脂肪の2%以下の製品は69件から235件に増えましたが、2%を超える製品も33件から68件に倍増していました(Stender ら、2016年)。

デンマークには、もうひとつの注意点があります。農水省の整理では、2回調べた製品を比べると、3分の2以上で、工業由来のトランス脂肪酸が、主にココナッツ油やパーム油の飽和脂肪酸に置き替わっていました。この点は、あとの「減らした分、何が増えたのか」で取り上げます。

日本はなぜ規制しないのか

日本の制度:上限も表示義務もない

日本のルールを整理します。

  • 食品表示基準(2015年)に、「トランス脂肪酸」の語は0件です(ウラヨミが e-Gov の全文で検索)。同じ基準で、飽和脂肪酸と食物繊維は「推奨表示」になっていますが、トランス脂肪酸は載っていません
  • 消費者庁が2011年2月21日に出した「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」が、会社の自主的な開示を「要請」しています。表示するなら、定義はコーデックス委員会、単位はg、誤差はプラス20%まで。「0g」と書けるのは、食品100g(100ml)あたり0.3g未満のときです
  • 日本食品標準成分表(八訂)の脂肪酸成分表にも、トランス脂肪酸の列はありません。成分表で調べても、値は分かりません
  • 農水省は、トランス脂肪酸を「優先的にリスク管理を行うべき有害化学物質」のひとつに選び、年度を決めて、食品の含有実態を調べています

規制しない理由は「摂取量が少ない」から

2015年に食品表示基準を作るとき、消費者委員会の食品ワーキング・グループが議論し、2015年5月にとりまとめを出しました。

  • 義務ではなく任意表示にした理由は、平均的な日本人の推定摂取量が、現時点ではエネルギー比1%未満だから、というものです
  • ただし、自主的な取り組みを続けても、今後、摂取量が増える傾向が認められる場合は、所管の省庁が、含有量の上限を決める規制や、表示の義務づけを検討する必要がある、とも書いています

つまり、規制がない根拠は「数字」であって、永久の結論ではありません。とりまとめは、トランス脂肪酸は人に不可欠なものではないので、摂取の低減が望まれること、低減に伴って飽和脂肪酸が増えないよう留意すること、若年層や20〜50歳代の女性、子どもの養育者に情報提供をすることも書いています。

会社は、どのくらい開示しているのか

消費者庁は2020年6月に、事業者の調査を公表しています。国内の食品製造事業者2,405社に郵送し、942社が回答しました(回答率39.2%)。

項目 結果
自社製品にトランス脂肪酸を含む商品があるとした事業者のうち、含有量を把握している 66.1%
同じ事業者のうち、低減に取り組んでいる 33.9%
同じ事業者のうち、消費者に情報発信している 14.3%(ウェブサイト52.6%・商品パッケージ26.3%)
発信しない理由(複数回答) 含有量を把握していない31.1%/摂取量が人体に影響のないレベルと言われている28.4%/競合も開示していない28.4%/消費者から言われたことがない28.4%/分析にコストがかかる26.6%

商品の分類では、「植物油脂類(食用調合油など)」と「マーガリン類(ファットスプレッドを含む)」が上位でした。

WHO から見た日本

WHO の2023年の報告書は、日本を名指ししています。日本・中国・インドネシア・アゼルバイジャン・イラン・モロッコ・パキスタン・ロシアの8か国が、新たにベストプラクティスの政策を入れれば、世界の工業由来のトランス脂肪酸の負担の90%を減らせる、というものです。報告書の付表は、日本の冠動脈疾患による死亡のうち、トランス脂肪酸(エネルギーの0.5%を超える摂取)によるものを1.82%と推計しています。

ここには、2つの注意点があります。

  • 1.82%は、IHME の GBD 2019 というモデルによる推計で、実測ではありません。しきい値(0.5%)も、日本の評価書の見方とは違います。人口が大きい国は、割合が低くても、世界全体の死亡数に大きく寄与します
  • 日本の位置づけが、資料で食い違っています。農水省(2024年11月更新)は「WHO の国別取組の4段階のうち、スコア2(他の補完的な措置を講じている国)」と説明していますが、WHO の報告書の付表の日本の欄は、スコアが空欄(–)で、対策の説明も書かれていません。どちらが最新かは、確かめられませんでした

日本の評価書(通常の食生活では影響は小さい)と、WHO の見方(人口の大きい国が動くかどうか)は、見ている物差しが違います。 どちらかが間違っている、という話ではありません。

規制がなくても、原料は入れ替わった

規制がないのに、日本の食品のトランス脂肪酸は減っています。きっかけのひとつは、米国の動きと報道です。

  • 2018年3月、雪印メグミルク(14商品、FoodNavigator-Asia の報道)と明治(10商品)は、家庭用マーガリン類の原料から、部分水素添加油脂をやめました。雪印メグミルクは、マーガリンはトランス脂肪酸を多く含む食品というイメージが広がり、買い控えにつながっている、と説明しています(日刊工業新聞の報道)。明治は、米国が除外したのは「トランス脂肪酸」ではなく「部分水素添加油脂」なのに、日本では前者が禁止されたかのように伝わった、と資料に書いています(企業の説明)
  • J-オイルミルズは、家庭用マーガリン類の「ラーマ」(1966年発売)の製造・販売を終了しました(最終出荷は2024年3月末)。理由は、製造設備の老朽化と市場動向だと説明しています。業務用は続けています

日本マーガリン工業会の原料使用量の資料を、ウラヨミが再集計しました。マーガリン類の原料に占める硬化油(部分水素添加と完全水素添加の合計)は、10.2%(2016年)から3.2%(2025年)に下がりました。 ショートニングでは14.2%から7.9%です。代わりに、エステル交換油が31%から39%に増えています。マーガリン類に使う硬化魚油は、4,380tから224tになりました。

ただし、これは工業会の会員企業だけの数字で、完全水素添加油も含みます。部分水素添加油脂だけの割合ではありません。

トランス脂肪酸が多い食品

日本の食品に、トランス脂肪酸がどのくらい入っているかは、農林水産省が繰り返し調べています。「多い食品ランキング」の元になるのも、この調査です。

調査 概要
2006-07年度(平成18・19年度) 食品安全委員会の2006年度の調査と、農水省委託の調査をあわせた表。農水省は「点数が少なく、おおよその目安」と注意している
2014-15年度(平成26・27年度) マーガリン・ファットスプレッド・ショートニングは、一般用と業務用の両方。商品は販売量を考えずに選んだ
2016年度 揚げもの・調理冷凍食品
2022-23年度(令和4・5年度) 27品目・522点。販売量を考えて選んだ。分析法は国際的な方法(AOCS Ce 1h-05 など)

どの調査も、農水省が「各調査の結果の違いは、増減だけを表すものではない」と書くとおり、試料の採り方が違います。単純な増減としては読めません。

2022-23年度に多かった順

トランス脂肪酸が多い食品(農水省 2022-23年度・100gあたり)棒=中央値(g/100g)、細い線=最大値まで。品目ごとに10〜60点を調べた油脂類調味料・香辛料類菓子類穀類00.511.520.3(「0 g」と書ける境目)中央値(範囲)バター風味・マーガリン類似の乳等食品バター風味・マーガリン類似の乳等食品:中央値 1.0 g/100g(0.72〜1.7)1(0.72〜1.7)マーガリンマーガリン:中央値 0.65 g/100g(0.33〜1.3)0.65(0.33〜1.3)植物性油脂植物性油脂:中央値 0.64 g/100g(0.17〜1.5)0.64(0.17〜1.5)ショートニングショートニング:中央値 0.61 g/100g(0.52〜0.86)0.61(0.52〜0.86)ファットスプレッドファットスプレッド:中央値 0.48 g/100g(0.2〜1.3)0.48(0.2〜1.3)ウエハースウエハース:中央値 0.46 g/100g(0.08〜1.3)0.46(0.08〜1.3)カレー等のルウカレー等のルウ:中央値 0.46 g/100g(0.09〜7.0)0.46(0.09〜7)マヨネーズ類マヨネーズ類:中央値 0.39 g/100g(0.09〜1.2)0.39(0.09〜1.2)ドレッシング(マヨ除く)ドレッシング(マヨ除く):中央値 0.38 g/100g(0.22〜0.8)0.38(0.22〜0.8)米菓米菓:中央値 0.25 g/100g(0.15〜0.4)0.25(0.15〜0.4)クロワッサンクロワッサン:中央値 0.2 g/100g(0.12〜2.3)0.2(0.12〜2.3)菓子パイ菓子パイ:中央値 0.2 g/100g(0.09〜0.62)0.2(0.09〜0.62)ビスケット(クッキー含む)ビスケット(クッキー含む):中央値 0.18 g/100g(0.09〜1.1)0.18(0.09〜1.1)チョコレートチョコレート:中央値 0.18 g/100g(0.09〜0.25)0.18(0.09〜0.25)スナック菓子スナック菓子:中央値 0.17 g/100g(0.08〜0.35)0.17(0.08〜0.35)ドーナツドーナツ:中央値 0.16 g/100g(0.08〜0.35)0.16(0.08〜0.35)デニッシュデニッシュ:中央値 0.14 g/100g(0.12〜0.27)0.14(0.12〜0.27)アップルパイ・ミートパイアップルパイ・ミートパイ:中央値 0.13 g/100g(0.09〜1.2)0.13(0.09〜1.2)半生ケーキ半生ケーキ:中央値 0.13 g/100g(0.12〜1.5)0.13(0.12〜1.5)ショートケーキショートケーキ:中央値 0.12 g/100g(0.04〜0.4)0.12(0.04〜0.4)シュークリームシュークリーム:中央値 0.12 g/100g(0.1〜0.24)0.12(0.1〜0.24)調理パン・惣菜パン調理パン・惣菜パン:中央値 0.1 g/100g(0.05〜0.23)0.1(0.05〜0.23)即席めん(揚げたもの)即席めん(揚げたもの):中央値 0.1 g/100g(0.06〜0.17)0.1(0.06〜0.17)菓子パン(クロワッサン等を除く)菓子パン(クロワッサン等を除く):中央値 0.08 g/100g(0.04〜0.23)0.08(0.04〜0.23)ロールパンロールパン:中央値 0.05 g/100g(0.03〜0.09)0.05(0.03〜0.09)プリンプリン:中央値 0.04 g/100g(0.03〜0.1)0.04(0.03〜0.1)食パン食パン:中央値 0.03 g/100g(0.03〜0.16)0.03(0.03〜0.16)濃度(100gあたり)の比較で、1回に食べる量とは別。たとえば食パン1枚は約60g、マーガリン1回分は約10g。天然由来(乳・肉)と工業由来は分析で区別できないため、バター風味の乳等食品などには天然のぶんも入っている。「バター風味・マーガリン類似の乳等食品」は、乳等を主要原料とする食品のうちバターまたはマーガリンと類似の用途のもの。出典:農林水産省「食品中のトランス脂肪酸の含有実態調査(令和4・5年度)」。試料は販売量を考慮して選び、点数は目安。
出典:農林水産省「食品中のトランス脂肪酸の含有実態調査」令和4・5年度(中央値と最大値)

100gあたりの中央値が高かった順は、次のとおりです。

  1. バターやマーガリンと似た用途の乳等食品(バター風味のスプレッドなど)1.0
  2. マーガリン 0.65
  3. 植物性油脂(食用調合油や固形の油脂を含む)0.64
  4. ショートニング 0.61
  5. ファットスプレッド 0.48、ウエハース 0.46、カレー・ハヤシ・シチューのルウ 0.46

見てほしいのは次の点です。

  • いちばん多い品目でも、中央値は100gあたり1g程度です。2006-07年度に、ショートニングが12、マーガリンが8.7だったことと比べると、大きく違います
  • ルウだけ、範囲の最大が7.0です。同じ品目の中で、0.09から7.0まで開いています。平均や中央値だけでは、この「外れ」は見えません(カレールウは カレールウの記事 にまとめています)
  • 食パンは0.03、プリンは0.04、菓子パンは0.08と、パンやお菓子の中央値は低いです。ただし、クロワッサンのように、中央値0.20でも最大2.3まで開く品目があります

3回の調査を並べると

農水省の調査で見る、油脂のトランス脂肪酸(100gあたり)中央値(g/100g)。2006-07年度・2014-15年度・2022-23年度の3回2006-07年度2014-15年度2022-23年度036912マーガリン2022-23年度 60点マーガリン 2006-07年度:8.7 g/100g8.7マーガリン 2014-15年度:0.99 g/100g0.99マーガリン 2022-23年度:0.65 g/100g0.65ファットスプレッド2022-23年度 60点ファットスプレッド 2006-07年度:6.1 g/100g6.1ファットスプレッド 2014-15年度:0.69 g/100g0.69ファットスプレッド 2022-23年度:0.48 g/100g0.48ショートニング2022-23年度 12点ショートニング 2006-07年度:12.0 g/100g12ショートニング 2014-15年度:1.0 g/100g1ショートニング 2022-23年度:0.61 g/100g0.61植物性油脂2022-23年度 60点(区分が違うため省略:食用調合油 2.3・食用植物油 0.93)植物性油脂 2014-15年度:0.91 g/100g0.91植物性油脂 2022-23年度:0.64 g/100g0.64試料の採り方が回ごとに違う(2022-23年度は販売量を考慮、2014-15年度は考慮せず)。農水省は「違いは増減だけを表すものではない」と注意している。最大値は、マーガリン 13→16→1.3、ショートニング 31→24→0.86(g/100g)。中央値だけでは外れ値が隠れる。2006-07年度の植物性油脂は食用調合油(2.3)と食用植物油(0.93)に分かれているため、この図には出していない。出典:農林水産省「食品中のトランス脂肪酸の含有実態調査」平成18・19年度、平成26・27年度、令和4・5年度。
出典:農林水産省 含有実態調査 平成18・19年度、平成26・27年度、令和4・5年度(試料の採り方が違うため、増減だけを表すものではない)

マーガリンの中央値は、100gあたり8.7(2006-07年度)→ 0.99(2014-15年度)→ 0.65(2022-23年度)、ショートニングは12 → 1.0 → 0.61でした。ファットスプレッドは6.1→0.69→0.48です。中央値だけで語ると外れ値が隠れます。ショートニングの2014-15年度は、最大が24でした。2022-23年度は最大0.86です。

品目別では、次のようになっています。

品目 2006-07年度 2014-15年度 2022-23年度
菓子パイ 5.9 0.58 0.20
半生ケーキ 2.4 0.17 0.13
マヨネーズ(タイプを含む) 1.3 0.95 0.39
クロワッサン 0.82 0.54 0.20
カレー・ハヤシのルウ 0.88(カレー)/2.7(ハヤシ) 0.52 0.46
ドーナツ 0.42 0.30 0.16
食パン 0.077/0.19(2つの調査) 0.03 0.03
ビスケット 0.31 0.14 0.18(クッキーを含む)
米菓 0.19 0.20 0.25
チョコレート 0.11 0.19 0.18

単位はすべて100gあたり(g)の中央値です。ビスケット・米菓・チョコレートは、新しい調査のほうが高いですが、点数が少なく、試料の違いの範囲内の可能性があります。

もうひとつ、ウラヨミの計算です。2022-23年度の最大値は、マーガリンが1.3、ショートニングが0.86、植物性油脂が1.5(g/100g)でした。マーガリンは脂質が81%以上なので、計算上、脂肪100gあたりの最大は1.6gです。マーガリン60点・ショートニング12点・植物性油脂60点は、すべて、EU や WHO が勧める「脂肪100gあたり2g以内」に収まる計算です。2014-15年度は、最大がマーガリン16、ショートニング24でした。規制のない日本でも、企業の取り組みが進み、数字は大きく下がっています(試料の違いも含みます)。ただし、分析では天然由来と工業由来を区別できません。ファットスプレッドは、脂質との組み合わせが分からず計算していません。

揚げもの・冷凍食品(2016年度)

2016年度の調査では、揚げものの約7割、調理冷凍食品の約9割が、「0g」と書ける0.3g/100g未満でした。

品目 トランス脂肪酸(g/100gの中央値) 1個・1食の重さ
コロッケ 0.27 70〜102g(1個)
天ぷら 0.23 94〜286g
ロースカツ・メンチカツ 0.22 73〜196g
水産物フライ 0.16 36〜178g
フライドポテト 0.15 71〜223g(1包装)
鶏のからあげ・ナゲット 0.15 83〜122g
冷凍ピザ 0.14 100〜270g(1枚)
冷凍ぎょうざ 0.07 13〜70g

サラダ油にもあるのは脱臭の工程のため

意外に思われますが、ふつうのサラダ油にも、トランス脂肪酸はあります。水素添加をしていなくても、植物油を精製するとき、においを取る「脱臭」の工程(高温・真空)で、シス型の一部がトランス型に変わるためです。厚生労働省の Q&A も、「植物油を高温にして脱臭する工程で生じる」と書いています。

油のメーカーが公表している値です(100gあたり)。

油の種類 トランス脂肪酸(g/100g) 公表元と時点
サラダ油 1.2 日清オイリオ(2023年4月)、J-オイルミルズ(2024年3月分析)
キャノーラ油 0.8 日清オイリオ、J-オイルミルズ
ごま香油 0.6 日清オイリオ
こめ油 0.3 日清オイリオ
アマニ油 0.3 日清オイリオ
べに花油 0.1未満 日清オイリオ
エキストラバージンオリーブオイル 0.1未満 日清オイリオ、J-オイルミルズ

農水省の調査でも、植物性油脂60点の中央値は0.64g/100g(範囲0.17〜1.5)で、メーカーの値と合っています。

ウラヨミの計算:サラダ油(1.2g/100g)は、いまのマーガリン(0.65g/100g)より、100gあたりでは多いです。油は使う量が少ないので、10g使えば0.12gです。マーガリンを10g塗ると0.065gです。「トランス脂肪酸=マーガリン」という図式の外側にも、トランス脂肪酸はあります。ただし、サラダ油の1.2%は、EU や WHO の「脂肪の2%以内」に収まっています。日清オイリオは、国内に法律上の基準や含有量の規制はないが、デンマークの基準(油脂中2%まで)を目標に管理している、と説明しています(企業の説明)。

「どの油がよいか」は、トランス脂肪酸の量だけでは決まりません。脂肪酸の組成(飽和・一価・多価不飽和)や、加熱への強さも関わります。それは 植物油と動物性の油の記事 にまとめています。ここでは、トランス脂肪酸の公表値が小さい油を選びたい人のために、公表値が0.1g未満のものを例に挙げます。

日本人はどのくらい食べているのか

推計は3つあって、食い違う

「日本人の平均は、エネルギーの何%か」には、方法の違う推計が3つあります。

方法 平均の摂取量 出典
食品ごとの含有量(2006年度の調査)に、食べる量(国民健康・栄養調査 2003〜07年)をかける 0.666g/日(エネルギー比0.31%)。中央値は0.544g(0.27%) 食品安全委員会の評価書(2012年)
実際の食事を丸ごと買って分析する(トータルダイエットスタディ、2005〜07年度) 0.92〜0.96g/日(0.44〜0.47%) 農水省
国内で作られた加工油脂の量から逆算する(2006年) 1.3g/日(0.6%)。1998年の同じ方法では1.56g/日(0.7%) 評価書、日本マーガリン工業会(業界団体)の見解が引用

消費者庁の2011年の指針は「平均摂取量は総エネルギーの0.6%程度」と書いており、これは3つ目の値と同じ水準です。3つとも、WHO の目標(1%未満、2000kcal なら2.2g)を下回ります。 ただし、方法が違い、いちばん新しい調査でも10年以上前の含有量にもとづきます。最新の全国調査は、見つけられませんでした。

平均の裏側:小さい子どもと、上位5%の人

日本人のトランス脂肪酸摂取量:年齢別の平均と上位5%の人総エネルギーに占める%(食品安全委員会 2012年。2006年度の含有量と国民健康・栄養調査から)平均(男)平均(女)上位5%(男)上位5%(女)WHOの目標 1%0%0.3%0.6%0.9%1.2%1〜67〜1415〜1920〜2930〜3940〜4950〜5960〜6970〜年齢(歳)1〜6歳:0.47%7〜14歳:0.42%15〜19歳:0.36%20〜29歳:0.31%30〜39歳:0.28%40〜49歳:0.27%50〜59歳:0.25%60〜69歳:0.23%70〜歳:0.24%1〜6歳:0.46%7〜14歳:0.44%15〜19歳:0.38%20〜29歳:0.37%30〜39歳:0.36%40〜49歳:0.34%50〜59歳:0.31%60〜69歳:0.27%70〜歳:0.26%1〜6歳:1.02%7〜14歳:0.79%15〜19歳:0.79%20〜29歳:0.74%30〜39歳:0.66%40〜49歳:0.64%50〜59歳:0.58%60〜69歳:0.59%70〜歳:0.6%1〜6歳:0.99%7〜14歳:0.83%15〜19歳:0.82%20〜29歳:0.85%30〜39歳:0.79%40〜49歳:0.76%50〜59歳:0.71%60〜69歳:0.64%70〜歳:0.62%1〜6歳の男児の上位5%は1.02%(目標の1%を超える)平均は男0.47%・女0.46%70歳以上 平均 0.24〜0.26%上位5%=その年齢の100人を多い順に並べたとき、多いほうから5番目の人(95パーセンタイル)。全年齢の平均は男0.30%・女0.33%、上位5%は男0.70%・女0.75%。1%は、2000kcalの人でおよそ2.2g/日。平均はどの年齢も1%の半分以下。ただし小さい子どもは、平均も上位5%も高い。評価書は「硬化油・食用植物油由来に限ると、99パーセンタイルでも1%は超えない」とも書いている。出典:食品安全委員会「食品に含まれるトランス脂肪酸」評価書に関する Q&A(2012年3月)問2。
出典:食品安全委員会「食品に含まれるトランス脂肪酸」評価書に関する Q&A(2012年3月)問2

食品安全委員会の評価書は、年齢が低いほど摂取量が高い傾向があると書いています。

  • 全年齢の平均は、男性0.30%・女性0.33%。上位5%(95パーセンタイル)は、男性0.70%・女性0.75%
  • 1〜6歳の男児は、平均0.47%、上位5%が1.02%で、WHO の目標を超えます。女児の上位5%は0.99%です
  • 1〜29歳の男性と1〜59歳の女性の上位1%(99パーセンタイル)も、1%を超えます
  • ただし評価書は、硬化油と食用植物油由来に限ると、99パーセンタイルでも1%を超えないとも書いています(農水省の上限値で推計すると、1〜14歳の男性などで超えます)

食事を記録する調査も、平均の裏側を示しています。

  • Yamada ら(2010年):30歳以上の225人が16日間、食事を記録。平均は男女とも1日1.7g(エネルギーの0.7〜0.8%)。男性の5.7%、女性の24.4%が1%を超え、とくに都市部の30〜49歳の女性で目立った
  • Kawabata ら(2010年):学生118人(18〜26歳)の6日間の記録。男性の1.8%、女性の11.5%が1%を超えた。クッキー・ケーキ・焼き菓子の摂取量と、トランス脂肪酸の摂取量が正の相関
  • Yamada ら(2009年):栄養士養成校の女子学生1,136人(18〜22歳)の食事歴調査で、平均0.90%(硬化油由来が77%)。母集団は代表的ではない

どれも観察研究(食事調査)で、人数や集団が限られます。「日本人の平均は低い」と、「1%を超える人もいる」は、どちらも本当です。

何から摂っているのか

農水省のトータルダイエットスタディ(2005〜07年度)で、食品群別の1日の摂取量は次のとおりでした。

食品群 1日あたり(g) 全体に占める割合(ウラヨミの計算)
油脂類 0.185〜0.195 約20%
菓子類 0.167〜0.171 約18%
調味料・香辛料類 0.140〜0.143 約15%
乳類 0.131〜0.134 約14%
穀類 0.111〜0.114 約12%
肉類 0.106〜0.113 約12%
魚介類 0.053 約6%
合計 0.918〜0.962 100%

油脂類(マーガリンや油)は5分の1にすぎません。 油脂類・調味料(ルウ・マヨネーズ・ドレッシング)・菓子を合わせても、半分強(約53%)です。乳類と肉類(天然由来が中心)で約4分の1あります。「マーガリンをやめれば、トランス脂肪酸はなくなる」わけではないことが、数字から分かります。

世界と比べると

国・地域 調査の時期 トランス脂肪酸(総エネルギーの%)
日本 2003〜07年 0.31(食品安全委員会)、0.44〜0.47(農水省)
オーストラリア 2011-12年 0.6
ニュージーランド 2008-09年 0.6
欧州連合 1995-96年(規制前) 男0.5〜2.1、女0.8〜1.9
米国 1994-96年(規制前) 2.6(部分水素添加油脂由来は2.0)
米国 2011-12年(規制前) 0.5(部分水素添加油脂由来のみ。上位10%は1.0)
カナダ 2008年(規制前) 1.42
韓国 (成人) 0.064
中国 2013年 平均0.16、北京・広州などの大都市部0.34

出典は農水省の整理です。調査の年・対象・方法が違い、規制の前の数字も含むので、順位をつけるものではありません。日本は、国際的には「摂取量が少ない国」に入ります。消費者委員会のとりまとめ(2015年)は、デンマークの1996年の1.0%が2005年に0.6〜0.7%に、英国の1986-87年の2.2%が2007年に1.0%に下がったことも整理しています。

減らした分、何が増えたのか

トランス脂肪酸を減らすには、代わりの固い油脂が要ります。何に置き換えたかで、結果は変わります。 ここが、「トランス脂肪酸=悪、減らせば解決」では済まない部分です。

2006年度と2010年度の調査で比べると(食品安全委員会)

食品安全委員会は、2006年度と2010年度に製品を測りました。同じ銘柄を測り直したのは一般家庭用の11点だけで、業務用は別の試料の平均どうしの比較です(評価書は、業務用の2006年度の試料には製品の連続性がないと書いています)。

品目 トランス脂肪酸(g/100g) 飽和脂肪酸(g/100g、参考値)
一般用マーガリン(6点) 平均5.28→3.13(約41%減) 記載なし
ファットスプレッド(4点) 平均2.48→2.01(約19%減) 記載なし
業務用マーガリン 平均で10分の1以下(ほとんどの試料で約1) 29.9→40.9(1.4倍)
業務用ショートニング 平均で10分の1以下(ほとんどの試料で約1) 23.9→45.4(1.9倍)

評価書は、低減されていない銘柄や、濃度の高い銘柄も残っていると書き、低減に伴って増えた飽和脂肪酸にも、今後留意が必要としています。一般用の試料の市場占有率は、合計で約51%でした。

ただし、資料で食い違っています。農水省の2022-23年度の調査は、「トランス脂肪酸の低減に伴って、飽和脂肪酸が増加する傾向は確認されなかった」と書いています。試料・年度・業務用の割合が違うので、どちらも書きます。2022-23年度の飽和脂肪酸の中央値は、マーガリン30g、ファットスプレッド20g、ショートニング46gです。

世界を見ても、同じことが起きています。デンマークでは、規制後に調べた製品の3分の2以上で、トランス脂肪酸が主に飽和脂肪酸(ココナッツ油・パーム油)に置き替わっていました。

同じ10gで比べる

同じ10gで比べると:飽和脂肪酸と、トランス脂肪酸パンに塗る量の目安(10g)あたり。トランス脂肪酸を減らした分、飽和脂肪酸はどうなったかを見る飽和脂肪酸(g)トランス脂肪酸(g)024600.10.2有塩バター有塩バター 飽和脂肪酸 5.05 g/10g5.05有塩バター トランス脂肪酸 0.19 g/10g0.19バター風味のスプレッド等バター風味のスプレッド等 飽和脂肪酸 2.7 g/10g2.7バター風味のスプレッド等 トランス脂肪酸 0.1 g/10g0.1ショートニング(家庭用)ショートニング(家庭用) 飽和脂肪酸 4.62 g/10g4.62ショートニング(家庭用) トランス脂肪酸 0.061 g/10g0.061マーガリン(家庭用)マーガリン(家庭用) 飽和脂肪酸 2.3 g/10g2.3マーガリン(家庭用) トランス脂肪酸 0.065 g/10g0.065ファットスプレッドファットスプレッド 飽和脂肪酸 2.04 g/10g2.04ファットスプレッド トランス脂肪酸 0.048 g/10g0.048飽和脂肪酸:日本食品標準成分表(八訂)増補2023年の100gあたりの値を10分の1にした。 乳等食品は農水省の調査の中央値(27g/100g)から。トランス脂肪酸:農水省の調査の中央値(100gあたり)を10分の1にした。 マーガリン・ショートニング・ファットスプレッド・乳等食品は令和4・5年度、 バターは平成18・19年度(1.9g/100g、13点)。調査の年が違うので、バターとの差は参考。 バターのぶんは天然由来が中心。分析では天然由来と工業由来を区別できない。 農水省は、調査値を「おおよその目安」としている。出典:文部科学省 日本食品標準成分表、農林水産省の含有実態調査。計算はウラヨミ。
出典:文部科学省 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年、農林水産省の含有実態調査をもとに、ウラヨミが10gあたりに計算

パンに塗る量の目安(10g)で、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸を並べました(ウラヨミの計算)。

  • 家庭用マーガリンは、飽和脂肪酸が2.30g、トランス脂肪酸が0.065gです
  • 有塩バターは、飽和脂肪酸が5.05g(マーガリンの2.2倍)、トランス脂肪酸は0.19g(約3倍。ただし天然由来が中心で、調査も2006-07年度のものです)
  • 家庭用ショートニングは、飽和脂肪酸が4.62gです。トランス脂肪酸は0.061gと、マーガリンと同じ程度です

「どちらが体に悪いか」は、1つの数字では決められません。トランス脂肪酸だけを見ればマーガリンのほうが少なく、飽和脂肪酸だけを見ればバターのほうが多い、という結果です。

飽和脂肪酸との比べ方

「トランス脂肪酸と飽和脂肪酸は、どっちが悪いのか」にも、数字で答えられる部分があります。

  • 同じエネルギー量で比べると、LDL/HDL比への影響は、トランス脂肪酸が飽和脂肪酸の約2倍です(60の試験のまとめ)。飽和脂肪酸はHDLを下げませんが、トランス脂肪酸は下げます
  • 日本の食事摂取基準(2025年版)は、実際の摂取量で計算しています。トランス脂肪酸の平均は0.3%、飽和脂肪酸は7%程度なので、(0.3×2)÷(7×1)で、トランス脂肪酸の影響は飽和脂肪酸の約12分の1になる、という計算です

つまり、1グラムあたりの影響はトランス脂肪酸のほうが大きく、量では飽和脂肪酸のほうがずっと多い、ということです。そして、飽和脂肪酸の害そのものが、研究者の間で議論されています。

立場 内容
米国心臓協会の勧告(2017年) 飽和脂肪酸を、多価不飽和の植物油に置き換えた試験で、心血管疾患が約30%減った。精製した炭水化物・糖で置き換えても減らない(訂正あり)
コクラン・レビュー(2020年) 飽和脂肪酸を減らす2年以上の試験15件で、心血管イベントは17%減。全死亡と心血管死亡は差なし(著者は WHO の専門家で、WHO から研究費)
Chowdhury ら(2014年)、de Souza ら(2015年) 飽和脂肪酸と冠動脈疾患の関連が見えない(de Souza は、確実性が「非常に低い」と評価)
Astrup ら(2020年) 飽和脂肪酸の制限を支持しない、との反論

どの油を選ぶかは、植物油と動物性の油の記事 にまとめています。

置き換える相手で、結果が変わる

モザファリアンとクラークの分析(2009年)は、トランス脂肪酸の1%分を、何に置き換えるかで効果が変わると示しました(試験と追跡研究からの試算)。

置き換え先 総コレステロール/HDL比の変化(1%あたり、試験のまとめ) 冠動脈疾患のリスク(2%を置き換えたとき、追跡研究)
飽和脂肪酸 0.31 低い 17%低い
一価不飽和脂肪酸 0.54 低い 21%低い
多価不飽和脂肪酸 0.67 低い 24%低い

同じ分析の別の試算では、トランス脂肪酸が35%の部分水素添加油を、エネルギーの7.5%分、バターに置き換えると、冠動脈疾患のリスクの減り方は小さく(試験にもとづく試算で11.9%、追跡研究にもとづく試算で14.4%)、キャノーラ油なら16.0%(試験)、大豆油なら33.4%(追跡)でした。置き換えが「トランス→飽和」で止まると、効果は小さい、という意味です。

バターに戻せばよいのか

「それなら、バターに戻せばよい」という声もあります。研究を見ると、そう単純ではありません。

  • トランス脂肪酸をほとんど含まない軟らかいマーガリンは、バターよりLDLを下げました(トンスタッドら、2001年:高コレステロールの77人、23日、総エネルギーの15%、LDLは11%低下)。ただし、製品を開発した食品会社が関わっていて、資金源の記録はありません
  • バターを多く食べる人は、死亡が多い、という追跡研究があります(米国の22万人・最長33年、バター最多群が全死亡1.15倍。Zhang ら、2025年)。10g/日のバターを植物油に置き換えると、全死亡が17%低い、という試算です。ただし観察研究です
  • バターの追跡研究9件(636,151人)のまとめは、14g/日(大さじ1)あたりで、全死亡1.01倍・心血管疾患1.00倍・糖尿病0.96倍と、関連は小さいか中立でした(Pimpin ら、2016年。試験はなし)
  • マーガリン・バターなどの5g/日を、オリーブ油に置き換えると、心血管疾患のリスクが5〜7%低い、という米国の追跡研究もあります(Guasch-Ferré ら、2020年)

「バターのほうが安全」「マーガリンのほうが安全」とは、どちらも言えません。分かるのは、置き換える相手(バター・植物油・オリーブ油など)で結果が変わることです。

完全水素添加とエステル交換は、研究が少ない

トランス脂肪酸を出さずに固める方法に、完全水素添加とエステル交換(脂肪酸の並び方を入れ替える)があります。いまのマーガリンやショートニングは、こうした方法で固さを出しています(ショートニングの原料と作り方は ショートニングの記事 にあります)。人での試験は約25件と少なく、主な試験はパーム油の業界団体(マレーシアパーム油庁、MPOB)の資金で行われています。

研究 対象・期間 結果 資金・利益相反
Sundram ら(2007年) 健康な30人、4週×3 ステアリン酸が多いエステル交換脂肪は、部分水素添加の大豆油と同様に、LDL/HDL比と空腹時血糖が上がった(血糖は約20%高い) MPOB の資金。第一著者は MPOB の社員
Ng ら(2018年) 過体重の85人、8週間 インスリン抵抗性の指標に差なし MPOB の研究費
Hall ら(2025年) 健康な51人、6週×2 パルミチン酸型とステアリン酸型のエステル交換脂肪で、総/HDL比に差なし MPOB の研究費。共著者に ADM 社の社員
Mills ら(2021年) 食後の試験 パルミチン酸が多い油は、エステル交換の有無にかかわらず、小さいLDLなどが増えた。エステル交換自体は消化を変えない 英国の公的資金。試験用の脂肪は ADM 社が提供
Hayes と Pronczuk(2010年、レビュー) 約25の試験 少量なら「異常は検出できない」。ステアリン酸型を多く与えた試験で悪影響。7〜8%から 著者の Hayes は、パーム油諮問会議のメンバー

日常的な量の試験は、「差なし」のものが多いです。ただし、期間は4〜8週間、人数は数十人、資金の多くは業界です。「安全が確認された」とも「危険」とも言えず、「研究が少なく、長期の影響は分かっていない」が正確です。なお、業務用マーガリンやショートニングで飽和脂肪酸が増えたこと(前の項)は、別の話です。

ラベルの読み方と自分で計算する方法

「0g」と書けるルールは、国で違う

「トランス脂肪酸0g」「ゼロ」と書かれた食品は、本当にゼロなのでしょうか。日本では、100gあたり0.3g未満なら「0g」と書けます(消費者庁の指針)。国によって、この条件は違います。

国・地域 「0g」と書ける条件
日本(指針、任意) 食品100g(100ml)あたり0.3g未満
米国 1食あたり0.5g未満
カナダ 「フリー」の強調は、1食あたり0.2g未満、かつ飽和脂肪酸との合計が2g未満など
韓国 1食あたり0.2g未満(食用油脂は100gあたり2g未満)
台湾 固体100gあたり、総脂質1.0g以下、またはトランス脂肪酸0.3g以下
中国 固体100g(液体100ml)あたり0.3g以下
香港 「含まない」の強調は、固体100gあたり0.3g以下など

同じマーガリン10g(2022-23年度の中央値で、100gあたり0.65g、1回あたり0.065g)を、各国の条件にあてはめてみます(ウラヨミの計算。栄養成分表示の「0」と、強調表示の「フリー」は別のルールなので、実際の運用は各国で確かめてください)。

  • 米国・韓国:1回あたりで見るので、「0g」と書ける水準です
  • 日本・台湾・中国・香港:100gあたりで見るので、0.65gは0.3gを超え、書けません
  • カナダの「フリー」:飽和脂肪酸が1回あたり約3gあるので、条件を満たしません

つまり、同じ1個が、国によって「0g」になったり、ならなかったりします。「0g」は、実測のゼロではなく、その国の切り捨てのルールです。

実例があります。セブン-イレブンの主要なパン27品の栄養成分表は、すべて「トランス脂肪酸0g」です(2025年12月22日現在)。理由は、「商品100gあたり0.3g未満は0gと表示」という指針の運用だと書かれています。一方、農水省の調査では、クロワッサンの中央値が0.20g/100g、範囲は0.12〜2.3でした。0gと書かれていても、100gあたり0.29gまでは入りうるということです。

会社の開示は、温度差がある

事業者 公表の形 内容(公式サイト)
明治・雪印メグミルク・創健社 商品ごとに、10gあたりの値 家庭用の主力のマーガリン類で10gあたり0.05〜0.1g(2018〜2021年の公表)。創健社の2商品は約0.03g
セブン-イレブン・山崎製パン 栄養成分表で「0g」のみ 100gあたり0.3g未満は0g、という運用
ミスタードーナツ 平均値 ドーナツ・パイ・マフィンの1個あたりの平均が、約1.44gから約0.25gへ(2007年の切り替え、計算値)。2026年4月1日時点の取り扱い全アイテムの平均は約0.25g
日本マクドナルド 確かめられた範囲では数値の掲載なし 2007年にフライ油の仕様を変更したと説明
ローソン・ファミリーマート 今回は確認できず ―

「食用精製加工油脂」「加工油脂」の中身は、ラベルから読めない

マーガリンの原材料は、「食用植物油脂」と「食用精製加工油脂」で書かれます。雪印メグミルクの説明では、「食用精製加工油脂」には、水素添加・分別・エステル交換のどれかで加工した油脂があります。部分的に水素添加した油脂を作る工程で、トランス脂肪酸ができます。ラベルの「食用精製加工油脂」だけでは、どの加工か分かりません。

  • 原材料の表示は、「植物油脂」「加工油脂」などのまとめ名称でよく、加工油脂の中身(水素添加やエステル交換)は書かなくてよい決まりです(食品表示基準。くわしくは 植物油脂の記事)。業務用の食用精製加工油脂の JAS は、「(硬化油)」「(分別油)」「(エステル交換油)」と書く規格ですが、これが消費者の目に触れるとは限りません
  • 「部分水素添加油脂不使用」「トランス脂肪酸の低減に取り組んでいます」といった表示は、会社の自主的な表示です。「〇〇不使用」の表示の考え方は 「無添加」表示のルールの記事 にあります
  • マーガリンの原材料にある「乳化剤」は、乳化剤の記事 にまとめています

欧州連合は、水素添加した油脂を使うときに、原材料に「完全」か「部分」かを書くことを求めています。日本には、同じ決まりがありません。

成分表では分からない

日本食品標準成分表(八訂)の脂肪酸成分表には、トランス脂肪酸の列がありません。成分表を使った栄養計算では、トランス脂肪酸は計算できません。値を知る方法は、農水省・食品安全委員会の調査の表と、メーカーの公表値だけです。

自分で計算する

計算の式は、これだけです。

含有量(g/100g)× 食べる量(g)÷ 100 = 食べたトランス脂肪酸(g)

農水省の2022-23年度の中央値(100gあたり)と、1回に食べる量の目安(2014-15年度の農水省の表の範囲)から、1回あたりの量を計算しました。WHO の目標を、2000kcal の人の1日2.2gとして、割合も出しています。

食品 中央値(g/100g) 1回の量(g) 1回あたり(g) 2.2gに対する割合
マーガリン(パンに塗る1回分) 0.65 8〜10 0.052〜0.065 2.3〜2.9%
食パン(6枚切り1枚) 0.03 56〜69 0.017〜0.021 0.8〜0.9%
クロワッサン(1個) 0.20 27〜57 0.054〜0.114 2.4〜5.1%
ドーナツ(1個) 0.16 34〜111 0.054〜0.178 2.4〜8.0%
ショートケーキ(1切れ) 0.12 70〜143 0.084〜0.172 3.8〜7.7%
アップルパイなど(1個または1切れ) 0.13 79〜181 0.103〜0.235 4.6〜10.6%
カレールウ(1皿分) 0.46 18〜34 0.083〜0.156 3.7〜7.0%
マヨネーズ(1回分) 0.39 15 0.059 2.6%
即席めん(1食) 0.10 71〜160 0.071〜0.160 3.2〜7.2%

この表から言えることは、3つです。

  • 食パン1枚にマーガリンを10g塗ると、約0.08gです(パンのぶん0.02g+マーガリン0.065g)。WHO の2.2gの約4%です
  • WHO の目標の2.2gに達するには、いまのマーガリンなら約340g、2006-07年度の中央値(8.7g/100g)のマーガリンなら約26gです。同じ10gでも、昔のマーガリンなら0.87g、いまなら0.065gで、約93%少ないことになります(調査の試料が違うので、単純な減少ではありません)
  • 食パンとマーガリン、カレー、ドーナツ1個、サラダ油10g、コロッケ1個を食べた日を、この表の値で足すと、約0.5〜0.8gです(乳・肉・魚などの天然のぶんは入っていません。ウラヨミの計算の例です)。2.2gの約2〜4割です

原材料欄の油脂の名前(植物油脂・加工油脂など)だけでは、中身が分かりません。気になるときは、栄養成分表示にトランス脂肪酸の欄があるかを見て、あれば量を確かめます(「0g」でも、100gあたり0.3g未満までは入りうることを忘れずに)。

ウラヨミの食品78品を調べると

ウラヨミで紹介してきた食品78品の原材料の欄を数えました(2026年10月3日)。

原材料の表示 該当する品
マーガリン・ショートニング・ファットスプレッド・硬化油 0品
「加工油脂」(食用加工油脂) 2品(コンソメ、コーンクリームのカップスープ)
「植物油脂」 9品(シチューミクス、マヨネーズ、ドレッシング、ルウ、中華スープの素、油そばなど)
「食用油脂」(まとめ名称) 8品(カレールウ7品と、粉ミルク1品)
パーム油・なたね油の混合油脂 1品(エスビー ゴールデンカレー)

油脂の表記があるのは、あわせて20品です。牛脂やラードを使う品は、このうち5品です。マーガリンやショートニングと書いた品は1つもありません。ただ、ルウやスープの素の「植物油脂」「加工油脂」の中身は、裏面からは分かりません。「加工油脂」と書かれていても、水素添加とは限らず、エステル交換や分別かもしれません。ルウのトランス脂肪酸は カレールウの記事 にまとめています。

この記事で紹介したもの(まとめ)

記事の中で紹介したものを、もう一度まとめました。理由や原材料は、それぞれの節に書いています。

紹介したもの 購入先
日清オイリオ BOSCO エキストラバージンオリーブオイル 228g 楽天市場で見る(楽天24) PR
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まとめ

気になること 分かったこと
どうやって見つかった? 液体の油を固める水素添加(1901年の実験、1911年に Crisco 発売)の副産物。1920年の時点では、化学者もトランス型ができていることを認識していなかった。1990年の試験で、LDL上昇・HDL低下が示された
体に悪い? 確かなのは、LDL上昇・HDL低下(試験)と、冠動脈疾患との関連(追跡研究、1.16〜1.93倍と幅あり)。心臓病を試験で調べた研究はない。がん・認知症・不妊などは観察研究が中心で、因果は言えない
天然のものは? 研究者の間で解釈が割れている。WHO は区別しないが、摂取量が少ないため追跡研究では関連が見えにくい
世界の規制は? 2023年末で53か国(人口の46%)が実施。上限2g/100g脂肪か、部分水素添加油脂の禁止。米国の決定は「トランス脂肪酸」の禁止ではなく、部分水素添加油脂の除外
日本はなぜ規制しない? 平均摂取量がエネルギー比1%未満(0.3〜0.6%)だから。国は、増える傾向があれば規制や表示の義務を検討するとしている。WHO は日本を、新たに動けば世界の負担を大きく減らせる8か国のひとつに挙げた
多い食品は? 2022-23年度の農水省の調査で、中央値は乳等食品1.0、マーガリン0.65、ショートニング0.61。サラダ油は1.2g/100g。マーガリンは8.7→0.65と下がった(調査の比べ方に注意)
日本人の摂取量は? 平均は0.3〜0.6%で目標の1%未満を下回るが、1〜6歳の男児の上位5%は1.02%。食事記録では、30歳以上の女性の24%が1%超
減らした分は? 業務用マーガリン・ショートニングで飽和脂肪酸が1.4〜1.9倍(2006→2010年度)。ただし農水省の2022-23年度は「増加傾向は確認されなかった」。バターに戻せばよい、でもない
「0g」は? 日本は100gあたり0.3g未満、米国は1食0.5g未満。同じ食品でも、国によって「0g」と書けたり書けなかったりする

参考にした資料

歴史・しくみ

  • Normann W. の水素添加の特許(英国特許 GB190301515)https://patents.google.com/patent/GB190301515A/en、AOCS「Wilhelm Normann」「The Battle Over Hydrogenation 1903-1920」
  • Berlin Mills 対 P&G、254 U.S. 156(米国最高裁、1920年)
  • 米国農務省 経済研究局(ERS)「Butter and margarine availability over the last century」(2016年)
  • 触媒学会シニア懇談会ニュース No.77(2015年)、工業触媒研究会ニュース No.73(2012年)
  • 農林水産省「トランス脂肪酸ができるしくみ」「トランス脂肪酸の低減の取り組み」
  • 米国 FDA「Final Determination Regarding Partially Hydrogenated Oils」Federal Register 2015年6月17日(80 FR 34650)
  • CSPI(米国の消費者団体)の請願書(FASEB 報告、FDA の判断の引用元)。団体の文書で、引用先の原文は確かめていません

体への影響

  • Mensink RP, Katan MB. N Engl J Med 1990(PMID 2374566)/Mensink RP, et al. Am J Clin Nutr 2003(PMID 12716665)/Aronis KN, et al. Am J Clin Nutr 2012(PMID 23053553)
  • Willett WC, et al. Lancet 1993(PMID 8094827)/Hu FB, et al. N Engl J Med 1997(PMID 9366580)/Oh K, et al. Am J Epidemiol 2005(PMID 15781956)/Chowdhury R, et al. Ann Intern Med 2014(PMID 24723079)/de Souza RJ, et al. BMJ 2015(PMID 26268692)/Bendsen NT, et al. Eur J Clin Nutr 2011(PMID 21427742)
  • Brouwer IA, et al. PLoS One 2010(PMID 20209147)/Chardigny JM, et al. Am J Clin Nutr 2008(PMID 18326592)/Gayet-Boyer C, et al. Br J Nutr 2014(PMID 25345440)/Gebauer SK, et al. Adv Nutr 2011(PMID 22332075)
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  • WHO「Saturated fatty acid and trans-fatty acid intake for adults and children: WHO guideline」(2023年)https://www.who.int/publications/i/item/9789240073630

日本の評価・規制・含有量・摂取量

  • 食品安全委員会「食品に含まれるトランス脂肪酸」評価書(2012年3月)、評価書に関する Q&A https://www.fsc.go.jp/sonota/trans_fat/iinkai422_trans-sibosan_hyoka.pdf
  • 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」脂質、同省 トランス脂肪酸 Q&A
  • 消費者庁「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」(2011年2月21日)、「トランス脂肪酸の情報開示に係る周知・普及について」(2020年6月26日)と事業者の調査
  • 消費者委員会 食品表示部会 食品ワーキング・グループ「トランス脂肪酸に関するとりまとめ」(2015年5月)
  • 食品表示基準(平成27年内閣府令第10号、e-Gov 法令検索)
  • 農林水産省「食品中のトランス脂肪酸の含有実態調査」平成18・19年度、平成26・27年度、平成28年度、令和4・5年度、「トランス脂肪酸の摂取量」「海外の規制」(各国のページ)、「WHO の取組」
  • 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」脂肪酸成分表編
  • 日本マーガリン工業会 生産統計・原料使用量の資料(2016〜2025年)
  • 明治、雪印メグミルク、創健社、J-オイルミルズ、日清オイリオ、セブン-イレブン、山崎製パン、ダスキン(ミスタードーナツ)の公式サイト(2026年10月3日確認)

世界の規制

  • WHO「Trans fat」fact sheet(2024年1月24日)、「Countdown to 2023」報告書、WHO の発表(2024年1月29日、2025年5月19日)
  • 規則(EU)2019/649(EUR-Lex)、Health Canada の通知(2017年)、FSSAI の報道発表(2021年2月)、各国の規制は農林水産省の国別ページ

関心の調べ方

  • Google の検索候補(2026年10月3日取得、日本語2,031種・英語3,176種。ウラヨミで分類・集計)。検索の回数ではなく、実際に打たれている問いの幅を見るもの
  • Wikimedia の閲覧数 API(日本語版・英語版の年間閲覧数)

関連する読みもの・データベース

この記事は、公的機関の資料と研究をもとに表示のルールや評価を整理したもので、特定の食品や添加物の安全性・危険性を判定するものではありません。制度や海外の規制は変わることがあります(確認日 2026.10.03)。