日本人は重金属をどれだけ摂っている? 鉛・カドミウム・水銀・ヒ素の摂取量の50年
厚労科研のトータルダイエットスタディ(1977年〜)で、日本人の平均的な食事からの鉛・カドミウム・水銀・ヒ素の摂取量がどう変わったかを、耐容量との比とあわせて見ます。
結論
1977年からのトータルダイエットスタディで、日本人の平均的な食事からの摂取量は、鉛が約100から約4 μg/人/日(約96%減)、カドミウムが約46から13〜16 μg/人/日(半分以下)、総水銀が15.0から5.04 μg/人/日(約3分の1)と下がりました。
総ヒ素は2007年を底に増えて(145→2021年322→2024年219 μg/人/日)、無機ヒ素は2014年以降14〜23 μg/人/日でほぼ一定です。総ヒ素の大半は魚介由来のアルセノベタイン、無機ヒ素の約7割は米です。
2024年の摂取量を耐容量と並べると、比が1を超えるのは無機ヒ素だけ(1.28〜1.80。EPA RfD・EFSA 2005 暫定TWIに対する比)でした。ただし日本の食品安全委員会は、無機ヒ素の耐容量を設定していません。物差しの選び方で結論が変わります。
4つの金属の推移
国立医薬品食品衛生研究所と全国10地域の地方衛生研究所が、スーパーなどで買った食品を14食品群に分け、調理済みの状態で分析し、国民健康・栄養調査の平均的な食べる量を掛けて推定した値です(マーケットバスケット方式)。下の表は、報告書の図(Fig.4)から読み取った概算で、不検出を0として計算した値です。1978年は1977〜78年の調査です。
| 年 | 総ヒ素 | カドミウム | 総水銀 | 鉛 |
|---|---|---|---|---|
| 1978 | 280 | 46.0 | 15.0 | 100.0 |
| 1990 | 200 | 26.0 | 7.9 | 41.0 |
| 2000 | 167 | 20.0 | 6.8 | 17.7 |
| 2010 | 180 | 19.1 | 6.8 | 14.7 |
| 2020 | 291 | 17.7 | 6.0 | 11.9 |
| 2024 | 219 | 13.4 | 5.04 | 3.96 |
単位は μg/人/日です。2024年の行と2020年のカドミウム(17.7)は報告書や食品安全委員会の公表値で、不検出は定量下限の半分で計算した値です。ほかは図からの読み取り概算です。
鉛:約96%減
- 1978年の約100から、2024年の3.96 μg/人/日へ。報告書は、1977〜82年の急減を1975年の有鉛ガソリンの禁止、1996年以降の緩やかな減少を焼却施設の排ガス除去装置の改善によるものと説明しています。
- 2020年から2021年に11.9から4.9へ急に下がった理由は、報告書に書かれていません(分析法や試料の変更の有無は確かめられていません)。
- 食品群の寄与は、嗜好飲料が22.5%、その他の野菜・海草が18.2%で、特定の食品群に偏りません。
- 詳しくは鉛:水道・器・缶・スパイスを見てください。
カドミウム:半分以下に。米の寄与が減った
- 1970年代後半の約46から、2020年に17.7、2023年度に15.9、2024年に13.4 μg/人/日へ。10年ごとの平均は、31.3(1981〜90年)→28.1→23.1→19.3(2011〜20年)です。
- 総計の減少12.0 μg/日のうち、7.5(62%)が米の減少分でした(ウラヨミの計算)。米の消費量は1962年のピークから半減し、米の濃度も下がりました。
- 2010年の改正(玄米・精米0.4 mg/kg、2011年2月施行)で、突発的な高値が抑えられたと報告書は考察しています。
- 年ごとの米の値は5〜20 μg/日と大きく振れます(買った米の産地・年による)ので、10年平均で見ます。
水銀:魚の消費の減少以上に下がった
- 1977〜78年の15.0を除くと、5〜12 μg/人/日で推移し、緩やかに減少しています。2024年は5.04(メチル水銀3.69)で、魚介類が90.0%です。
- 2019年の魚介類の喫食量は1997年の0.65倍で、水銀の摂取量の2019年/1997年比は0.57でした。マグロ・カジキは4.5→3.8 g/日(2011→2019年)、タイ・カレイは5.8→4.5 g/日に減り、サケ・マスは3.9→5.4 g/日に増えました。
- 報告書は、2010年の妊婦向けの注意事項が効いた可能性を推測していますが、因果は確かめられていません。
ヒ素:総ヒ素は増加、無機ヒ素はほぼ一定
- 総ヒ素は、調査開始後は減少傾向でしたが、2007年を底に増加傾向です(145→2021年322→2024年219 μg/人/日)。魚介類の喫食量は減り、海藻の喫食量はほぼ一定なので、食品中の濃度が増えている可能性がある、と報告書は推測しています。
- 無機ヒ素は、2014年以降ほぼ一定です(約14〜23 μg/人/日。2024年は21.2)。2024年は、米が14.4(68%)、その他の野菜・海草が2.0でした。
- 総ヒ素の主役は魚介(2024年は118)、無機ヒ素の主役は米です。
2024年の摂取量と、耐容量との比
| 金属 | 推定摂取量(体重55kg) | 比べた物差し | 結果 |
|---|---|---|---|
| 無機ヒ素 | 0.39 μg/kg/日 | 米国 EPA の RfD 0.3 μg/kg/日/EFSA 2005 の暫定 TWI 1.5 μg/kg/週/JECFA の BMDL0.5 3.0 μg/kg/日 | 比 1.28〜1.80(EPA RfD・EFSA 2005 暫定TWIに対する比)。JECFA の BMDL0.5 3.0 に対する余裕(MOE)は7.8(不確実係数の積40より小さい)。日本の食品安全委員会は耐容量を設定していない |
| カドミウム | 0.24 μg/kg/日 | 食品安全委員会 TWI 7/EFSA TWI 2.5/JECFA PTMI 25 μg/kg/月 | 比 0.24〜0.68 |
| メチル水銀 | 0.067 μg/kg/日(魚介・肉卵・米の群のみ) | 食品安全委員会 TWI 2.0/JECFA 1.6/EFSA 1.3 μg/kg/週 | 比 0.24〜0.36 |
| 鉛 | 0.072 μg/kg/日(1〜6歳は0.182) | EFSA 2010 の BMDL01 0.50(発達神経毒性)・1.50(血圧)、BMDL10 0.63(腎)。耐容量はなし | MOE 2.8〜20.8(報告書の表)。ウラヨミで計算し直すと、1〜6歳は BMDL01 0.50に対して約2.7。0.50は子どもの発達神経毒性、1.50・0.63は大人の血圧・腎の参照点で、母集団が違うため目安です。EFSA は「MOE が1でもほとんどリスクはない」と評価していると報告書は書く |
比は、摂取量÷耐容量です(1を超えると、その物差しの耐容量を上回る)。鉛には耐容量がないので、参照点との余裕(MOE、倍数)で示します。幼児(1〜6歳)の鉛の確率論的な推定は、平均0.181、95パーセンタイル0.346 μg/kg/日で、95パーセンタイルでも EFSA の発達神経毒性の参照点(0.50)の下です。
読むときの注意
- 図から読み取った値は概算で、不検出を0として計算した値です。本文の公表値(定量下限の半分)とは少し違います。
- トータルダイエットスタディは、買った食品を調理して測り、平均的な食べる量を掛ける方式です。陰膳方式(実際に食べた1日分を測る)では、値が約半分になった例もあります(カドミウム、8.05に対し3.08)。
- 報告書の Table 6 の表題は「2023年に実施」と書かれ、方法の節にも2023年の記述が残っています。本文・要旨・図は2024年で、令和5年度報告との取り違えとみられますが、確かめられていません。
- 体重の仮定は、報告書で50kg・53.3kg・55kg・55.1kgと違います。同じ μg/日でも、体重あたりの値は仮定で変わります。
- 耐容量との比は、「安全か危険か」の線ではありません。物差しが違えば、1を超える金属も変わります。
出典
- 厚労科研 トータルダイエットスタディ 令和6年度(国立医薬品食品衛生研究所)
- 厚労科研 トータルダイエットスタディ 令和5年度
- 農水省 食品からの鉛の摂取量・各国との比較
- 農水省 コメ中のヒ素の摂取量
- 消費者庁『食品中のカドミウムに関するQ&A』
- 食品安全委員会『鉛』の評価書に関する Q&A
- 厚労省『妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項』Q&A
- 水産庁『水産白書』令和6年度(魚介類の消費量)
- EFSA. Scientific Opinion on Lead in Food. EFSA J 2010;8(4):1570
最終確認日 2026.10.03(公的機関の資料・論文の原典で確認し、Gemini Notebook に集めて照合)。