グルタミン酸ナトリウム(うま味調味料)とは? 石油・遺伝子組み換えとの関係、摂取許容量、「味覚がおかしくなる」説まで確かめる

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裏面の「調味料(アミノ酸等)」の中心にあるグルタミン酸ナトリウム。家庭用では「味の素®」の名前で知られ、英語では MSG(monosodium glutamate)と呼ばれます。
「石油から作られている」「遺伝子組み換えの菌で作っている」「とりすぎると味覚がおかしくなる」——いろいろな話を聞く物質でもあります。
この記事では、
- グルタミン酸ナトリウムは何で、どうやって生まれたのか
- どう作られてきたのか(石油・遺伝子組み換えとの関係)
- いつから使われだしたのか
- 体の中でどうなるのか、1日にどれくらいまでなら、という国際的な評価
- 人の体への影響と、「味覚がおかしくなる」という話はどこまで確かめられているか
- 減塩との関係、裏面での見分け方
を、公的機関の資料と論文で確かめます。「化学調味料無添加」の表示が消えた理由や、酵母エキスとのちがいは、うま味調味料の記事 で整理しています。
結論
- グルタミン酸は、昆布・トマト・チーズ・しょうゆなどにもともと含まれるアミノ酸です。1908年に池田菊苗が昆布だしのうま味の正体として突き止め、1909年に調味料として発売されました
- 作り方は「抽出法」→「合成法」→「発酵法」と変わってきました。いまはさとうきびの糖蜜やでんぷんを、微生物に発酵させて作ります
- 石油とのつながりは過去にありました。1962〜1973年には、石油化学品のアクリロニトリルから化学合成した製品も作られていました(味の素社も認めています)。いまの製法は発酵法です
- 遺伝子組み換えとのつながりは、いまもあります。味の素社は、遺伝子を組み換えた菌で作るグルタミン酸ナトリウムについて、日本の安全性の手続きを2009年から2023年までに13回経ています。ただし、高度に精製されていて組み換えた DNA やたんぱく質が残らないため、制度上「組換え DNA 技術を応用した添加物」にはあたらず、表示の義務もありません。いま家庭用の商品がどの菌で作られているかは公表されていません
- 1日にどれくらいまでなら、という評価は機関によってちがいます。国際機関(JECFA、1987年)は「数値で決める必要はない」、米国(FDA)は「一般に安全と認められる」。一方 EU(EFSA、2017年)は体重1kgあたり1日30mg(グルタミン酸として) という上限(ADI)を設け、幼児・子どもなど一部の人では超えるおそれがあるとしました
- 空腹時にまとめて3g以上とると、頭痛などの一時的な症状が出る人がいるという報告がある一方、食事と一緒の試験では差が出ていません。肥満との関係は、研究によって結果が分かれています
- 「味覚がおかしくなる」は、はっきりとは確かめられていません。4週間毎日とった試験では、女性でうま味の感じ方が弱くなった一方、薄い濃度を見分ける力は変わりませんでした。長く続けたときの研究はありません
この記事で紹介しているもの
| 紹介しているもの | どんなときに | 記事の中の場所 |
|---|---|---|
| 利尻昆布・干ししいたけ・パルミジャーノ | 食材そのものからうま味をとりたいとき | うま味を食材からとるなら |
| マルトモ公式直販(かつお節・だし) | かつお節(イノシン酸)と合わせてだしをとりたいとき | うま味を食材からとるなら |
| 無塩ドットコム(減塩食品の専門通販) | うま味を足すより先に、塩を減らした食品を探したいとき | 減塩との関係 |
| 「味の素®」 | 原材料がグルタミン酸ナトリウムと核酸だけの、うま味調味料そのもの | 裏面での書かれ方 |
グルタミン酸ナトリウムとは
グルタミン酸は、たんぱく質をつくる20種類のアミノ酸の1つです。たんぱく質の一部としてつながっている「結合型」と、1つずつ離れている「遊離型」があり、うま味を感じるのは遊離型です。
グルタミン酸ナトリウムは、このグルタミン酸にナトリウムがついた塩(えん)で、水に溶けやすく、結晶にして扱いやすい形です。
米国 FDA は、たんぱく質が消化されてできるグルタミン酸は、グルタミン酸ナトリウムのグルタミン酸と化学的に同じだと説明しています。
食品にはどれくらい含まれているか
遊離のグルタミン酸は、昆布・チーズ・しょうゆ・みそ・トマトなどに多く含まれます。熟成や発酵でたんぱく質が分解されると増えます。
- こんぶは100gあたり200〜3,400mg、チーズは180〜2,220mgと幅があります。種類や熟成の長さで大きく変わります
- 料理1人分に加えるうま味調味料(約0.2g)に含まれるグルタミン酸は、計算すると約150mg。トマト100g分と同じくらいの量です
- 母乳にも遊離のグルタミン酸が多く含まれます。母乳の遊離アミノ酸の中ではいちばん多く、JECFA の評価書は、母乳で育つ赤ちゃんは体重1kgあたり1日約36mgの遊離グルタミン酸をとっていると引用しています
※FDA は、平均的な大人が食べ物のたんぱく質からとるグルタミン酸を1日約13g、添加されたグルタミン酸ナトリウムを1日約0.55gと推定しています(たんぱく質の分は、消化されて遊離になる前の量を含みます)。
成り立ち:昆布だしから生まれた調味料
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1866年 | ドイツの化学者リットハウゼンが、小麦のグルテンからアミノ酸を取り出し「グルタミン酸」と名づける |
| 1907年 | 東京帝国大学の池田菊苗が、昆布だしの味の成分の研究を始める |
| 1908年 | 昆布のうま味の正体がグルタミン酸であることを突き止め、「グルタミン酸塩を主成分とする調味料製造法」の特許を取る(7月25日) |
| 1909年 | 池田が論文「新調味料に就て」で、甘・酸・塩・苦とは別の味を「うま味」と名づける。5月20日に「味の素®」が発売される |
| 1913年 | 池田の弟子の小玉新太郎が、かつお節のうま味がイノシン酸であることを見つける |
| 1957年 | ヤマサ醤油研究所の國中明が、グアニル酸のうま味を発見する(のちに干ししいたけのうま味成分であることも見つける) |
| 2000〜2002年 | 舌の味細胞で、うま味を受け取るしくみ(受容体)が見つかる |
※年は味の素社の年表と「味の素グループの歩み」、池田の論文の英訳(Chemical Senses、2002年)、国立民族学博物館の研究報告(大澤 2019)、受容体の論文(Chaudhari 2000、Nelson 2002)による。
池田がうま味を「5つ目の味」として発表したあと、うま味が独立した味として国際的に受け入れられるまでには長い時間がかかりました。大澤(2019)は、2000年代の受容体の発見を、うま味が科学的な裏づけをもって定着する転機と位置づけています。
製造方法:抽出法 → 合成法 → 発酵法
味の素社の研究者がまとめた論文(Sano 2009、米国臨床栄養学会誌)によると、グルタミン酸ナトリウムの作り方は3回変わってきました。
| 製法 | 使われた時期 | 原料 | しくみ |
|---|---|---|---|
| 抽出法 | 1909年〜 | 小麦のグルテン、のちに脱脂大豆などの植物のたんぱく質 | たんぱく質を塩酸で分解し、グルタミン酸を取り出して精製する |
| 合成法 | 1962〜1973年 | アクリロニトリル(石油化学品) | 化学反応でグルタミン酸を合成し、うま味のある形(L体)だけを分けて取り出す |
| 発酵法(いま) | 1956年に発見、その後すべてのメーカーが移行 | さとうきびの糖蜜、キャッサバ(タピオカ)・トウモロコシのでんぷん、てん菜など | 糖を微生物に与えると、微生物がグルタミン酸を作って外に出す。それを結晶にして精製する |
発酵法は、1956年に協和発酵工業の木下祝郎・鵜高重三らが、糖とアンモニアからグルタミン酸を大量に作る細菌(のちの Corynebacterium glutamicum、コリネ菌)を見つけたことで始まりました。Sano(2009)は、発酵法はコストと環境への負荷の面で有利で、すべてのメーカーが発酵法に移ったと書いています。味の素社は1960年12月に川崎工場で発酵法の生産を始めています。
FDA も、グルタミン酸ナトリウムは現在、でんぷん・てん菜・さとうきび・糖蜜を発酵させて作られており、ヨーグルトや酢、ワインと似た発酵の方法だと説明しています。
いまの「味の素®」はどこで作られているか
味の素社の Q&A と商品ページによると、
- 日本向けの「味の素®」の原料は、さとうきびの糖蜜です(ほかの国ではキャッサバやトウモロコシから作ることもある)
- ブラジルとインドネシアの工場でグルタミン酸ナトリウムを作るところまで行い、佐賀県の九州事業所で核酸を合わせる最後の工程を経て、川崎で瓶や袋に詰めています
- 中身はグルタミン酸ナトリウム97.5%、イノシン酸ナトリウム1.25%、グアニル酸ナトリウム1.25%です
石油との関係
「味の素は石油から作られている」という話には、もとになった事実があります。
- 1962〜1973年には、石油化学品のアクリロニトリルから化学合成する方法が使われていました(Sano 2009)。味の素社も Q&A で「50年ほど前には、一部の製品について石油由来の原料から合成法により生産していた時期もありました」と書いています。あわせて、最終製品の成分や機能は発酵法のものと「全く同一」だとしています
- 1960〜70年代には、発酵の原料(微生物のえさ)として、糖のかわりに酢酸やノルマルパラフィン(石油の成分)を使う研究も報告されていました。大蔵省関税中央分析所の1977年の論文では、酢酸を原料にした発酵法の製品が実際に市場にあったことが分かります(その酢酸が石油由来だったかは、この論文からは分かりません)
- 1972年には、批判者の郡司篤孝が著書で「石油から作られている」と主張しました(Sand 2005、Gastronomica)
いまは、味の素社・FDA ともに、原料はさとうきびやでんぷんなどの植物で、発酵法で作ると説明しています。 合成法をやめた理由について、味の素社の Q&A は「合成法によるグルタミン酸は消費者には受け入れられませんでした」という趣旨を書いています(社史の詳しい記述は今回は原典を確認できませんでした)。
遺伝子組み換えとの関係
遺伝子組み換えとの関係は、「菌」と「原料の作物」の2つに分けて考えます。
発酵に使う菌
発酵の菌には、グルタミン酸をたくさん作るように遺伝子を組み換えたものがあります。消費者庁と食品安全委員会の公表資料では、味の素社が、遺伝子を組み換えたコリネ菌などで作る L-グルタミン酸ナトリウムについて、2009年から2023年までに評価9件・届出4件の手続きを経ていることが確認できます。
食品安全委員会の評価書(2010年の例)は、組み換えた菌で作った製品について、
- 食品添加物の規格(純度など)を満たしている
- 従来の製品とくらべて、安全上問題になるほど不純物が増えていない
- 有害と疑われる新しい成分も含まれていない
と判断しています。こうした「最終製品が高度に精製されていて、組み換えた DNA やたんぱく質が残らない」ものは「高度精製品」と呼ばれ、制度上「組換え DNA 技術を応用した添加物」にはあたらないとみなされます。
なお、いま家庭用・業務用の商品が、具体的にどの菌で作られているかは公表されていません。味の素社の一般向けの Q&A にも、遺伝子組み換えの菌についての記述はありませんでした。
原料の作物
米国ではトウモロコシやてん菜の多くが遺伝子組み換えの品種です(米国農務省)。日本向けの「味の素®」の原料はさとうきびの糖蜜ですが、海外で作られる製品の原料の作物が組み換え品種かどうかは、メーカーごとには公表されていません。
表示のルール
| 日本 | EU | 米国 | |
|---|---|---|---|
| 組み換えた菌で作った添加物 | 高度精製品は「組換え DNA 技術を応用した添加物」にあたらないとみなす | 組み換えた菌を「使って」作り、製品に組み換えた物質が残らないものは、遺伝子組み換え食品の規則の対象外 | 組み換えた遺伝物質が検出できないことを記録で示せれば、表示の対象外 |
| 添加物の遺伝子組み換え表示 | 義務なし(消費者庁の Q&A) | 上のとおり対象外 | 上のとおり対象外になりうる |
※日本は消費者庁「食品表示基準 Q&A(遺伝子組換え食品)」GM-3 と、安全性審査の品目一覧。EU は規則(EC)1829/2003 前文(16)。米国は 7 CFR §66.9。
遺伝子組み換えの表示のしくみは、異性化液糖の記事 でも紹介しています。

いつから使われだしたか
- 1909年に「味の素®」として発売されました。発売の年に台湾、翌年に朝鮮、1914年に中国に特約店ができ、1917年にはニューヨークに事務所が置かれています(味の素社の年表)
- 米国では、1930年代半ばから1941年まで、日本と台湾をのぞけば米国がいちばん多く買っていて、おもな買い手はスープなどの缶詰メーカーでした(Sand 2005)。第二次世界大戦後には、米軍も兵士の食事の味をよくする目的で関心を持ちました
- 日本の国民1人あたりの消費量は、1955年の52gから1968年には745gへ、約14倍に増えました(味の素社)。発酵法で値段が下がり、ほかの会社も参入したことが背景にあります
- 家計調査では、1世帯あたりのグルタミン酸ナトリウム調味料の年間購入量は、1963年484g → 1970年862g(ピーク)→ 1999年120gと、家庭で買う量は1970年をピークに減っています(大澤 2019 が引用した総務省の家計調査)
- 世界の発酵法による生産量は、2009年時点で年約200万トンと推定されています(Sano 2009)
「化学調味料」から「うま味調味料」へ
「化学調味料」は、1950年代後半ごろ(昭和30年代)に、公共放送が商品名の「味の素」を避けるために使い始めた呼び名とされています(味の素社の Q&A、大澤 2019)。1980年ごろから業界は「うま味調味料」への言い換えを進め、1986年には業界団体が「日本うま味調味料協会」として新しく発足しました(大澤 2019 が引用した資料による)。いまは「うま味調味料」と呼ばれています。「化学調味料」が法律にない言葉になった経緯は、うま味調味料の記事 にまとめています。
体の中でどうなる?
- 口から入ったグルタミン酸のほとんどは、腸で使われます。 健康な大人に目印をつけたグルタミン酸を飲んでもらった試験では、約96%が、血液に入る前に腸や肝臓で取り込まれました(Battezzati 1995)。子豚の試験でも約95%で、腸のエネルギー源として最も多く使われていました(Reeds 2000)
- JECFA(1987年)は、ふつうの量では血中のグルタミン酸はほとんど上がらず、空腹時に大量をとったときに一時的に上がる、としています。食事と一緒(とくに糖質と一緒)だと、上がり方は小さくなります
- 脳には「血液脳関門」というしくみがあり、血液から脳へのグルタミン酸の移行を制限しています(総説による)
摂取許容量(ADI):1日にどれくらいまでなら
ADI(一日摂取許容量)は、一生毎日とり続けても健康への悪い影響がないと考えられる量です。グルタミン酸ナトリウムは、機関によって評価が分かれています。
| 機関 | 評価 |
|---|---|
| JECFA(FAO/WHO 合同食品添加物専門家会議) | 1987年、グルタミン酸とその塩をまとめて「ADI を特定しない」(通常の使い方では、数値で上限を決める必要がない)。ただし、大量を1回でとるより何回かの食事に分けたほうがよい、乳児用の食品への添加物の使用は慎重に、という注意も書いている |
| EFSA(欧州食品安全機関) | 2017年の再評価で、グルタミン酸とその塩(E620〜625)にグループ ADI 30mg/kg 体重/日(グルタミン酸として) を設定。摂取量が多い人や幼児・子どもでは、ADI を超えるおそれがあるとして、EU の使用上限の見直しを勧めた |
| FDA(米国食品医薬品局) | 食品への添加を「一般に安全と認められる」(GRAS)としている |
| 日本 | L-グルタミン酸ナトリウムに使用基準はない。同じ仲間の L-グルタミン酸アンモニウムを2008年に評価した食品安全委員会は「ADI を特定する必要はない」とした |
EFSA の 30mg はどう決まったか
EFSA は、ラットの神経の発達を調べた試験で悪い影響が出なかった最大の量(体重1kgあたり1日3,200mg のグルタミン酸ナトリウム)を、動物と人の差・人どうしの差を見込んだ「100」で割り、グルタミン酸として27.8mg、丸めて30mgとしました。
人では影響が見られた量のデータはあるものの、「影響が出ない量」を決められるだけのデータがないため、動物の試験を使ったと説明しています。EFSA は、30mg は人で症状が報告された量(空腹時の症状:体重1kgあたり42.9mg超、頭痛:85.8mg、血圧の上昇:150mg、インスリンの上昇:143mg超。いずれもグルタミン酸ナトリウムとして)より低いとしています。
体重別にすると
| 体重 | ADI(グルタミン酸として) | グルタミン酸ナトリウムにすると(目安) |
|---|---|---|
| 50kg | 1日1.5g | 約1.9g |
| 20kg | 1日0.6g | 約0.76g |
※グルタミン酸ナトリウム一水和物(分子量187.13)とグルタミン酸(147.13)の比で計算。
「味の素®」の商品ページの栄養成分表示は「70g瓶5ふり(0.5g)当たり」です。日本うま味調味料協会は、炒め物・汁物で4人分0.8g(瓶で5〜8ふり)を目安にしていて、1人分にすると約0.2gになります。体重50kgの人なら、ADI の約10分の1です。
EU ではどれくらいとっているか
- EFSA の推計では、添加物としての摂取量の平均は、幼児で体重1kgあたり19〜51mg、子どもで9〜47mg。調べた国によっては、平均でも ADI の30mg を超えます
- よく食べる人(95パーセンタイル)では、すべての年齢グループで ADI を超える国があります
- おもな摂取源は、焼き菓子(ファインベーカリー)、スープ・ブイヨン、ソース、肉製品、調味料でした
- EFSA は、推計には不確かさがあり、全体として多めに見積もっている可能性が高い、とも書いています
日本ではどれくらいとっているか
厚生労働省の部会報告書(2008年)が引用した調査では、
- 食品からとる L-グルタミン酸類は、1人1日平均 1,198mg(L-グルタミン酸として、1998〜1999年の調査)。報告書は「加工食品からの添加物としての摂取が主であると考えられ」ると書いています
- 2000年の調査では、加工食品からとる L-グルタミン酸は、1〜6歳で924mg、20〜64歳で1,900mg
- 食品向けの生産量から計算すると、約1,290mg(2004年度、その99%以上がナトリウム塩)
20〜64歳の1,900mg を体重50kgで割ると、体重1kgあたり約38mg。EFSA の ADI(30mg)を上回る計算になります。ただし、これは20年以上前の調査で、日本は EFSA の ADI を採用していません。今回、最近の日本の摂取量の調査は見つけられませんでした。
人の体への影響:分かっていること・分かっていないこと
| テーマ | 分かっていること | 分かっていないこと |
|---|---|---|
| 頭痛・ほてりなど(「中華料理店症候群」) | 空腹時にまとめて多くとると、プラセボより症状の報告が多い試験がある。食事と一緒では差がない | 「敏感な人」が本当にいるのか、どれくらいいるのか |
| 新生児の脳 | 生まれたばかりのマウスに注射すると、脳の一部が傷つく | ふつうの食事の量で人に起こるという証拠はない |
| 肥満 | 中国・タイでは関連ありの研究、中国・ベトナムでは関連なしの研究がある | 原因かどうか。ランダム化比較試験もメタアナリシスもない |
| ぜんそく | 二重盲検の試験では再現されていない | 子どもの研究がない |
| 味覚 | 4週間の試験で、女性はうま味の感じ方が弱くなった | 長く続けたときにどうなるか |
「中華料理店症候群」と頭痛
1968年、米国の医師が医学誌への投書で、中華料理を食べたあとに首のしびれや動悸が出ると書きました(Kwok 1968)。これをきっかけに、グルタミン酸ナトリウムが原因ではないかと言われるようになりました。
- 「自分は反応する」と考える130人の多施設・二重盲検試験(Geha 2000):食事なしで5gをとると、プラセボより症状の報告が多かった。ただし、くり返し試すと反応は一貫せず、最後まで再現した人はいなかった。食事と一緒の場合は差がなかった
- 健康な14人の二重盲検試験(Shimada 2013):体重1kgあたり150mg(体重50kgなら7.5g)を5日続けてとると、頭痛はグルタミン酸ナトリウムで14人中8人、プラセボで2人。一時的な血圧の上昇も見られた
- 頭痛についてのシステマティックレビュー(Obayashi 2016):食事と一緒にとった試験では、1つの試験の女性の群を除いて差がなかった。多くの試験が濃い溶液を使っていて、味で分かってしまう(盲検が不十分)ため、因果関係を判断するには、さらに研究が必要としている
- FDA は、米国実験生物学会連合(FASEB)の1995年の報告を紹介しています。報告は、敏感な人が食事なしで3g以上とったときに、頭痛・しびれ・ほてりなどの一時的で軽い症状が出ることがあるとしています。FDA によると、グルタミン酸ナトリウムを加えた食品の1食分に含まれる量は、ふつう0.5g未満です
研究の資金 Geha 2000 と、同じく二重盲検の Yang 1997 は、業界団体の国際グルタミン酸技術委員会(IGTC)の資金を受けています。Obayashi 2016 の筆頭著者はグルタミン酸ナトリウムのメーカーの社員です。Shimada 2013 はデンマークの公的な研究費で、利益相反はないとしています。
生まれたばかりのマウスの実験(1969年)
1969年、米国の研究者オルニーは、生まれたばかりのマウスにグルタミン酸ナトリウムを皮下注射すると、脳の視床下部などの神経細胞が死に、成長後に肥満などが起きたと報告しました(Olney 1969、Science)。同じ年に、米国のベビーフードのメーカーはグルタミン酸ナトリウムの添加をやめています。
JECFA(1987年)は、この脳の障害は注射や大量の強制的な投与で起き、えさや飲み水に混ぜて与えた場合には(脱水させた場合を除き)見られていないと整理しています。日本の食品安全委員会(2008年)も、サルを含むほかの動物の新生児では確認されておらず、乳幼児で神経障害が起こるとは考えにくい、としています。
EU では、乳幼児用の食品にグルタミン酸類を加えることは認められていません。
肥満
| 研究 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| He 2008(INTERMAP) | 中国の農村752人、横断研究 | 使っている人ほど過体重が多い |
| He 2011(CHNS) | 中国10,095人、平均5.5年追跡 | 摂取量がいちばん多い群で、過体重になるリスクが1.33倍 |
| Shi 2010 | 中国・江蘇省1,282人、5年追跡 | 体重増加と関連なし(米の量や食事のパターンで調整すると関連が消えた) |
| Thu Hien 2013 | ベトナム1,528人、横断研究 | 過体重と関連なし |
| Insawang 2012 | タイの農村349人、横断研究 | 1g増えるごとに、メタボリックシンドロームが1.14倍、過体重が1.16倍 |
人の研究は観察研究だけで、結果も分かれています。メタアナリシスもランダム化比較試験も、今回の検索では見つかりませんでした。新生児のマウスに注射して起きる肥満(オルニー)は、大人が口からとる状況とは条件がちがいます。
ぜんそく
「中華料理店でぜんそくの発作を起こしたことがある」人を含む100人の試験(Woessner 1999)で、2.5gをとっても発作や肺機能の低下は起きませんでした。コクランのレビュー(2012年)は、条件を満たした試験が成人24人の2件しかなく、「大人の慢性ぜんそくで、グルタミン酸ナトリウムを避けることを支持する証拠はない。ただしデータは限られている」としています。
取りすぎると味覚がおかしくなる?
「うま味調味料を使っていると、味が分からなくなる」「濃い味しか感じなくなる」という話があります。人の研究で確かめられていることは、次のとおりです。
ランダム化比較試験(Noel 2018、米国)
- 健康な若い大人58人に、グルタミン酸ナトリウム3.8gを入れた野菜スープを毎日、4週間飲んでもらった(くらべる群は、ナトリウムの量をそろえたスープ)
- 女性では、うま味の「感じる強さ」が弱くなった。男性(各群8人と少ない)では差がなかった
- うすい濃度を見分ける力(識別)は変わらなかった
- 食事のとき、うま味の強い食べ物を食べたい気持ちと量が減った
- 業界の資金はなく、利益相反はないとしている
ほかに分かっていること
- 肥満の女性は、グルタミン酸ナトリウムを感じとれる最低の濃度が高い(感じにくい)という横断研究があります(Pepino 2010。味の素の研究費)。ただし、どちらが原因かは分かりません
- 高齢者は、食品の中のうま味を感じとれる濃度が、若い人の平均2.8倍高かったという研究もあります(Schiffman 1994)
- 長くとり続けると、舌の味蕾やうま味の受容体が減る・変わる、ということを直接調べた査読ずみの研究は、今回の検索では見つかりませんでした
味覚障害のおもな原因
厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬物性味覚障害)」は、味覚障害の原因として、薬(21.7%)、原因の分からないもの(15.0%)、亜鉛不足(14.5%)、心因性(10.7%)などを挙げています。原因の分からないものの多くは食事からの亜鉛不足とされ、亜鉛不足が直接・間接に関わるものは全体の約70%におよぶとしています。うま味調味料は、このマニュアルの原因の一覧には出てきません。
まとめると、「4週間毎日とると、女性ではうま味を弱く感じるようになった」という試験が1つあるだけで、「味覚がおかしくなる(味が分からなくなる)」ことを示した研究はありません。一方で、何年も続けたときにどうなるかを調べた研究もないため、「影響はない」とも言い切れません。
減塩との関係
グルタミン酸ナトリウムにもナトリウムは含まれます。ただし、重さあたりの量は食塩より少なめです。
| ナトリウムの割合 | 食塩相当量にすると | |
|---|---|---|
| 食塩(塩化ナトリウム) | 約39.3% | 1gあたり約1g |
| グルタミン酸ナトリウム | 約12.3% | 1gあたり約0.31g |
| 「味の素®」(商品の表示) | ― | 0.5gあたり0.15g(1gあたり0.3g) |
※割合は分子量から計算。「味の素®」は味の素社の商品ページの栄養成分表示。食塩相当量の考え方は 食塩摂取量の記事 で説明しています。
うま味を足すと、塩を減らしても同じようにおいしく感じる、という研究は多くあります。
- 日本の19地域の584人の官能試験(Hayabuchi 2020):塩分0.3%のスープにグルタミン酸ナトリウムを加えると、塩味もおいしさも上がった
- 国民健康・栄養調査のデータを使ったモデル計算(Tanaka 2023):うま味を全面的に使えば、食塩摂取を平均12.8〜22.3%減らせると推計した
ただし、これらの研究はほとんどが味の素社などの資金か、社員が著者に入っています。実際にうま味調味料を使って、血圧や尿のナトリウムが下がるかを長く追った試験は、今回の検索では見つかりませんでした。
また、うま味調味料を足すほど、ナトリウムもそのぶん増えます。塩そのものを減らしたいときは、減塩の食品を選ぶ方法もあります。
裏面での書かれ方
| 日本 | EU | 米国 | |
|---|---|---|---|
| 書き方 | 「調味料(アミノ酸)」「調味料(アミノ酸等)」とまとめて書ける(一括名) | 「グルタミン酸ナトリウム」または「E621」と書く | 「monosodium glutamate」と書く |
| 「無添加」などの表示 | 消費者庁のガイドラインが、誤解を招くおそれのある表示の例を示している | ― | 酵母エキスなど遊離グルタミン酸を含む原料を使った食品は「No MSG」「No added MSG」と書けない |
日本の裏面では、原材料名の「/」より後ろ(添加物)に「調味料(アミノ酸等)」とあれば、グルタミン酸ナトリウムが使われていることが多いです。一方、酵母エキスやたん白加水分解物は食品の扱いで「/」より前に書かれ、グルタミン酸を多く含んでいても「調味料(アミノ酸等)」とは書かれません。くわしくは うま味調味料の記事 と 「無添加」表示のルールの記事 を、添加物ごとの日本と海外の扱いは 添加物データベース を見てください。
うま味調味料そのものの裏面は、たとえば「味の素®」なら原材料名は「調味料(アミノ酸等)」の1行だけで、中身はグルタミン酸ナトリウム97.5%と核酸2.5%です。
| 商品 | 原材料名 | 中身(メーカーの表示) | 購入 |
|---|---|---|---|
| 「味の素®」アジパンダ®瓶 70g(味の素) | 調味料(アミノ酸等) | グルタミン酸ナトリウム97.5%、イノシン酸ナトリウム1.25%、グアニル酸ナトリウム1.25% | 楽天市場で見る(楽天24) PR Amazonで見る PR Yahoo!ショッピングで見る PR |
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うま味を食材からとるなら
うま味調味料を使わずにうま味を足したいときは、グルタミン酸の多い昆布やチーズ、グアニル酸の多い干ししいたけ、イノシン酸の多いかつお節を組み合わせる方法があります。日本うま味調味料協会は、グルタミン酸とイノシン酸・グアニル酸を組み合わせると、うま味が単独のときより強く感じられる(相乗効果)と説明しています。
なお、昆布はヨウ素を多く含む食品です。ヨウ素については 甲状腺がんの記事 で紹介しています。
まとめ
| 論点 | 分かっていること |
|---|---|
| 成り立ち | 1908年に池田菊苗が昆布だしのうま味として発見、1909年に発売 |
| 製造方法 | 抽出法(1909年〜)→ 合成法(1962〜1973年)→ 発酵法(いま。さとうきびの糖蜜やでんぷんが原料) |
| 石油との関係 | 1962〜1973年に石油化学品(アクリロニトリル)からの合成品があった。いまは発酵法 |
| 遺伝子組み換え | 組み換えた菌で作る製品の手続きが13件(2009〜2023年)。高度精製品で、表示の義務はない。いまの商品の菌は非公表 |
| いつから | 1909年発売。日本の消費量は1955〜1968年に約14倍。家庭での購入は1970年がピーク |
| 摂取許容量 | JECFA・日本は数値を決めていない。EFSA は30mg/kg 体重/日(グルタミン酸として)。50kgなら1.5g |
| 人の体への影響 | 空腹時に3g以上で一時的な症状が出る人がいるという報告。食事と一緒では差なし。肥満は結果が分かれる |
| 味覚 | 4週間で女性のうま味の感じ方が弱くなった試験が1つ。「味が分からなくなる」を示した研究はない |
| 減塩 | ナトリウムは食塩の約3分の1。うま味で減塩できるという研究はほぼ業界の資金 |
この記事で紹介したもの:
| もの | 原材料 | 購入 |
|---|---|---|
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参考にした資料
公的機関
- 米国 FDA「Questions and Answers on Monosodium glutamate (MSG)」
- JECFA「Glutamic acid and its salts」(WHO Food Additives Series 22、1987年)
- EFSA ANS Panel「Re-evaluation of glutamic acid (E 620), sodium glutamate (E 621)…」EFSA Journal 2017;15(7):4910
- 厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 食品添加物部会「L-グルタミン酸アンモニウムの食品添加物の指定に関する部会報告書」と食品安全委員会の評価書(2008年)
- 消費者庁「安全性審査の手続第3条第5項の規定を適用した品目一覧」「高度精製添加物の届出一覧」「食品表示基準 Q&A(遺伝子組換え食品)」
- 食品安全委員会「遺伝子組換え食品等評価書 L-グルタミン酸ナトリウム」(GLU-No.2〜7株)
- 大蔵省関税中央分析所「グルタミン酸ソーダ中の微量成分」関税中央分析所報 第17号(1977年)
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性味覚障害」
- 規則(EC)No 1829/2003、米国 7 CFR §66.9
論文
- Sano C. History of glutamate production. Am J Clin Nutr 2009(味の素社の研究者)
- Ikeda K. New seasonings. Chem Senses 2002(1909年の論文の英訳)
- Kinoshita S, et al. J Gen Appl Microbiol 1957
- Sand J. A Short History of MSG. Gastronomica 2005
- 大澤由実「現代日本におけるうま味の認識とその構築」国立民族学博物館研究報告 2019
- Battezzati A, et al. Am J Physiol 1995/Reeds PJ, et al. J Nutr 2000
- Kwok RHM. N Engl J Med 1968/Yang WH, et al. J Allergy Clin Immunol 1997/Geha RS, et al. J Allergy Clin Immunol 2000/Shimada A, et al. J Headache Pain 2013/Obayashi Y, Nagamura Y. J Headache Pain 2016
- Olney JW. Science 1969
- He K, et al. Obesity 2008/He K, et al. Am J Clin Nutr 2011/Shi Z, et al. Br J Nutr 2010/Thu Hien VT, et al. Public Health Nutr 2013/Insawang T, et al. Nutr Metab 2012
- Woessner KM, et al. J Allergy Clin Immunol 1999/Zhou Y, et al. Cochrane Database Syst Rev 2012
- Noel CA, et al. J Nutr 2018/Pepino MY, et al. Obesity 2010/Schiffman SS, et al. Physiol Behav 1994
- Hayabuchi H, et al. Hypertens Res 2020/Tanaka S, et al. BMC Public Health 2023
メーカー・業界団体(事実の確認にだけ使用)
- 味の素社「味の素® Q&A」、商品ページ、年表、「うま味調味料の日」
- 日本うま味調味料協会「うま味の成分」「よくあるご質問」