重金属の基準は日本と海外でなぜ違う? 日本・Codex・EUの基準と耐容量の一覧
日本にある基準、Codex(国際食品規格)とEUの基準、耐容摂取量の物差しを、一つの表に並べます。「基準なし」は、調べた範囲で見つかっていないという意味です。
結論
日本の食品の重金属の基準は、米(カドミウム0.4 mg/kg)、清涼飲料水、魚介類の水銀の暫定的規制値など、限られています。米の無機ヒ素、鉛の食品別の基準は、調べた範囲で見つかりませんでした。
Codex は食品ごとに最大基準値を置き、EU(規則2023/915)はさらに細かく、カドミウムだけで21区分に上限があります。スパイスの鉛は、EU が基準を置いており、Codex も2024年から乾燥スパイスの鉛の最大基準値を順次採択しています(日本には基準がありません)。
耐容摂取量も機関で違います。水銀は3.4・2.0・1.6・1.3、カドミウムは7・約5.8・2.5と、同じ摂取量が、物差しによって29%にも81%にも見えます。基準は「安全か危険か」の線ではなく、根拠と目的を確かめて読む必要があります。
日本にある基準
| 対象 | 基準 | 備考 |
|---|---|---|
| 米(玄米・精米)のカドミウム | 0.4 mg/kg 以下 | 食品衛生法。2011年2月末施行。それ以前は玄米1.0 ppm 未満(1970年) |
| 魚介類の水銀 | 総水銀0.4・メチル水銀0.3 ppm | 暫定的規制値(1973年の通知)。マグロ類・河川産・深海性魚介類等は適用しない |
| 清涼飲料水(ミネラルウォーター類を除く) | ヒ素・鉛は検出されてはならない(金属製容器包装入りはスズ150.0 ppm 以下) | 食品、添加物等の規格基準 |
| ミネラルウォーター類 | カドミウム0.003・鉛0.05・ヒ素0.05 mg/L 以下 | 厚労省『清涼飲料水の成分規格』。水道水質基準のカドミウムも0.003 mg/L(農水省のリスクプロファイル) |
| 水道水 | 鉛0.01・ヒ素0.01・カドミウム0.003・水銀0.0005 mg/L | 水質基準(平成15年厚労省令第101号) |
| 陶磁器の溶出規格 | 容量1.1L未満で鉛2 μg/mL・カドミウム0.5(4%酢酸、24時間) | 2008年7月31日の告示416号で強化。2009年8月1日以降の製造・輸入品に適用 |
| 米・ひじき・魚介類の無機ヒ素、食品別の鉛 | 基準なし | 食品安全委員会の評価書の表と農水省の資料を読んだ範囲 |
日本・Codex・EUを並べる(mg/kg)
「なし」は、調べた範囲で見つかっていないという意味です。Codex は農水省のページの抜粋、EU は規則2023/915の初版(その後改正あり)で確認しました。
| 食品 | 金属 | 日本 | Codex | EU |
|---|---|---|---|---|
| 精米 | カドミウム | 0.4 | 0.4 | 0.15 |
| 精米 | 無機ヒ素 | なし | 0.2 | 0.15 |
| 玄米 | 無機ヒ素 | なし | 0.35 | 0.25 |
| 米菓 | 無機ヒ素 | なし | — | 0.30 |
| 乳幼児用の米 | 無機ヒ素 | なし | — | 0.10 |
| 魚介類 | 水銀 | 総水銀0.4・メチル水銀0.3(暫定。マグロ類等は適用外) | メチル水銀0.5(高次捕食魚1) | 0.50(マグロ・サメ・メカジキなど1.0、イカ・サバ・サケなど0.30) |
| 魚(筋肉) | 鉛 | なし | 0.3 | 0.30 |
| 魚(筋肉) | カドミウム | なし | — | 0.050(サバ・マグロ類0.10、メカジキ・イワシ0.25) |
| 二枚貝 | カドミウム | なし | 2(カキ・ホタテを除く) | 1.0 |
| 葉菜類 | 鉛 | なし | 0.3(ホウレンソウを除く) | 0.30 |
| ほうれんそう | カドミウム | なし | 0.2(葉菜類) | 0.20 |
| 小麦 | カドミウム | なし | 0.2 | 0.10(穀類一般) |
| ココア粉末 | カドミウム | なし | 2.0 | 0.60(消費者向け) |
| チョコ(カカオ固形分50%以上) | カドミウム | なし | 0.8(50〜70%)・0.9(70%以上) | 0.80 |
| 乳児用調製乳 | 鉛 | なし | 0.01 | 0.020(粉末)/0.010(液状) |
| 乾燥スパイス(樹皮) | 鉛 | なし | 2024年から順次採択(数値は載せていません) | 2.0(根・根茎1.50) |
| 果実ジュース | 鉛 | 検出されてはならない(清涼飲料水) | 0.03 | 0.030 |
| 水道水・ミネラルウォーター | 鉛 | 水道水0.01/ミネラルウォーター類0.05 mg/L | 0.01 mg/L(ナチュラルミネラルウォーター) | — |
日本が基準を置かない理由と、EU が増やしてきた理由
- カドミウム:米以外に基準を置かない理由として、消費者庁は、米以外は摂取量が少なく、基準を作っても低減の効果が小さいこと、生産段階の対策と実態調査で対応する方針であることをあげています。
- 水銀:マグロ類・河川産の魚介類・深海性魚介類等を暫定的規制値の対象から外した理由を書いた一次資料は、見つかっていません。代わりに、妊婦向けの目安量が個別に付いています。
- EUは、上限を設ける食品を段階的に増やしてきました(カドミウムでは2014年と2021年)。子ども向けのチョコや乳児用食品を守る考え方が背景にあります。
- 鉛:日本は食品衛生法で一般食品の鉛の基準値を置いていません(食品安全委員会 Q&A)。耐容量が設定できない物質であることも関係します。
耐容摂取量の物差し
| 金属 | 機関(年) | 値 |
|---|---|---|
| メチル水銀 | 厚生省(1973年)/JECFA(2003年)/食品安全委員会(2005年)/EFSA(2012年) | 3.4/1.6/2.0/1.3 μg/kg/週 |
| カドミウム | 食品安全委員会(2008年)/JECFA(2010年)/EFSA(2009年) | 7 μg/kg/週/25 μg/kg/月(週約5.8)/2.5 μg/kg/週 |
| 無機ヒ素 | JECFA(1988年→2010年撤回→2025年)/EFSA(2024年)/食品安全委員会(2013年) | PTWI 15 μg/kg/週(撤回)→POD 0.3 μg/kg/日(2025年)/参照点0.06 μg/kg/日/設定せず |
| 鉛 | JECFA(2010年)/EFSA(2010年)/食品安全委員会(2021年) | PTWI 25 μg/kg/週を撤回/参照点0.50 μg/kg/日(発達神経毒性)/設定できず |
- 耐容量が設定できない物質があります。無機ヒ素と鉛では、閾値(これ以下なら影響がない量)が見いだせないとして、JECFA は旧い耐容量を撤回しました。代わりに EFSA は、影響が出始める量(参照点)と実際の摂取量の余裕(MOE)で評価します。
- 水銀の最大と最小は約2.6〜2.9倍です。カドミウムは、根拠が違います(日本の疫学で直接決めた値と、尿中濃度から理論モデルで逆算した値)。
同じ摂取量が、物差しで何%にも見える
| 金属・年 | 摂取量 | 物差しごとの割合(ウラヨミの計算) |
|---|---|---|
| 水銀(2024年) | 総水銀5.04 μg/日(全量メチル水銀・体重50kgと仮定) | 厚生省3.4に対して21%/JECFA 1.6に対して44%/食品安全委員会2.0に対して35%/EFSA 1.3に対して54% |
| カドミウム(2022年) | 2.03 μg/kg/週(体重55.1kg) | 食品安全委員会7に対して29%/JECFA(約5.8)に対して35%/EFSA 2.5に対して81% |
| 無機ヒ素 | 18.3 μg/日(2014〜17年度の平均)を体重60kgで割った0.305 μg/kg/日 | 撤回された PTWI(約2.1)の約15%/JECFA 2010 の BMDL0.5(3.0)の約10分の1/JECFA 2025 の POD(0.3)とほぼ同じ/EFSA 2024 の参照点(0.06)の約5倍 |
厚労省も、近い摂取量を2003年には「暫定耐容量(3.4)の35%」、2010年には「妊婦の耐容量(2.0)の57%」と書きました。物差しが変わったためです。
日米で違う線引き:同じ魚、違う助言
メカジキの総水銀は、日本1.003(n=51)・米国0.995(n=636)で、ほぼ同じです。助言は、日本が週80gまで、米国(FDA/EPA 2021年)が「避ける」です。キハダは、日本が制限なし、米国が週1回です。日本は16種に量の目安を付け、米国は魚を3つに分類します。違いを説明した資料は、両国のものとも見つかっていません。詳しくは妊娠中の魚はどれだけ?にあります。
基準の読み方
- 日本に基準がないものは、「基準を超えた」とは言えません。海外の物差しに当てるときは、「他国の基準に当てると」と書きます。
- 基準値は、長期の平均摂取を想定した値です。米のカドミウムの0.4は、数十年の長期摂取を想定した値で、短期間基準を超えるものを食べても、長期の平均が高くならなければ問題にならない、というのが FAO/WHO の専門家会合の見解です(消費者庁)。ただし、基準を超えたものは流通させません。
- 「日本の基準は世界一ゆるい」とは言えません。米のカドミウムは Codex(0.4)と同じで、EU は0.15です。日本が基準を持たない食品が多いのは事実なので、表で並べて読むのがよいでしょう。
- 日本の調査(農水省の乳幼児用食品など)の中には、規格基準への適否を判断するものではなく、分析法も法定法と異なるものがあります。基準と並べて比べないようにします。
出典
- 農水省 カドミウムの基準値(国内)
- 農水省 カドミウムの基準値(国際)
- 農水省 国際機関や諸外国が設定する鉛の基準値
- 農水省『魚介類の水銀の暫定的規制値』
- 農水省 コメ中のヒ素に関する国際基準
- 消費者庁『食品中のカドミウムに関するQ&A』
- EU 規則 2023/915(食品中の汚染物質の最大値)
- EU 規則 2022/617(水銀)
- 厚労省 食品、添加物等の規格基準の一部改正(器具・容器包装、告示416号)
- e-Gov『水質基準に関する省令』
- 食品安全委員会『鉛』の評価書に関する Q&A
- 厚労省『妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項』
- JECFA データベース(カドミウム)
最終確認日 2026.10.03(公的機関の資料・論文の原典で確認し、Gemini Notebook に集めて照合)。