食品の重金属データベース解説確認日 2026.10.03
離乳食・ベビーフード・粉ミルクの重金属:農水省の調査と海外の基準
農水省が2023年度に測った乳幼児用食品180点の鉛・カドミウム・ヒ素・水銀と、EU・Codex・米国の基準、米を原料にした食品の注意を、公的資料の数字で整理します。
結論
農水省の調査(2023年度、乳幼児用食品180点)では、鉛は151点が定量下限未満でした。最大は、ドライタイプで0.054 mg/kg、粉末状の調製乳で0.015、ウェットタイプで0.009です。無機ヒ素の最大は、ドライタイプで0.80、ウェットタイプで0.17でした。農水省は、乳幼児用食品から摂る量は食品全体に占める割合が小さく、リスク管理措置の必要性は低いと判断しています。
ただし、この調査は食品衛生法の規格基準への適否を判断するものではなく、分析法も法定法と異なります。EU や米国の基準と直接比べて、「満たす」「超える」とは言えません。
日本には、鉛・カドミウム・無機ヒ素について、乳幼児用食品の食品別の基準値は、調べた範囲で見つかりませんでした。EU・Codex・米国には、乳児用調製乳やベビーフード、乳幼児向けの米の基準があります。
農水省の調査:乳幼児用食品180点(2023年度)
2024年12月23日に公表された調査です。各区分の最大値を示します(mg/kg)。「ドライタイプ」「ウェットタイプ」などは農水省の区分です。
| 区分(点数) | 鉛 | カドミウム | 総ヒ素 | 無機ヒ素 | 総水銀 |
|---|---|---|---|---|---|
| ドライタイプ(30) | 0.054 | 0.40 | 8.6 | 0.80 | 0.012 |
| ウェットタイプ(59) | 0.009 | 0.048 | 0.44 | 0.17 | 全て未満 |
| 菓子類(31) | 0.044 | 0.11 | 0.79 | 0.095 | 全て未満 |
| 飲料(RTD)(20) | 0.004 | 0.008 | 0.018 | 0.012 | 全て未満 |
| 飲料(希釈用・粉末)(10) | 0.029 | 0.015 | 0.011 | 全て未満 | 全て未満 |
| 調製乳(粉末)(20) | 0.015 | 0.013 | 0.069 | 0.047 | 全て未満 |
| 調製乳(液状)(10) | 全て未満 | 全て未満 | 0.005 | 0.004 | 全て未満 |
- 鉛は、180点のうち151点が定量下限未満です。粉末状の調製乳から、調乳後の鉛を推定すると、0.0004〜0.0010 mg/L です。
- ドライタイプの総ヒ素は、平均0.65・最大8.6です。どの製品が最大値だったか(ひじきなどの原料)は、公表資料では分かりません。
- 農水省は、この調査は食品衛生法の規格基準への適否を判断するものではなく、分析法も法定法と異なる、と明記しています。
日本の基準
- 鉛・カドミウム・無機ヒ素について、乳幼児用食品の食品別の基準値は、調べた範囲で見つかりませんでした(粉ミルクの規格を定める法令の個別の項目までは、確かめていません)。
- 日本の法的な基準があるのは、カドミウムでは米(0.4 mg/kg)とミネラルウォーター類(0.003 mg/L)、鉛・ヒ素では清涼飲料水(ミネラルウォーター類を除く。検出されないこと)、ミネラルウォーター類(鉛・ヒ素とも0.05 mg/L)、水道水(鉛・ヒ素とも0.01 mg/L)などです。
- 米のヒ素については、日本に基準が見当たらず、EU には乳幼児用の米の基準があります。
海外の基準
| 食品・物質 | Codex | EU(規則2023/915) | 米国 |
|---|---|---|---|
| 乳児用調製乳・鉛 | 0.01 | 0.020(粉末)/0.010(液状) | — |
| ベビーフード・乳幼児用穀類加工品・鉛 | 0.02 | 0.020 | — |
| 乳児用調製乳・カドミウム | — | 0.010(粉末)〜0.020(大豆) | — |
| 乳児用食品・カドミウム | — | 0.040 | — |
| 乳児用調製粉乳・無機ヒ素 | — | 0.020(粉末)/0.010(液体) | — |
| ベビーフード・果汁・無機ヒ素 | — | 0.020 | — |
| 乳幼児用の米(原料)・無機ヒ素 | — | 0.10 | 乳児用ライスシリアル 0.1(アクションレベル、2020年) |
| ライスドリンク・無機ヒ素 | — | 0.030 | — |
| 乳幼児向け加工食品・鉛 | — | — | 果実・野菜・混合食品・ヨーグルトなど 10 ppb、単一原料の根菜 20 ppb、ドライの乳児用シリアル 20 ppb(2025年1月、ガイダンス) |
- 米国 FDA のアクションレベルは、法的拘束力のないガイダンスです。対象は2歳未満向けと標榜される包装加工食品で、調製乳・飲料・スナック・ジュースは含みません。
- 日本の調査の最大値は、mg/kg を ppb に直すと、鉛でウェットタイプ9 ppb、ドライタイプ54 ppb です。ただし日本の調査は規格適否の判断ではなく、食品の区分も FDA と異なるので、「満たす・超える」とは言えません。
米を原料にした食品:ライスミルク・ライスシリアル
- EUは、乳幼児用の米の無機ヒ素に0.10 mg/kg(一般の精米0.15より低い)、ライスドリンクに0.030 mg/kg の基準を置いています。
- 米国 FDAは、乳児用ライスシリアルの無機ヒ素に、100 μg/kg のアクションレベルを設けています(2020年)。
- 英国 FSAは、5歳未満の子どもに、ライスミルクを母乳・粉ミルク・牛乳の代わりに与えないよう助言しています(2018年公開)。
- 日本の米加工品(米菓・米粉など)の無機ヒ素の公的な調査は、見つかりませんでした。国産米の実測値は玄米・白米のヒ素とカドミウムにあります。
- ヒ素の耐容量を日本は設定していません。EFSA(2024年)は、乳幼児で、穀類食品・ビスケットなどが主な曝露源になるとしています。
粉ミルクと森永ヒ素ミルク事件
- 1955年の森永ヒ素ミルク事件は、徳島工場の粉ミルクに加えた第二リン酸ソーダに、無機ヒ素が約10%混ざっていたものです。乳児約12,000人が中毒になり、133人が亡くなったとされています(食品安全委員会の評価書)。
- これを契機に、1959年12月28日に、食品、添加物等の規格基準(厚生省告示第370号)が定められ、ヒ素の規制が始まりました。
- 被害者の追跡調査では、5,064人(1982〜2004年)で、全死因の超過は1.3倍、中枢神経系は5.4倍でしたが、中年期以降は全死因の超過が消える、という報告があります。別の解析(6,104人、1982〜2006年)の数字と混ぜないようにします。
- 現在の粉ミルクの測定値は、上の農水省の調査にあります(粉末状調製乳:鉛最大0.015、無機ヒ素最大0.047 mg/kg)。EU の粉末状の調製乳の基準(鉛0.020、無機ヒ素0.020)とは、調査の目的・分析法が違うので並べて比べられません。
調乳の水と、家庭でできること
- 水道水の鉛の水質基準は0.01 mg/L です。食品安全委員会は、鉛製給水管を取り替えるまでの間、朝一番の水や長期不在後の水は飲用以外に使うよう助言しています(目安は10〜15L)。鉛製給水管は、全国に192万件が残っています(令和5年度、国土交通省)。
- 米:白米を洗うと無機ヒ素が約2割減りますが、玄米は洗ってもほとんど減りません(農水省)。カドミウムは洗米でほとんど変わりません。
- ひじき:乳幼児向けの国の個別の目安は、調べた範囲で見つかりませんでした。減らす調理の試験は、ひじきは食べないほうがいい?にあります。
- 食品安全委員会は、鉛もヒ素も、特定の食品に偏らず、バランスのよい食生活を、と助言しています。
出典
- 農水省『令和5年度(2023)乳幼児用食品中の鉛等の含有実態調査』(2024年12月23日公表)
- 農水省 加工食品に含まれる鉛の実態調査
- 農水省 国際機関や諸外国が設定する鉛の基準値
- 食品安全委員会『鉛』の評価書に関する Q&A
- 食品安全委員会 食品健康影響評価「ヒ素」(2013年12月)
- EU 規則 2023/915
- 米国 FDA 乳幼児向け加工食品の鉛のアクションレベル(最終ガイダンス、2025年1月)
- 米国 FDA 乳児用ライスシリアルの無機ヒ素のアクションレベル(最終ガイダンス、2020年)
- 英国 FSA『Arsenic in rice』
- EFSA CONTAM Panel. EFSA J 2024;22(1):e8488(無機ヒ素)
- 国土交通省 鉛製給水管の布設替えに関する検討会 資料
- Tanaka H, Oshima 2007(森永ヒ素ミルク被害者の追跡). 日本公衆衛生雑誌(PMID 17533959)
最終確認日 2026.10.03(公的機関の資料・論文の原典で確認し、Gemini Notebook に集めて照合)。
重金属は自然の土や海にもともとある物質で、どの食品にも少しずつ含まれます。このページは、公的機関の調査・基準・評価と論文に書かれている事実を並べたもので、食品の良し悪しを判定するものではありません。妊娠中の方の魚の食べ方など、国の注意事項があるものはそれに従ってください。