PFAS は体にどんな影響がある? 各機関の評価と、血液検査で分かること
IARC は PFOA を「ヒトに対して発がん性がある」に分類し、食品安全委員会は「ヒトでの発がん性を明確に判断できるまでの確からしさはない」としました。同じ物質で評価が割れる理由と、日本人の血中濃度の推移、血液検査で分かること・分からないことを、公的資料と論文で並べます。
結論
評価は機関によって割れています。IARC(2023年)は PFOA をグループ1(ヒトに対して発がん性がある)、PFOS をグループ2Bに分類しました。食品安全委員会(2024年)は、動物の出生児への影響だけを「証拠が強い」とし、発がん性は「げっ歯類特有の機序の可能性がある」として、TDI を各 20 ng/kg 体重/日にしました。
日本人の血中濃度(中央値)は、環境省の調査で PFOS 11 → 2.9 ng/mL、PFOA 3.9 → 2.0 ng/mL(2008〜2010年度 → 2024年度)でした。ただし2020年度以降は調査の方法が違い、報告書は単純な比較は難しいと書いています。
環境省は「どの程度の血中濃度でどのような健康影響が個人に生じるかは明らかではない」としています。日本には、血液検査の値で個人の健康影響を判断する基準がありません。国内で PFOS・PFOA が主な原因とみられる個人の健康被害の事例は、確認されていないとしています。
各機関の評価:同じ物質で、なぜ違うのか
| 機関・年 | 評価 | 指標値 |
|---|---|---|
| IARC(国際がん研究機関)2023年11月 | PFOA はグループ1(ヒトに対して発がん性がある)。動物で「十分」、ばく露したヒトでの機序の証拠が「強い」、ヒトのがん(腎細胞がん・精巣がん)は「限定的」。PFOS はグループ2B(可能性がある) | なし(分類は根拠の確からしさで、発がんの強さや量は示さない) |
| 食品安全委員会 2024年6月 | 肝臓・脂質・甲状腺・免疫・神経・遺伝毒性・発がん性は「証拠が不十分/限定的」。動物の出生児への影響だけ「証拠の確かさが強い」。発がんは「げっ歯類特有の機序による可能性があり、ヒトに当てはめるのは難しい」 | TDI 各 20 ng/kg 体重/日(PFHxS は設定なし) |
| EFSA(欧州食品安全機関)2020年 | 最も重要な影響は免疫。1歳児のワクチン抗体の低下をもとに計算。欧州の一部の人はこれを超えていて懸念される | PFOA・PFNA・PFHxS・PFOS の合計で 週 4.4 ng/kg 体重(1日約 0.63) |
| 米 EPA 2024年 | PFOA・PFOS とも「ヒトにおそらく発がん性がある」。非がんの優先影響は免疫・心血管・肝臓・発達 | PFOA の参照用量 0.03 ng/kg 体重/日(子どもの抗体) |
| 米国科学アカデミー(NASEM)2022年 | 関連の証拠が「十分」:抗体反応の低下、脂質異常、胎児・乳児の成長の低下、腎臓がん。「限定的・示唆的」:乳がん、肝酵素、妊娠高血圧、精巣がん、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎 | 血中濃度の臨床の目安(下の節) |
- 日本の TDI(20)と米 EPA の PFOA の参照用量(0.03)は、約670倍違います。食品安全委員会の評価書は、海外の機関の指標値が PFOS で約600倍、PFOA で約5,300倍ばらついていると書いています。
- 違いの大きな理由は、何を根拠の影響に選ぶかです。日本は動物の出生児への影響、EFSA と米 EPA はヒトの子どものワクチン抗体の低下を選びました。食品安全委員会は、抗体の低下について「可能性は否定できないが、証拠の質や十分さに課題がある」としています。
- 食品安全委員会は、動物実験の血中濃度はヒトより1,000倍以上高いことも書いています。
C8 健康調査と、最近の研究(資金と立場に注意)
米ウェストバージニア・オハイオ州の工場周辺で、水道の PFOA 汚染をめぐる集団訴訟の和解から生まれた C8 健康調査(2005〜2013年)は、妊娠高血圧症・精巣がん・腎臓がん・甲状腺疾患・潰瘍性大腸炎・高コレステロールの6つに「probable link(関連がある可能性が、ない可能性より高い)」を示しました。元委員らの2020年のまとめは、腎臓がん・精巣がんは「支持的だが決定的ではない」、コレステロールとの関連は一貫するが心疾患との関連はない、としています。
| 研究 | 種類 | 結果 | 資金・立場 |
|---|---|---|---|
| Li S ほか 2025 | 生態学的研究(米国の郡単位) | 水道の PFAS と消化器・内分泌などのがん罹患に関連(罹患率比 1.02〜1.33) | 共著者1名が原告側の専門家。個人のばく露は測っていない |
| Chang CJ ほか 2024 | メタ分析 | 乳がん全体との関連は支持されず(PFOA RR 0.95、PFOS 0.98) | 利益相反なし |
| Spyrakis F ほか 2025 | メタ分析(3研究) | 血清 PFOA と腎臓がんに有意な関連なし(mRR 1.05) | 著者がフッ素化学メーカーから研究費・顧問 |
| Hussey MR ほか 2025 | システマティックレビュー・メタ分析 | 合わせると PFOA・PFOS と総コレステロール・LDL は正の関連。縦断研究に限ると関連は消える方向 | 著者2名が企業に PFAS 毒性の専門家として雇われたと開示 |
| Antoniou EE・Dekant W 2024 | メタ分析(子どもの免疫) | 感染症とは「示唆的」、ワクチン抗体の低下は「中程度〜なし」 | 著者が 3M から報酬 |
- 関連を強く示す側にも、否定する側にも、資金や訴訟での立場の偏りがある研究があります。ウラヨミは、研究の種類(生態学的・横断・縦断)と資金をいっしょに書きます。
- 日本の出生コホート(エコチル調査、子ども 23,058人)では、母親の血漿 PFAS が高いと、4歳までの身長の伸びが低い軌道と関連したと報告されています(Yamamoto ほか 2025)。
体から半分に減るまでの年数
| 出典 | PFOS | PFOA | PFHxS |
|---|---|---|---|
| EFSA が集めたデータ(環境省 Q10) | 平均 5.7年 | 平均 3.2年 | ― |
| スウェーデン・ロンネビー(汚染水の供給停止後、106人) | 3.4年 | 2.7年 | 5.3年 |
| 東京・多摩(2019年の水源切替の後、女性17人。日本の平均的な値を差し引いた推定) | 2.7年 | 5.1年 | 5.6年 |
- 多摩の値は、日本の平均的な血中濃度(バックグラウンド)を差し引いた推定です。差し引かないと PFOS 3.9年・PFOA 8.0年・PFHxS 5.7年でした。
- PFOS・PFOA は体に長く残ります。水の値が下がっても、血中濃度が下がるには年単位の時間がかかります。
- 米国では、1999年からの約20年で血清 PFOS が85%以上、PFOA が70%以上下がりました(環境省 Q10)。
日本人の血中濃度の推移
環境省「化学物質の人へのばく露量モニタリング調査」の血漿中の推定値(中央値、直鎖体のみ、ng/mL)です。
| 調査年度 | 人数 | PFOS | PFOA | PFHxS |
|---|---|---|---|---|
| 2008〜2010 | 609 | 11 | 3.9 | ― |
| 2011・2013〜2016 | 406 | 6.4 | 3.3 | 0.66 |
| 2020 | 80 | 2.2 | 1.4 | 0.38 |
| 2021 | 119 | 3.4 | 2.0 | 0.76 |
| 2022 | 89 | 3.2 | 1.9 | 0.51 |
| 2023 | 108 | 3.3 | 1.8 | 0.44 |
| 2024 | 117 | 2.9 | 2.0 | 0.72 |
- 2020年度以降はパイロット調査で、対象者の選び方や年齢がそろっていません。報告書は「過年度の測定結果との比較や他調査との比較は困難」と書いています。調査地域の都道府県名は公表されていません。
- 汚染が問題になった地域では高い例があります。東京・多摩地区の女性17人(2023年)は、PFOS 中央値 8.4、PFHxS 14.7、PFOA 4.1 ng/mL でした(Lyu ほか 2026)。対象者や測り方が違うので、上の表と単純には比べられません。
- 血液の ng/mL は、水の ng/L の1,000倍の単位です。混同しないよう注意してください。
血液検査で分かること・分からないこと
米国科学アカデミー(NASEM、2022年)は、血清の7種の PFAS の合計について、医療者向けの目安を出しました。
| 7種の合計 | NASEM の目安 |
|---|---|
| 2 ng/mL 未満 | 影響は想定されない |
| 2〜20 ng/mL | 特に感受性の高い人で影響の可能性。ばく露を減らす助言、脂質異常の検査など |
| 20 ng/mL 以上 | リスクが上がる。甲状腺機能の検査、腎臓がん・精巣がんの診察など |
- これは追加の検査や助言をする目安で、「20 を超えたら病気になる」という線ではありません。
- 環境省は「どの程度の血中濃度でどのような健康影響が個人に生じるかについては明らかとなっていない」とし、外国の血中濃度の指標値は「各個人の健康障害を引き起こすということを意味するものではなく、主に集団としての状況を把握」するためのもの、と説明しています。日本には、血液検査の値で個人の健康影響を判断する基準がありません。
- 血液検査で分かるのは「これまでにどれだけ体に入ったかの目安」です。下がるまで年単位かかるので、いまの水の値とは一致しません。
国内の健康被害と、ふだんの生活
- 環境省は「国内において、PFOS、PFOA の摂取が主たる要因と見られる個人の健康被害が発生したという事例は確認されておりません」としています。沖縄県・吉備中央町・摂津市が既存の統計で地域の健康指標を比べ、差は見られなかったとされています。
- 食品安全委員会は、ふつうの食生活(飲み水を含む)でとる程度の PFOS・PFOA で著しい健康影響が生じる状況にはなく、過度に心配して食生活を変えると栄養の過不足など別のリスクがある、としています。
- 高い値が出た地域で何があったかは高い値が出た地域の解説に、自分の地域の値は調べ方の解説にまとめています。
出典
- 食品安全委員会「有機フッ素化合物(PFAS)評価書に関する Q&A」
- 環境省 PFAS に関するよくある質問(Q9〜Q11)
- IARC Monographs Volume 135 Q&A(PFOA・PFOS、2023年)
- EFSA 2020 Risk to human health related to the presence of PFAS in food(PMID 32994824)
- NASEM 2022 Guidance on PFAS Exposure, Testing, and Clinical Follow-Up
- 環境省 化学物質の人へのばく露量モニタリング調査(平成30年度〜令和6年度)
- Steenland K ほか 2020 C8 健康調査のその後のレビュー(Environ Int)(PMID 32950793)
- Lyu ほか 2026 東京・多摩地区の住民の血清 PFAS(Environ Health Prev Med)(PMID 41548900)
最終確認日 2026.10.04(公的機関の資料・論文の原典で確認し、Gemini Notebook に集めて照合)。事業者ごとの値は国の表のとおりで、ウラヨミが並べ替え・集計しました。