「経皮毒」は本当? シャンプーや洗剤の成分は皮膚から入るのか、表示に出ないもの
「シャンプーや洗剤の化学物質が皮膚から入って、体にたまる」こうした話を「経皮毒(けいひどく)」という言葉とともに見聞きしたことはありませんか。
一方で、洗剤で手が荒れる、化粧品でかぶれる、柔軟剤の香りで気分が悪くなる、といったことは実際に起きています。
この記事では、
- 「経皮毒」とはどんな説で、国や学会はどう扱ってきたのか
- 皮膚から物質はどれくらい入るのか
- 日用品で実際に気をつけたほうがよいこと
- シャンプー・洗剤の表示のルールと、表示に出ないもの
- 「無添加」の読み方
を、国・学会・業界団体の資料をもとに整理します。
結論:「たまる毒」ではなく、「かぶれ」と「表示の穴」に注意
- 「経皮毒」は学術用語ではありません。2008年、経済産業省は、この言葉を使って市販の洗剤が有害だと説明した連鎖販売業者に、「不実のことを告げた」として業務停止命令を出しています
- 洗剤の成分である界面活性剤は、これまでの毒性試験で、皮膚から吸収される量はわずかで、体内にたまることもないと評価されています
- 一方、手荒れ(刺激性接触皮膚炎)やかぶれ(アレルギー性接触皮膚炎)は実際に起きます。日本皮膚科学会のガイドラインは、洗剤による皮膚炎は通常は刺激性で、主な原因はアニオン系の界面活性剤だとしています
- 皮膚からアレルギーになる「経皮感作」も、茶のしずく石鹸の事件などで確かめられています。ただし、これは「毒がたまる」という話とは別のしくみです
- シャンプーなどの化粧品は全成分を表示しますが、洗濯用・台所用洗剤は主な成分しか表示されません。量の少ない配合剤は、裏面に書かれないことがあります
- 「無添加」は、何が入っていないのかを見ることが大切です
「経皮毒」とはどんな説か
「経皮毒」は、シャンプーや洗剤、化粧品などに含まれる化学物質が皮膚から吸収され、体の中にたまって害をおよぼす、という説です。「口から入るより排出されにくい」と、数字をあげて説明されることもあります(その数字の元になった研究は、ウラヨミが調べた範囲では見つかりませんでした)。
国と学会の扱い
経済産業省の業務停止命令(2008年)
2008年2月20日、経済産業省は、ある連鎖販売業者に業務停止命令を出しました。その理由のひとつとして、勧誘者が「経皮毒」という言葉を使い、市販の台所用洗剤に皮膚を通じて体内にたまる毒が含まれている、と説明したことや、「同社の商品でアトピーが治る」と告げたことが挙げられ、商品の品質や効能について「不実のこと」を告げて勧誘したと判断されています。
日本家政学会誌(2010年)
日本家政学会誌に「経皮毒」をテーマにした記事が掲載されたあと、学会の編集委員会が「不適切な記事掲載であった」とする文章を出しました。同じ学会誌で、洗剤の研究者(大矢勝・横浜国立大学教授)は、「経皮毒」は学術用語ではない造語で、皮膚から投与したときの毒性を調べる「経皮毒性」の研究成果を反映していない、と説明しています。
界面活性剤の評価
洗剤の主な成分である界面活性剤は、口から・皮膚から・注射などで与える毒性試験が重ねられてきました。
- 欧州のリスク評価(HERA)では、皮膚から吸収される量はわずかで、体内にたまることもなく、人の健康に悪影響をおよぼすとは考えられないという結論が出ています
- 日本では、1983年に厚生省(当時)が『洗剤の毒性とその評価』をまとめ、それまでの毒性の議論に一応の決着がついたとされています
- 放射性同位元素を使った試験で、体内にたまるかどうかも調べられ、蓄積性は否定されています
(大矢勝「安全性・環境問題に関する消費者情報の課題」日本家政学会誌 2010年 の整理による)
皮膚から、物質はどれくらい入る?
皮膚のいちばん外側にある角層は、外からの物質の侵入を防ぐバリアの役割をしています。
- 日本皮膚科学会のガイドラインは、正常な皮膚では、分子量1,000以上の物質が角層を通過することはないと考えられているとしています
- 皮膚科の研究では、皮膚から吸収されるには分子量500ダルトン未満であることが必要だという「500ダルトン則」も提唱されています(Bos & Meinardi 2000)。逆に言えば、小さな分子は皮膚を通りうるということです
- 同じガイドラインは、今の生活環境では角層が傷つく機会が多く、皮膚に触れた刺激物質が、傷ついたところから入り込んで炎症を起こすと考えられている、としています
「皮膚からはまったく入らない」でも「何でもどんどん入ってたまる」でもなく、物質の大きさや性質、皮膚の状態によって変わる、というのが実際のところです。
日用品で、実際に気をつけたいこと
「毒がたまる」という話とは別に、日用品が原因の皮膚のトラブルは実際に起きています。
手荒れ(刺激性接触皮膚炎)
日本皮膚科学会の「接触皮膚炎診療ガイドライン2020」は、次のように説明しています。
- 洗剤などによる皮膚炎は、通常は刺激性接触皮膚炎
- 主な原因は、主にアニオン系の界面活性剤。皮膚のバリア機能が落ちて、手指や手のひらに赤み・小さな水ぶくれ・皮むけ・ひび割れが出て、長引くと皮膚が厚く硬くなる
- 化粧品による副作用も、90%以上が刺激性皮膚炎
アレルギーとは違い、刺激そのものによって起こるタイプの皮膚炎です。
かぶれ(アレルギー性接触皮膚炎)
アレルギー性接触皮膚炎は、ある物質に一度「感作」されると、ごく少量でも皮膚炎が起きるタイプです。同じガイドラインには、皮膚科でのパッチテスト(原因を調べる検査)で陽性になった人の割合が載っています(2016年度、日本の標準アレルゲン)。
| 検査したアレルゲン | 陽性率 | 主な使われ方 |
|---|---|---|
| 香料ミックス | 5.3% | 化粧品・日用品の香料 |
| イソチアゾリノンミックス | 4.3% | 化粧品・シャンプー・リンスなどの防腐剤 |
| パラベンミックス | 0.9% | 化粧品・薬品・食品などの防腐剤 |
(皮膚炎があって検査を受けた人の中での割合で、一般の人の割合ではありません)
ガイドラインは、イソチアゾリノン系防腐剤の陽性率が高くなり、化粧品や日用品で注目されているアレルゲンだとしています。香料や防腐剤を「毒」と呼ぶ根拠はありませんが、かぶれの原因になることはある、ということです。
皮膚からアレルギーになることもある(経皮感作)
洗顔石けん「茶のしずく石鹸」(旧製品)に含まれていた加水分解コムギ(グルパール19S)により、多くの人が小麦アレルギーを発症しました。2014年4月20日時点で、確実例は2,163人と報告されています。石けんを使い続けるうちに、皮膚や粘膜から小麦の成分に感作され、その後、小麦を食べたときにアレルギー症状が出るようになったと考えられています。
これは、皮膚を通してアレルギーが起きるようになるしくみで、「毒が体にたまる」という経皮毒の説明とは別のものです。
香り(いわゆる香害)
消費者庁などは、「その香り 困っている人もいます」という啓発ポスターを作っています。消費生活センターなどには、柔軟剤などの香りで頭痛や吐き気がするという相談が寄せられていて、自分にとって快適な香りでも、困っている人がいることへの理解を呼びかけています。
表示のルールは、製品によって違う
シャンプーと洗濯用洗剤では、裏面に書かれることのルールがまったく違います。
| 製品 | もとになる法律 | 成分の表示 |
|---|---|---|
| 化粧品(シャンプー・ボディソープ・化粧品など) | 薬機法 | 全成分を表示(2001年から)。ただし、原料に含まれていて製品では効果を発揮しない量の成分(キャリーオーバー成分)は書かなくてよい |
| 医薬部外品(「薬用」のシャンプー・石けんなど) | 薬機法 | 法律で表示が義務なのは一部の成分。業界団体の自主基準(2006年から)で成分を表示している |
| 洗濯用・台所用の洗剤・石けん | 家庭用品品質表示法 | 界面活性剤(または純石けん分)の含有率と種類が中心。ほかの配合剤は、1%以上なら「機能の名前」(例:安定化剤)、10%以上なら種類も書く。蛍光増白剤・酵素・漂白剤は量にかかわらず書く |
(厚生労働省通知、日本化粧品工業会、消費者庁「家庭用品品質表示法」の資料から)
洗剤の裏面に出ないもの
家庭用品品質表示法の洗剤のルールには、香料だけを特に書かせる決まりはありません。含有率が1%未満の配合剤は、名前を書かなくてもよいルールです。そのため、洗濯用・台所用洗剤の裏面を見ても、すべての成分が分かるわけではありません。気になるときは、メーカーのサイトやお客様窓口で確かめるのが確実です。
化粧品の「全成分」にも、書かれない成分がある
化粧品の全成分表示でも、原料に加えられていた酸化防止剤や防腐剤などが、製品の中では効果を発揮しない量しか残っていない場合は、書かなくてよいとされています(いわゆるキャリーオーバー成分)。食品の添加物にも同じ考え方があります → キャリーオーバーの記事
「無添加」の読み方
化粧品の業界団体(日本化粧品工業会)の「化粧品等の適正広告ガイドライン」は、次のように定めています。
- 単に「無添加」とだけ書くのは、何を添加していないのか分からず、不正確。添加していない成分をはっきり示せば、表現してよい
- 「無添加」をキャッチフレーズのように強調しない
- その成分をキャリーオーバー成分として含む場合は、「無添加」と表現できない
- 「肌トラブルの原因になりがちな香料・着色料を含まない」のような書き方は、ほかの製品の誹謗につながるおそれがあるので、「無香料・無着色」などにとどめる
「無添加」と書かれていたら、「香料無添加」「着色料無添加」のように、何が無添加なのかを確かめましょう。「無添加」は「その成分を加えていない」という意味で、「肌にやさしい」「安全」という意味ではありません。
裏面チェックのポイント
- 「経皮毒」を理由に商品をすすめる話は、そのまま信じない:国が不実告知として処分した例があります
- シャンプー・ボディソープは全成分表示を見る:香料や防腐剤でかぶれたことがある人は、成分名で確かめられます
- 洗濯用・台所用洗剤は、すべての成分が書かれているわけではない:香料などを確かめたいときは、メーカーに問い合わせる
- 「無添加」は、何が無添加かを見る:「無添加」だけで、刺激やアレルギーが起きないとは言えません
- 手荒れやかぶれが続くときは皮膚科へ:原因を調べるパッチテストという検査があります
ウラヨミの考え方
ここまでをまとめると、
- 「経皮毒」という説には、科学的な根拠が見当たらず、国がこの言葉を使った勧誘を処分した例もあります
- 一方で、手荒れ・かぶれ・経皮感作・香りの問題は実際に起きていて、学会や国がとりあげています
- 洗剤は、表示のルール上、すべての成分が裏面に出るわけではありません
ウラヨミでは、特定の成分や市販品を「毒」「危険」とは書きません。そのうえで、日用品の商品ページでは、メーカーが表示している「〇〇無添加」はメーカーの表示としてそのまま引用し、成分の役割もあわせて紹介します。
あわせて知っておきたいこと
- 無添加をうたう洗濯用・台所用洗剤の表示の比較と、石けん・合成洗剤の見分け方 → 無添加洗剤の記事
- 原料に使われた添加物・成分が表示されないしくみ → キャリーオーバーの記事
- 食品の「香料」も、1語でまとめて書ける表示です → 香料の記事
- 食品の「保存料不使用」の読み方 → 保存料の記事
参考にした資料
- 大矢勝「安全性・環境問題に関する消費者情報の課題 ―2.5次情報中の誤情報に対応するために―」日本家政学会誌 61(8) 511-516, 2010(経済産業省の業務停止命令〔2008年2月20日〕の内容を引用)
- 日本皮膚科学会「接触皮膚炎診療ガイドライン2020」日皮会誌 130(4) 523-567, 2020
- Bos JD, Meinardi MM「The 500 Dalton rule for the skin penetration of chemical compounds and drugs」Exp Dermatol 2000
- 酒井信夫ほか「加水分解コムギの経皮感作によるアレルギー」化学と生物 52(7) 431-437, 2014
- 消費者庁ほか「その香り 困っている人もいます」ポスター(2023年7月改訂)/厚生労働省 事務連絡(2023年7月19日)
- 厚生労働省「化粧品の全成分表示の表示方法等について」(2001年3月6日)
- 日本化粧品工業会「医薬部外品の成分表示」(2006年4月実施の自主基準)/「化粧品等の適正広告ガイドライン 2020年版」F5.8・F5.9
- 消費者庁「家庭用品品質表示法」雑貨工業品品質表示規程(合成洗剤/洗濯用又は台所用の石けん)
※この記事は、表示のルールと公的機関・学会の資料を説明するもので、特定の製品や成分の安全性・危険性を判定するものではありません。皮膚の症状が続くときは、皮膚科を受診してください。