食品の重金属データベース確認日 2026.10.03
食品のヒ素
ヒ素は、形によって性質が大きく違います。心配されているのは無機ヒ素で、日本人の無機ヒ素の摂取の約7割は米、次いで野菜・海藻(ひじきなど)です。魚介類は総ヒ素が多い(総ヒ素の約6割が魚介由来)一方、無機ヒ素は約2%にとどまります。日本の食品衛生法には、米やひじきの無機ヒ素の基準値が見当たりません。国際機関の評価は大きく動いていて(1988年の耐容量の撤回、2024・2025年の再評価)、どの機関も「これ以下なら安全」という耐容量は出していません。
形のちがい
- 無機ヒ素:米・ひじきに多い形で、IARC(2012年)は発がん性があるグループ1に分類しています。評価の中心はこの形です。
- 有機ヒ素:魚介類の主な形はアルセノベタイン、海藻の主な形はアルセノシュガーです。毒性は低いとされますが、「有機ヒ素は無害」と断定した公的な文書はありません。農水省は、悪影響の程度は一般に小さいと言われていること、ヒトの体内でどのような影響があるのか現在のところよく分かっていないこと、の両方を書いています。
- 総ヒ素:無機と有機の合計です。日本人の摂取は約200 μg/日で、約9%が無機ヒ素です。
- 状態に注意:乾燥ひじきと水戻し後、玄米と精米では、数字が桁で違います。このデータベースは、形態(総ヒ素・無機ヒ素)と状態(乾燥・水戻し後・生)を必ず書いています。
ヒ素の値が載っている食品
| 食品 | 形態・状態 | 平均 | 範囲・最大 |
|---|---|---|---|
| ひじき | 総ヒ素・乾燥 | 93(中央値92) | 28〜160 |
| ひじき | 無機ヒ素・乾燥 | 67(中央値68) | 4.5〜130 |
| 昆布 | 総ヒ素・乾燥 | 53(中央値51) | 25〜110 |
| わかめ | 総ヒ素・乾燥 | 33(中央値33) | 15〜52 |
| のり | 総ヒ素・乾燥 | 25(中央値23) | 13〜51 |
| ひじき | 総ヒ素・水戻し後(農水省の表の品目名は「水戻し物」) | 6.0(中央値5.5) | 2.1〜20 |
| ひじき | 無機ヒ素・水戻し後(農水省の表の品目名は「水戻し物」) | 3.6(中央値3.2) | <0.5〜17 |
| ベビーフード | 総ヒ素・ドライタイプ | 0.65(中央値0.021) | 最大8.6 |
| 玄米 | 総ヒ素・玄米 | 0.23(中央値0.21) | 最大0.80 |
| 玄米 | 無機ヒ素・玄米 | 0.21(中央値0.20) | 最大0.59 |
| 玄米 | 無機ヒ素・玄米 | 0.17(中央値0.16) | 最大0.60 |
| 玄米 | 無機ヒ素・玄米 | 0.15(中央値0.14) | 最大0.37 |
| 玄米 | 無機ヒ素・玄米 | 0.15(中央値0.14) | 最大0.38 |
| 玄米 | 無機ヒ素・玄米 | 0.15(中央値0.15) | 最大0.37 |
| 白米 | 総ヒ素・精米 | 0.14(中央値0.13) | 最大0.44 |
| 玄米 | 無機ヒ素・玄米 | 0.13(中央値0.12) | 最大0.37 |
| 白米 | 無機ヒ素・精米 | 0.12(中央値0.12) | 最大0.26 |
| 白米 | 無機ヒ素・精米(水田土壌等の調査) | 0.10(中央値0.09) | 最大0.35 |
| 白米 | 無機ヒ素・精米 | 0.098(中央値0.10) | 最大0.25 |
| 白米 | 無機ヒ素・精米 | 0.092(中央値0.08) | 最大0.26 |
| 白米 | 無機ヒ素・精米 | 0.09(中央値0.09) | 最大0.23 |
| ほうれんそう | 総ヒ素 | 0.01 | 最大0.12 |
| さといも・じゃがいも | 総ヒ素・さといも(皮つき) | 0.01 | 最大0.04 |
| 小麦 | 総ヒ素・小麦(国産) | 0.009 | 最大0.04 |
| 大豆 | 総ヒ素・大豆(国産) | 0.008 | 最大0.04 |
| さといも・じゃがいも | 総ヒ素・さといも(皮をむいたもの) | 0.006 | — |
| サバ | サバ・総ヒ素(可食部) | (平均の記載なし) | 1.5〜2.7 |
| サバ | マサバ・総ヒ素(筋肉・乾燥重量) | 5.4 | — |
| サバ | マサバ・無機ヒ素(筋肉・乾燥重量) | 0.00(検出されず) | — |
| イワシ・アジ・サンマ | イワシ・総ヒ素(可食部) | (平均の記載なし) | 2.5〜3.5 |
| イワシ・アジ・サンマ | アジ・総ヒ素(可食部) | (平均の記載なし) | 1.9〜7.0 |
| イワシ・アジ・サンマ | マイワシ・総ヒ素(筋肉・乾燥重量) | 17.3 | — |
| イワシ・アジ・サンマ | マイワシ・無機ヒ素(筋肉・乾燥重量) | 0.28 | — |
| イワシ・アジ・サンマ | マアジ・総ヒ素(筋肉・乾燥重量) | 25.6 | — |
| イワシ・アジ・サンマ | マアジ・無機ヒ素(筋肉・乾燥重量) | 0.06 | — |
| イワシ・アジ・サンマ | サンマ・総ヒ素(筋肉・乾燥重量) | 5.5 | — |
| イワシ・アジ・サンマ | サンマ・無機ヒ素(筋肉・乾燥重量) | 0.22 | — |
| 昆布 | 無機ヒ素・乾燥 | <0.5(全100点が定量限界未満) | — |
| わかめ | 無機ヒ素・乾燥 | <0.5(全100点が定量限界未満) | — |
| のり | 無機ヒ素・乾燥 | <0.5(全100点が定量限界未満) | — |
| 緑茶 | 総ヒ素・茶葉(乾燥) | 算出せず(119点が定量限界未満) | <0.01〜0.13 |
| ベビーフード | 無機ヒ素・ドライタイプ | 0.043〜0.047 | 最大0.80 |
| ベビーフード | 無機ヒ素・ウェットタイプ | 0.006〜0.013 | 最大0.17 |
| ベビーフード | 無機ヒ素・乳幼児用菓子類 | 0.022〜0.027 | 最大0.095 |
| ベビーフード | 総ヒ素・ウェットタイプ | 0.043〜0.047(中央値0.021) | 最大0.44 |
| 粉ミルク | 無機ヒ素・調製乳(粉末状・粉末あたり) | 0.007〜0.013 | 最大0.047 |
| 粉ミルク | 無機ヒ素・調製乳(粉末状・調乳後の推定値、mg/L) | 0.0010〜0.0017 | — |
| 粉ミルク | 無機ヒ素・調製乳(液状) | 0.002〜0.004 | 最大0.004 |
| 粉ミルク | 総ヒ素・調製乳(粉末状・粉末あたり) | 0.014〜0.018(中央値0.011) | 最大0.069 |
平均値の大きい順。形態(総量か無機か・乾燥か水戻し後か)がちがう値は並べて比べられないので、各食品のページで確かめてください。
体への影響
- 疫学の根拠はほとんど、飲料水がヒ素で汚染された地域(台湾・チリ・バングラデシュ・インド西ベンガル・中国内モンゴル)のデータです。食事からの低い濃度に当てはめるときの不確実性を、食品安全委員会(栄養状態の違い、水と食事の混在)も EFSA(皮膚病変の疫学は低・中所得地域のものなので、欧州には当てはめにくい)も書いています。
- IARC(2012年)は、ヒ素と無機ヒ素化合物をグループ1(発がん性あり)にしました。飲料水中のヒ素で、膀胱・肺・皮膚のがんが増えるという疫学が根拠です。
- 日本の食事での研究。JPHC コホート(9万378人・11年・がん7,002例)では、食事のヒ素とがん全体は関連せず、男性で肺がんと関連する傾向があり、現在喫煙中の男性で強まりました(無機ヒ素の最高群でハザード比1.36、95%信頼区間1.09〜1.70、Sawada 2013)。食事の調査票から推定した摂取量で、喫煙の影響が混ざるため、この結果だけでヒ素が肺がんの原因だとは言えません。
- 食品安全委員会(2013年12月)は、耐容一日摂取量を設定しませんでした。通常の食生活で健康影響を示すデータはなく、現状に問題があるとは考えていない、特定の食品に偏らずバランスよく食べてほしい、と結論しています。一方で、推定した無機ヒ素の摂取量は、評価書が算出した影響のない量(NOAEL・BMDL)と「かけ離れたものではなく」、一部の高い人は超える可能性がある、とも書いています。
- 高い量では急性中毒を起こします。1955年の森永ヒ素ミルク事件、1998年の和歌山毒物カレー事件などです。和歌山の事件の生存者の推定摂取量は平均53 mg、日本人の食事の無機ヒ素は1日約18 μgで、桁が違います。
耐容摂取量(一生とり続けても健康に影響が出ないとされる量)
| 機関 | 値 | 補足 |
|---|---|---|
| JECFA(1988年) | PTWI 15 μg/kg体重/週(約2.1 μg/kg/日) | 2010年に撤回。肺がんのBMDL0.5(3.0 μg/kg/日)と近く、健康を守る値でないと判断 |
| JECFA(2010年、第72回) | BMDL0.5 3.0(2〜7)μg/kg体重/日 | 肺がん。膀胱がんは5.2、皮膚病変は5.4。新しい耐容量は出さず |
| JECFA(2025年、第101回) | POD 0.3 μg/kg体重/日 | 虚血性心疾患のBMDL0.5。公開されている要約で確認した値です |
| EFSA(2009年) | BMDL01 0.3〜8 μg/kg体重/日 | 単一の値は出さず範囲で示しました。耐容量は不適切として、摂取量との余裕(MOE)で評価 |
| EFSA(2024年1月) | BMDL05 0.06 μg/kg体重/日 | 皮膚がん。欧州の成人の平均曝露は0.03〜0.15、95パーセンタイルは0.07〜0.33で、MOE は平均2〜0.4、95パーセンタイル0.9〜0.2。「懸念を生じる」とした。MOE の「低懸念」の線は決めていない |
| 食品安全委員会(2013年) | 設定せず | 飲料水汚染地域の疫学から日本の食事の閾値を出すと誤差が大きいこと、発がん機構の知見が足りないことが理由 |
| 米国 EPA(1991年) | RfD 0.3 μg/kg体重/日 | 国立医薬品食品衛生研究所の報告書(2024年)が比較に使った値 |
| 水道水(水質基準・WHO) | 0.01 mg/L(10 μg/L) | 日本の水質基準も WHO のガイドライン値も同じ。飲み水の基準で、食事の耐容量ではありません |
日本人がとっている量
- 無機ヒ素の摂取量は、マーケットバスケット方式(2014〜17年度の平均)で18.3 μg/日でした。内訳は米12.2(約67%)、野菜・海草2.9、調味料1.1、魚介0.4です。2024年のトータルダイエットスタディでは21.2 μg/日(体重あたり0.39 μg/kg/日)でした。
- 総ヒ素は約200 μg/日(マーケットバスケット205、陰膳199)で、うち魚介121.0(59.0%)、野菜・海草62.2(30.3%)、米12.6(6.1%)です。主役が、総ヒ素では魚介、無機ヒ素では米に入れ替わります。
- 陰膳方式(環境省の調査試料、2006〜10年度、319食)では、無機ヒ素は平均18.6(2.18〜161)μg/日、体重あたりの95パーセンタイルは0.754 μg/kg/日でした。調査ごとの推計は6.5〜33.7 μg/日と幅があります(Mohri 1990、Yamauchi 1992、Oguri 2012、Yoshinaga 2025 など)。
- 年次推移:総ヒ素は2007年の145 μg/日(図から読み取った概算)を底に増え、2021年に322、2024年に219 μg/日でした。魚介類の喫食量は減り、海藻の喫食量はほぼ一定なので、食品中の濃度が増えている可能性があると報告書は推測しています。無機ヒ素は2014年以降、14〜23 μg/日の間でほぼ一定です。
- 耐容量と並べると:2024年の無機ヒ素は、報告書が選んだ物差しのうち、EPA の RfD と EFSA 2005年の暫定 TWI に対するハザード比が1.28〜1.80で、4つの金属の中で1を超えるのは無機ヒ素だけでした。JECFA の BMDL0.5(3.0 μg/kg/日)に対しては比ではなく、余裕(MOE)が7.8です。ただし日本の食品安全委員会は耐容量を設定していません。
- 物差しで見え方が変わります。無機ヒ素の平均摂取量18.3 μg/日を体重60kgで割ると0.305 μg/kg/日です。これは、撤回された JECFA の PTWI(約2.1)の約15%、JECFA 2010 の BMDL0.5(3.0)の約10分の1、JECFA 2025 の POD(0.3)とほぼ同じ、EFSA 2024 の参照点(0.06)の約5倍です。比較の整理であって、安全か危険かの線ではありません。
歴史
- 1955年:森永ヒ素ミルク事件。徳島工場の粉ミルクに加えた第二リン酸ソーダに、無機ヒ素(5価)が約10%混ざっていました。乳児約12,000人が中毒になり、133人が亡くなったとされています(食品安全委員会の評価書)。
- 1959年12月28日:この事件を契機に、食品、添加物等の規格基準(厚生省告示第370号)が定められ、ヒ素の規制が始まりました。
- 1998年:和歌山毒物カレー事件(三酸化二ヒ素)。67人が急性中毒になり、4人が亡くなりました。
- 2003年:茨城県で、不法投棄されたジフェニルアルシン酸を含む廃棄物により、井戸水が汚染され、住民に健康被害が出ました(農水省)。
- 2004年7月:英国 FSA がひじきを食べないよう勧告し、厚労省が2日後に Q&A を出しました。
- 2010年:JECFA が PTWI(週15 μg/kg)を撤回。2012年:IARC がグループ1に分類。2013年12月:食品安全委員会が評価書をまとめました。
- 2014年・2016年:Codex が精米0.2 mg/kg(2014年)、玄米0.35 mg/kg(2016年)を採択。2017年7月に、米のヒ素の汚染防止・低減の実施規範を採択しました。
- 2020年:米国 FDA が、乳児用ライスシリアルの無機ヒ素に100 μg/kg のアクションレベルを設定(最終ガイダンス)。
- 2024年1月:EFSA が参照点を BMDL05 0.06 μg/kg/日に。2025年:JECFA が再評価し、虚血性心疾患から POD 0.3 μg/kg/日を出しました。
知っておきたいこと
- 日本には、米・ひじき・魚介類の無機ヒ素の基準値が見当たりません(食品安全委員会の評価書の表と、農水省の資料を読んだ範囲。法令の条文を一つずつ確かめたわけではありません)。「基準を超えた」とは書けないので、海外の物差しに当てはめるときは「他国の基準に当てると」と書きます。
- 各国の「ひじき」への見解は割れています。英国・カナダ・香港・豪州・ニュージーランドは「避ける」、日本の厚労省・農水省・食品安全委員会は「バランスよく食べれば問題ない。減らす調理を」です。各国の当局が、理由を比べて説明した文書は見つかっていません。
- 厚労省の Q&A(2004年)の計算は、のちに撤回された JECFA の PTWI(週15 μg/kg)に基づいています。2004年当時の計算であり、今の評価として引くものではありません。
- 稲作には、ヒ素とカドミウムのトレードオフがあります。出穂後に水田の水を落とすとヒ素は減りますが、カドミウムは増えます。農水省は2024年6月に、両方を減らす指針を策定しました。
- 日本の米加工品(米菓・米粉・米ぬか・ぬか漬け)の無機ヒ素の公的な調査は、見つかりませんでした。EU には米菓0.30 mg/kg などの基準があります。もずく・あらめなど、ひじきと同じホンダワラ科の海藻の公的データも見つかっていません。
- 「ひじきはヒ素が多いから食べるな」「玄米はヒ素が多いから避けよ」といった断定は、農水省・食品安全委員会の見解と合いません。一方、「ヒ素は問題ない」と言い切る話も、EFSA 2024 や JECFA 2025 が「懸念の可能性」とした評価と合いません。両方を並べて、判断は読み手に委ねます。
- EFSA の欧州の成人の曝露量を、そのまま日本人に当てはめることはできません。食べ物(米・海藻)が違うためです。
関連する解説
出典
- 農水省『食品に含まれるヒ素の実態調査』(2025年12月19日更新)
- 農水省 コメ中のヒ素の摂取量・各国との比較
- 農水省 ひじき中のヒ素(家庭での調理の試験)
- 食品安全委員会 食品健康影響評価「ヒ素」(2013年12月)
- EFSA CONTAM Panel. EFSA J 2024;22(1):e8488(無機ヒ素)
- JECFA データベース(ヒ素)
- 厚労科研 トータルダイエットスタディ 令和6年度(国立医薬品食品衛生研究所)
- Sawada N ほか. Cancer Causes Control 2013(JPHC コホートとヒ素)(PMID 23666560)
最終確認日 2026.10.03(公的機関の資料・論文の原典で確認し、Gemini Notebook に集めて照合)。
重金属は自然の土や海にもともとある物質で、どの食品にも少しずつ含まれます。このページは、公的機関の調査・基準・評価と論文に書かれている事実を並べたもので、食品の良し悪しを判定するものではありません。妊娠中の方の魚の食べ方など、国の注意事項があるものはそれに従ってください。