水道水の PFAS 基準「50 ng/L」はどう決まった? 米国・EU とどう違う?
日本の水道の基準「PFOS と PFOA の合算で 50 ng/L」の計算式と、2020年の暫定目標値から2026年4月の水質基準までの経緯、米国・EU・北欧・カナダ・豪州・WHO の値を、対象物質の数と拘束力までそろえて並べます。
結論
日本の基準はPFOS と PFOA の合算で 50 ng/L 以下です。食品安全委員会の耐容一日摂取量(TDI=一生とり続けても健康への悪い影響が出ないとされる量)20 ng/kg 体重/日に、体重 50 kg、水に割り当てる割合 10%、1日に飲む水 2 L を当てた計算です。
2020年4月から2026年3月までは、同じ 50 ng/L の暫定目標値(検査・遵守の義務なし)でした。2026年4月1日から水質基準になり、水道事業者に検査と遵守の義務がかかりました。
米国は PFOA・PFOS 各 4.0 ng/L、EU は指定20種の合計 100 ng/L、デンマークは4種の合計 2 ng/L です。ただし、何種類を足すか・何を根拠にしたか・義務か目安かが国ごとに違い、数字だけで「ゆるい・厳しい」は比べられません。
自分の量に置きかえる
- 水からとる量
- — ng/kg/日
- 日本の耐容一日摂取量(PFOS・PFOA 各 20 ng/kg 体重/日)に対して
- —
- EFSA の耐容週間摂取量(4物質合計 4.4 ng/kg 体重/週=1日あたり約 0.63)に対して
- —
- 食品37品目からとる量(農水省の調査の推計 PFOS 0.13+PFOA 0.09=0.22 ng/kg 体重/日。37品目は食べる量で全体の約5割)との比
- —
合算の値をそのまま1つの物質として計算しています(実際は PFOS と PFOA に分かれるので、日本の TDI に対する割合はこれより小さくなります)。EFSA の値は PFOA・PFNA・PFHxS・PFOS の4物質の合計に対するもので、水道の値には PFNA・PFHxS は入っていません。物差しによって同じ量の読み方が変わることを示すための計算で、健康への影響を判定するものではありません。
50 ng/L の計算式
環境省の説明では、50 ng/L は次の式で出しています。
| 要素 | 値 | 意味 |
|---|---|---|
| 耐容一日摂取量(TDI) | 20 ng/kg 体重/日 | 食品安全委員会が2024年6月25日に決めた値。PFOS・PFOA それぞれに 20 |
| 体重 | 50 kg | 計算の前提 |
| 水に割り当てる割合 | 10% | 食べ物など水以外からも入ることを見越して、水からの分をここまでに抑える |
| 1日に飲む水 | 2 L | 計算の前提 |
| 結果 | 50 ng/L | 20 × 50 × 10% ÷ 2 |
- 計算上は PFOS・PFOA それぞれ 50 になります。環境省は、どちらも「生殖発生の成長の遅れ」を根拠にしていて、環境中で一緒に見つかることから、安全側に見て合算で 50 にしました。
- TDI の根拠は、動物の出生児への影響です。PFOS はラットの2世代試験で子の体重の増え方が抑えられたこと(不確実係数30)、PFOA はマウスの胎児の指の骨の骨化の減少と、雄の子の性成熟が早まったこと(不確実係数300)です。
- PFHxS は「評価に十分な知見がない」として TDI が決まらず、水道の基準もありません。2025年6月30日から、PFHxS を含む8物質が「要検討 PFAS」(目標値なし)になりました。
- 1 ng/L は 1 L に 10億分の1 g です。50 ng/L は 0.00005 mg/L と書かれることもあります。
暫定目標値から水質基準へ(2020〜2026年)
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2020年3月 | 水質管理目標設定項目に。暫定目標値 50 ng/L(合算)を2020年度から。水道事業者は検査に「努める」立場で、義務ではない |
| 2020年5月 | 川・地下水の要監視項目に。指針値(暫定)50 ng/L |
| 2024年6月25日 | 食品安全委員会が TDI(PFOS・PFOA 各 20 ng/kg 体重/日)を決定 |
| 2025年2〜3月 | パブリックコメント(意見 2,734件) |
| 2025年6月30日 | 水質基準に関する省令を改正・公布。同じ日に、ミネラルウォーター類の規格の告示、川・地下水の指針値から「暫定」を外す変更、要検討 PFAS 8物質の設定 |
| 2026年4月1日 | 水質基準として施行。基準項目は 51 から 52 に。検査はおおむね3か月に1回以上 |
- 値は 50 のまま変わっていません。変わったのは、検査と遵守が義務になったことです。
- 環境省は「水質基準値を超過した水の飲用が、直ちに健康被害につながるものではありません」と書いています。基準は一生飲み続ける前提の値です。
- 基準を超えたら、事業者は原因を調べて濃度を下げる対策をとります。超えた状態が続く見込みなら「水質異常時」の対応になります。
各国の飲料水の基準:数字だけでは比べられない
値は ng/L にそろえました。対象物質の数(何種類を足すか)、拘束力(義務か目安か)、時期(いつから)を必ずいっしょに見てください。
| 国・機関 | 対象物質(数) | 値 ng/L | 拘束力 | 時期 |
|---|---|---|---|---|
| 日本 水道 | PFOS+PFOA の合算(2) | 50 | 義務 | 2026年4月1日 |
| 日本 ミネラルウォーター | PFOS+PFOA の合算(2) | 50 | 義務 | 2025年6月30日(経過措置あり) |
| 米国 EPA | PFOA(1)・PFOS(1)各 | 4.0 | 義務 | 遵守期限 2029年4月 → 2031年4月への延長案(2026年5月) |
| 米国 EPA | PFHxS・PFNA・GenX 各(1) | 10 | 義務(撤回案あり) | 2029年4月 |
| EU | 指定20種の合計(20) | 100 | 義務 | 2026年1月12日 |
| EU | PFAS 総量(全部) | 500 | 義務(加盟国が選ぶ) | 2026年1月12日 |
| ドイツ | 20種の合計(20) | 100 | 義務 | 2026年1月12日 |
| ドイツ | PFOA・PFNA・PFHxS・PFOS の合計(4) | 20 | 義務 | 2028年1月12日 |
| デンマーク | 4種の合計(4) | 2 | 義務 | 2022年1月1日 |
| スウェーデン | 4種の合計(4) | 4 | 義務 | 2026年1月1日 |
| 英国(イングランド・ウェールズ) | 指定48種の合計(48) | 100 | 指針 | 2025年3月 |
| カナダ | 指定25種の合計(25) | 30 | 目標値(拘束力なし) | 2024年8月9日 |
| 豪州 | PFOS/PFOA/PFHxS/PFBS 各(1) | 8/200/30/1,000 | ガイドライン | 2025年6月25日 |
| WHO | PFOS・PFOA 各/総量 | 100/500 | ―(2022年の案のまま未確定) | ― |
- 「日本は米国の12倍ゆるい」は単純すぎます。米国の 4.0 は、発がん性に閾値(これ以下なら影響なしという線)がないと見て健康上の目標をゼロにし、確実に測れる最低の濃度と処理の実行可能性から決めた値です。日本の 50 は TDI から逆算した値です。決め方が違います。
- 日本は2物質の合算です。米国は1物質ずつ 4.0 なので、2物質を足すと最大で約 8 まで許されます。
- デンマーク・スウェーデンの 2〜4 ng/L は、欧州食品安全機関(EFSA)が2020年に決めた4物質の合計の耐容週間摂取量(4.4 ng/kg 体重/週)から計算しています。日本の TDI(1物質で 20 ng/kg 体重/日)とは出発点の健康指標が違い、その差がそのまま基準の差になっています。
- カナダの 30 と WHO の案は、健康影響ではなく、測定・処理がどこまでできるかという予防の考え方で決めています。
- 食品安全委員会の評価書は、海外の機関が使う指標値が PFOS で約600倍、PFOA で約5,300倍ばらついていると書いています。国際的にそろった評価は、まだありません。
米国 EPA の 4.0 ng/L:2026年10月の時点で何が残っているか
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2024年4月 | 最終規則を発表(官報 4月26日)。PFOA・PFOS 各 4.0、PFHxS・PFNA・GenX 各 10、4物質の混合のハザードインデックス。遵守期限は2029年 |
| 2024年6月 | 米国水道協会などが裁判所(D.C. 巡回区控訴裁判所)に提訴 |
| 2025年5月14日 | EPA が方針を発表:PFOA・PFOS の 4.0 は維持、期限は2031年へ。ほかの4物質の部分はやり直す |
| 2026年1月 | 裁判所が、EPA の「4物質部分の取消し」の申立てを却下。2024年の規則は効力を保つ |
| 2026年5月20日 | 規則案を2本、官報に掲載。①PFOA・PFOS の遵守期限を、申請した水道は2031年4月26日まで延ばせる(延長中でも 12 ppt 以上の水道は短期の低減措置が必要)②PFHxS・PFNA・GenX とハザードインデックスを撤回 |
| 2026年7月20日 | 意見募集の締め切り |
| 2026年10月3日現在 | 最終規則は出ていません |
- 延長も撤回も、いまは「案」です。「撤回された」「2031年に延びた」と決まったことのようには言えません。
- PFOA・PFOS の 4.0 そのものは、どちらの案でも変わりません。
- 環境省の FAQ(2026年7月更新)も、米国では期限の延長や PFOS・PFOA 以外の見直しが「検討されています」と書いています。
WHO には、まだ最終的な値がない
WHO(世界保健機関)の飲料水水質ガイドラインには、PFAS の確定した値がありません。
- 2022年9〜11月に意見を募った案は、PFOS・PFOA 各 100 ng/L、PFAS 総量 500 ng/L でした。健康影響からではなく、検出の状況や分析・処理がどこまでできるかから出した値です。
- 2025年9月時点で、WHO はこの案を「より広い評価に置き換える」としています。
- WHO の加盟国への助言は「合理的に実行可能な限り低く」「必須でない用途はやめる」「水が足りなくなるリスクとのバランスをとる」です。
自分の地域の値が 50 に対してどのくらいかは、自分の地域の水道水の PFAS の調べ方で計算の考え方を説明しています。PFAS そのものの基本はテフロンと PFAS の解説にまとめています。
出典
- 環境省「水質基準に関する省令改正の概要について」(2025年8月)
- 食品安全委員会「有機フッ素化合物(PFAS)評価書に関する Q&A」
- 環境省 PFAS に関するよくある質問
- 米国官報 2026年5月20日:PFOA・PFOS の遵守期限の延長案(91 FR 29425)
- 米国官報 2026年5月20日:4物質の撤回案(91 FR 29413)
- 欧州委員会「New EU rules limit PFAS in drinking water」(2026年1月12日)
- Health Canada:飲料水の PFAS の目標値(2024年)
- WHO:飲料水の PFAS
最終確認日 2026.10.04(公的機関の資料・論文の原典で確認し、Gemini Notebook に集めて照合)。事業者ごとの値は国の表のとおりで、ウラヨミが並べ替え・集計しました。