農薬データベース解説確認日 2026.10.01

農薬は生態系にどう影響する? ミツバチ・トンボ・鳥・魚の事例と各国の規制

ネオニコチノイドとミツバチの被害、野生のハナバチ・トンボ・鳥・湖の魚の研究、DDT や PCP の歴史

結論

農薬は、花粉や蜜、田んぼの水、川や湖、種やえさの虫を通じて、田畑の外の生き物にも届きます。日本では、ミツバチの被害の多くが稲のカメムシ防除の時期に起きていて、死んだハチからネオニコチノイド系などの殺虫剤が見つかっています。

野生のハナバチ・トンボ・鳥では、実験で影響が確かめられた例があります。一方、チョウや水の生き物、宍道湖の魚の減少は、使用の広がりと同じ時期に起きた「関連」を示す研究が中心で、土地の変化・病気・気候なども重なっています。EU は2018年、ネオニコチノイド系3成分の屋外での使用を禁止しました。

農薬が田畑の外の生き物に届く道筋を示した図。田畑から5つの道筋がある。花粉・蜜・散布の霧からミツバチ・野生のハナバチへ(水稲の近くで起きたミツバチ被害の8割以上は、稲のカメムシ防除の時期に起きた)。田んぼの水からトンボのヤゴへ(苗の箱に施すフィプロニルの区画でアキアカネが羽化しなかった、実験)。川・湖から動物プランクトン、魚へ(宍道湖では1993年以降、動物プランクトンが83%減り、ワカサギの漁獲が240トンから22トンに、観察)。種・虫から鳥へ(イミダクロプリドを1回与えたミヤマシトドは体重が約6%減り、渡りが3.5日遅れた、実験)。除草剤から食草の減少を通じてチョウへ(アメリカではオオカバマダラの幼虫が食べるトウワタが減った、間接的な影響)。野外の観察で分かるのは関連で、実験は原因を示せるが条件が限られる。減少には土地の変化・病気・気候なども重なっている。
図:農薬が田畑の外の生き物に届く5つの道筋と、観察・実験で分かること

ミツバチ:日本の被害の調査

農林水産省は2013〜15年度、都道府県を通じてミツバチの被害を全国で調べました。

69・79・50件被害の報告(2013〜15年度)
1%未満被害があった巣箱(約3,000箱)の、全国の巣箱(約40万箱)に対する割合
80〜85%水稲の近くの被害のうち、カメムシ防除の時期(開花の直前〜2週間後)に起きた割合
約7割この時期の49件のうち、死んだハチから殺虫剤が LD50 の1/10以上見つかった件数(36件)
  • 見つかった殺虫剤(重複あり、計38):クロチアニジン16、エチプロール11、ジノテフラン6、イミダクロプリド2、チアメトキサム1、エトフェンプロックス1、MEP 1。ネオニコチノイド系は約66%で、カメムシ防除で使われている割合(散布の延べ面積で約63%)と同じくらいでした。
  • 農林水産省は、被害は「巣箱の外で殺虫剤に直接さらされたことが原因である可能性が高い」としつつ、どの殺虫剤がどれだけ影響したかは特定できなかったとしています。
  • 1つの巣箱で死んだハチは1,000〜2,000匹以下の小規模な例が多かった一方、1万匹を超える例も毎年3〜4件ありました。
  • 巣のハチが突然いなくなる蜂群崩壊症候群(CCD)は、日本では報告されていないとしています。
日本のミツバチ被害の報告件数(年度) 農林水産省の蜜蜂被害事例調査と、その後の報告。2013年度 69件、2014年度 79件、2015年度 50件、2016年度 30件、2017年度 33件、2018年度 21件、2019年度 43件、2020年度 29件、2021年度 15件、2022年度 20件、2023年度 10件、2024年度 15件、2025年度 15件。2013〜2015年度は農薬が原因と疑われる事例、2016年度は7月7日からの集計、2017年度以降は農薬以外の可能性が高いものを除いた件数で、数え方が違う。 全国 うち北海道 0 20 40 60 80 69 13 79 14 50 15 30 16 33 17 21 18 43 19 29 20 15 21 20 22 10 23 15 24 15 25 年度(20xx)。点線の前後で集計のしかたが違う(2016年度は7月7日から) 出典:農林水産省 蜜蜂被害事例調査・各年度の被害報告
図:ミツバチ被害の報告件数(年度)。2016年度・2017年度で集計のしかたが変わっている

国は、農家と養蜂家の情報共有、巣箱の置き場所の工夫や退避、ハチが盛んに飛ぶ午前8〜12時を避けた散布、粒剤の使用などを求め、2015年には農薬のラベルの注意書きの見直しを求めました。

ミツバチ:EU の判断と、世界の評価

時期EU の動き
2013年1月EFSA(欧州食品安全機関)が、クロチアニジン・イミダクロプリド・チアメトキサムについて、一部の作物で花粉・蜜・種まきのときの粉じんなどからミツバチへのリスクが高いと結論
2013年5月ハチが好む作物と穀類での種子処理・土壌処理・散布を制限(規則 485/2013)
2018年2月EFSA が、野生のハナバチ(マルハナバチ・単独性のハナバチ)も含めて評価し、「ほとんどの使い方がリスクになる」と結論
2018年5月3成分の屋外での使用をすべて禁止。恒久的な温室の中だけ可(規則 2018/783・784・785)。その後、承認が失効(2019〜2020年)
2020年チアクロプリドも更新されなかった。ただし理由は地下水中の分解物や発がん性・生殖毒性で、ハチではない
2033年までアセタミプリドは「ハチへのリスクは低い」として承認が続いている
  • IPBES(生物多様性の国際的な科学機関)は2016年、送粉者(花粉を運ぶ生き物)を脅かす要因として、土地利用の変化・集約的な農業と農薬・汚染・外来種・病原体・気候変動を挙げました。ネオニコチノイドについては、管理された条件でハチへの致死・亜致死の影響があることは「十分に確立」しているとし、実際の野外の暴露で野生の送粉者の生存・繁殖に影響が出たという最近の証拠がある一方、飼われているミツバチの巣への影響は「結論が分かれている」としています。
  • アメリカの CCD:米国環境保護庁(EPA)は、原因として寄生ダニ・病気・農薬・移動のストレス・栄養不足などの複合を挙げ、CCD の報告は大きく減っているとしています。

ミツバチ以外の生き物の研究

「実験」は農薬を与えた群と与えない群を比べて原因を調べたもの、「観察」は使用量と生き物の数の関係を調べたもので、分かるのは関連までです。

野生のハナバチ

マルハナバチ・ツツハナバチ(野生のハナバチ)

実験
場所
スウェーデンのナタネ畑16か所(2013〜14年)
調べたもの
クロチアニジン(とピレスロイド)で種子処理したナタネ

処理した畑ではツツハナバチが巣を作らず(対照8か所中6か所で営巣、処理8か所中0か所)、野生ハナバチの密度とマルハナバチの巣の成長も下がった。ミツバチには差がなかった

注意:2成分の混合剤なので、どちらの影響かは分けられない。ツツハナバチは放した数が少なく不確かさが大きい

Rundlöf ら Nature 2015

ミツバチ・マルハナバチ・ツツハナバチ

実験
場所
英国・ハンガリー・ドイツの33か所
調べたもの
クロチアニジン・チアメトキサムで種子処理した冬ナタネ

ハンガリーのクロチアニジン区で、ミツバチの働き蜂が翌春24%少なかった。野生ハナバチの繁殖は、巣に残る量が多いほど少なかった。一方、ドイツではミツバチに正の影響が出た

注意:国によって結果の向きが逆。研究の資金は農薬会社(Syngenta 社・Bayer 社)

Woodcock ら Science 2017

チョウ

農地のふつうのチョウ17種

観察
場所
イギリス(1985〜2012年)
調べたもの
ネオニコチノイドを使った面積

イングランドの農地のチョウは2000〜09年に58%減り、17種中15種で使用面積と負の関連があった。使用の少ないスコットランドでは減っていなかった

注意:著者自身が「相関であって因果ではない。集約的な農業のほかの要因の目印にすぎない可能性もある」と書いている

Gilburn ら PeerJ 2015

チョウ

観察
場所
アメリカ・カリフォルニア州の低地4か所(約40年の観察)
調べたもの
ネオニコチノイドの使用量

使用量が増えるのと並行してチョウが減り、小さい種ほど関連が強かった

注意:土地利用などを調整したうえでの関連。しくみを調べる研究が必要と著者

Forister ら Biology Letters 2016

オオカバマダラ(渡りをするチョウ)

観察
場所
アメリカ中西部(1999〜2010年)
調べたもの
除草剤(グリホサート)に強い作物の普及と、幼虫が食べるトウワタ

中西部全体のトウワタが58%減り、オオカバマダラの生産(推計)が81%減ったと推定。著者は、畑のトウワタが減ったことが減少の大きな要因だと強く示唆されるとしている。米国魚類野生生物局は2024年の提案で「除草剤の広い使用」を生息地が失われた要因の1つに挙げている

注意:毒性ではなく、食草が減ることを通じた間接的な影響。「トウワタ不足が主な原因ではない(減少は渡りと越冬地で起きている)」とする研究もある(Inamine ら 2016)

Pleasants・Oberhauser Insect Conserv Divers 2013

トンボ・水の生き物

アキアカネ(赤とんぼ)

実験
場所
屋外の模擬水田(ライシメータ)
調べたもの
苗の箱に施す殺虫剤(フィプロニル・イミダクロプリド)

フィプロニルの区画では羽化した個体がゼロ。イミダクロプリドの区画は死ぬ数は少ないが、成長が遅れ、羽化の異常が多かった

注意:実際の水田(9区画)でも、フィプロニルを使った区画でアキアカネの羽化数が大きく減った(神宮字ら 2010、同誌78巻)

神宮字ら 2009(農業農村工学会論文集)

シオカラトンボ・ショウジョウトンボ

実験
場所
国立環境研究所の模擬水田8面(2013年)
調べたもの
クロチアニジン・フィプロニル・クロラントラニリプロールの育苗箱施用

シオカラトンボの羽化殻は、フィプロニルの区画(2反復とも)でゼロだった

注意:小さな模擬水田での試験

Kasai ら 2016

アキアカネ(全国的な減少)

観察+モデル
場所
富山・石川・静岡
調べたもの
育苗箱施用剤の普及と、圃場整備(乾田化)など

3県とも1990年代半ば〜後半に急に減り、イミダクロプリド(1993年)・フィプロニル(1996年)の普及の時期と重なった。モデルでは、殺虫剤と圃場整備が重なって急減が起き、どちらか一方だけでは起きないという結果だった

注意:フィプロニルを主な要因とする評価(Nakanishi ら 2018)と、複数の要因が重なったとする評価(同 2021)がある

Nakanishi ら 2018・2021

水生の無脊椎動物(カゲロウ・ヨコエビなど)

観察
場所
オランダの水質監視データ(1万8,898件)
調べたもの
水中のイミダクロプリド濃度

濃度が高いほど水生の虫が少なく、13〜67ng/L の間で急に減っていた

注意:著者は「相関は必ずしも因果を意味しない」としつつ、懸念は正当だとしている

Van Dijk ら PLoS One 2013

鳥

虫を食べる鳥

観察
場所
オランダ
調べたもの
水中のイミダクロプリド濃度

濃度が20ng/L を超える地域では、虫を食べる鳥が年平均3.5%減っていた。この地域差は、イミダクロプリドが使われ始めた1990年代半ば以降にだけ現れた

注意:観察研究で、関連を示したもの。土地利用の変化を補正しても関係が残ったと著者

Hallmann ら Nature 2014

ミヤマシトド(渡り鳥)

実験
場所
カナダの渡りの中継地
調べたもの
イミダクロプリドを1回、口から与える(各群12羽)

6時間で体重が3.0%(少ない量)・5.9%(多い量)減り、多い量の群は中継地に3.5日長くとどまった(渡りが遅れた)

注意:1回だけ・1種類の鳥での結果。群れ全体への影響は推測になる

Eng ら Science 2019

宍道湖:ネオニコチノイドと魚の漁獲

島根県の宍道湖では、周りの水田でネオニコチノイドが使われ始めた1993年から、動物プランクトンとそれを食べる魚が減ったという研究があります(Yamamuro ら、Science 2019)。

−83%春の動物プランクトン(1993年以降の平均)
240→22トンワカサギの漁獲量
100→0匹オオユスリカの幼虫(1m²あたり、1982年夏と2016年夏)
  • ウナギの漁獲も大きく減った一方、幼いときに植物プランクトンを食べるシラウオは激減しませんでした。
  • 英語の論文の要旨は、ネオニコチノイドが漁獲の減少を「引き起こした」と読める書き方ですが、日本語の発表は「可能性を指摘」「推察される」という書き方です。使い始めた時期と重なることを示した観察研究です。
  • 2025年の別の実験研究では、宍道湖の主な動物プランクトン(キスイヒゲナガミジンコ)へのイミダクロプリドの影響は、ふつうの濃度では塩分の変化よりずっと小さいという結果でした(Suzuki ら)。結論はまだ分かれています。

ネオニコチノイドより前の事例

時期・場所何が起きたか
1947年〜 アメリカ・イギリスDDT が食物連鎖の上の猛禽類にたまり、卵の殻が薄くなった(アメリカの猛禽3種で19%以上薄く)。アメリカは1972年に DDT の登録をほぼすべて取り消した。アメリカハヤブサは回復し、1999年に絶滅危惧種のリストから外れた
1962年 有明海・琵琶湖7月の豪雨で水田の除草剤 PCP が流れ出し、貝や魚が大量に死んだ。農薬による漁業被害は推定約26億円、有明海沿岸の被害漁家は約7,400戸。翌1963年の農薬取締法の改正につながった
1988年 アメリカゴルフ場や芝生で使われた有機リン系の ダイアジノン で、鳥が死ぬ事故が50件以上報告され(1件で800羽を超える例も)、EPA がゴルフ場と芝の生産地での使用を取り消した
日本の水田環境省のレッドデータブック(2014年)は、絶滅のおそれのあるゲンゴロウの減少要因に「1960年代以降の空中散布を含む強力な農薬の大量使用」を、メダカ類には1950〜60年代の農薬などによる水の汚れを挙げている(メダカの近年の主な要因は、圃場整備・外来魚・遺伝子の攪乱)

除草剤の アトラジン では、カエルの性の発達に影響するという研究(Hayes ら 2002)がある一方、米国 EPA は2007年に「両生類の生殖腺の発達に悪影響はない」と結論しており、評価が分かれています(EU が2004年に承認しなかった理由は地下水の汚染のおそれ)。

日本の制度は

  • 評価する生き物を広げた:2018年の農薬取締法の改正で、登録の審査で影響を評価する生き物が「水産動植物」から、陸の鳥や野生のハナバチなども含む「生活環境動植物」に広がりました(2020年4月から)。
  • 環境省の基準:たとえば イミダクロプリド は、水の生き物で1.9µg/L、鳥で体重1kgあたり7.4mg、野生のハナバチ(成虫が1回口からとる量)で1匹あたり0.0022µg の基準があります(2026年1月)。クロチアニジンなどほかのネオニコチノイドの鳥・野生ハナバチの基準は、まだ設定されていません(2026年10月時点)。
  • 再評価:登録済みの農薬を最新の知見で見直す「再評価」が2021年度から始まり、最初のグループにイミダクロプリド・クロチアニジン・チアメトキサム・アセタミプリド・ジノテフランが入っています(農林水産省は、使用量の多い農薬から順に評価するとしています)。2026年10月時点で、ネオニコチノイドの再評価は終わっていません。
  • 国の「みどりの食料システム戦略」は、2040年までに、ネオニコチノイド系を含む従来の殺虫剤を使わなくてもすむような新しい農薬の開発を目標にしています。

成分ごとの日本と EU の評価は、ネオニコチノイド系の一覧から見られます。

生き物に配慮した栽培の野菜を選ぶなら

有機JAS の栽培では、ネオニコチノイド系を含む化学的に合成された農薬は原則として使いません(→ 無農薬とは?)。

出典

最終確認日 2026.10.01(Gemini Notebook に一次資料を集めて照合)。制度や数字は変わることがあります。

このページは、法令・公的機関の資料・査読論文に書かれている事実を並べたもので、特定の農薬や栽培方法の良し悪しを判定するものではありません。

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