酵母エキスは体に悪い? 肉エキスから生まれた歴史・作り方・グルタミン酸の量・「隠れMSG」説と日本・米国・ドイツの表示ルール

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カレールウ、コンソメ、だしの素、ポテトチップス。裏面の原材料名を見ると、「酵母エキス」という言葉がよく出てきます。
酵母エキスについては、正反対の話をどちらもよく聞きます。
- 「酵母エキスは添加物ではないから、使っていても『無添加』と書ける。だからずるい」
- 「酵母エキスは『隠れ MSG(グルタミン酸ナトリウム)』。うま味調味料の言いかえにすぎない」
- 「酵母エキスは脳に悪い。神経をこわす『興奮毒』だ」
- 「酵母エキスは天然のものだから安全」
- 「酵母はプリン体が多いので、痛風の人は避けたほうがいい」
この記事では、
- 酵母エキスはいつ、どこで、何の代わりとして生まれたのか
- どうやって作るのか。うま味調味料(添加物)と何が違うのか
- なぜ表示のうえでは「食品」なのか。添加物になる場合はないのか
- 日本・米国・ドイツで、酵母エキスを使った「うま味調味料不使用」の扱いはどう違うのか
- 「隠れ MSG」「興奮毒」という説はどこから来たのか
- 人の体への影響(グルタミン酸・プリン体・3-MCPD・アレルギー・薬との組み合わせ)
- 実際の商品にどれくらい入っているのか。どれくらいの量でうま味調味料と同じになるのか
を、法令、公的機関の資料、論文、そしてウラヨミに載せている商品の原材料名で確かめます。「化学調味料無添加」の表示が消えた経緯は うま味調味料の記事、グルタミン酸ナトリウムの歴史や1日の摂取許容量(ADI)は グルタミン酸ナトリウムの記事 にまとめています。この記事は、酵母エキスそのものを深く掘ります。
結論
- 酵母エキスの祖先は、19世紀の「肉エキス」です。欧州では、牛肉のエキスの代わりとして酵母のエキスが使われてきました。英国のマーマイトは1902年に会社ができ、日本ではアサヒグループ食品が1966年発売の「ミースト」を国内で初めての酵母エキスと説明しています
- 作り方は「酵母の中身をまとめて取り出す」ことです。酵母自身の酵素や加えた酵素で分解し、溶け出した部分を濃縮します。たん白加水分解物のように塩酸で分解する工程は、代表的な作り方にはありません。グルタミン酸を多くしたタイプと、核酸(イノシン酸・グアニル酸)を多くしたタイプがあります
- 表示のうえでは「食品」です。ただし線引きは微妙です。酵母から成分を1つずつ取り出したもの(5’-アデニル酸など)は添加物、中身をまとめて取り出した酵母エキスは食品です。さらに、消費者庁の Q&A には「添加物の目的で使えば、食品でも添加物として表示が必要」とあり、2019年には消費者庁が「酵母エキスを『/』の後に添加物として書く方法も考えられる」と説明しています。判断は事業者に任されています
- 同じことに、日本・米国・ドイツで答えが違います。酵母エキスを使った食品に、米国は「No MSG」と書くことを認めず、日本は2022年のガイドラインで「表示禁止事項に該当するおそれが高い」例に挙げました。ドイツの高等裁判所は2016年、「うま味を強める添加物なし」の表示を誤認ではないと判断しています
- 「隠れ MSG」という言い方は、米国の表示を求める運動から広まりました。出発点は「危険だから」というより「知らないうちに口に入るのがいやだ」という表示の要求でした。一方、作る側も「表示義務がないこと」を利点として説明していました(2001年の総説)
- 体の中では、酵母エキスのグルタミン酸も MSG のグルタミン酸も同じです(FASEB・FDA・EFSA)。酵母エキスだけに特有の害を示した研究は、見つかりませんでした。違いが出るのは、一緒に入る核酸(プリン体)ですが、だしの素やコンソメの1回分に直すと数 mg で、1日の目安 400mg に比べて小さい量です
- 気をつけたい人はいます。酵母に反応するアレルギー(まれ)と、抗うつ薬の MAO 阻害薬を飲んでいる人です(マーマイトのような濃い酵母エキスのスプレッド)。3-MCPD は、EU の調査で酵母エキスからは定量できる量が出ませんでした
- ウラヨミの食品69品では、23品(33%)に酵母エキスが入っていました。カレールウは11品すべてです。「〇〇不使用」と表示した16品のうち6品は酵母エキス入りでしたが、不使用の対象はうま味と関係のない保存料・小麦粉などでした。うま味や添加物全体の不使用をうたう7品は、どれも酵母エキスを使っていませんでした
この記事で紹介しているもの
| 紹介しているもの | どんなときに | 記事の中の場所 |
|---|---|---|
| かね七「料亭仕込み 天然だしの素パック」 | 酵母エキスもうま味調味料も使っていないだしパックを選びたいとき | 酵母エキスを使っていないものを選びたいとき |
| マエカワテイスト「だしパック 十二単」 | 同上(魚介・昆布・しいたけだけのだしパック) | 酵母エキスを使っていないものを選びたいとき |
| マルトモ公式直販(かつお節) | 自分でだしをとりたいとき | 自分でだしをとるなら |
| 無塩ドットコム(減塩・無塩食品の専門通販) | 塩そのものを減らしたいとき | 減塩の研究は味の評価まで |
| 「酵母エキス不使用」と書かれた3品(光食品・鰹節のカネイ・風と光) | 表示で確かめて選びたいとき | 酵母エキス不使用と書いてある3品 |
酵母エキスはどうやって生まれた?
酵母エキスの歴史は、「肉のエキスの代わり」から始まります。
祖先は19世紀の「肉エキス」
19世紀の欧州では、肉を煮つめた「肉エキス」が、栄養のある食品として売られていました。広めたのは、ドイツの化学者リービッヒです。1847年に作り方を発表し、約30ポンド(約14kg)の肉から、1ポンド(約450g)のエキスしか取れなかったと伝えられています(米国の科学史研究所 Science History Institute の解説。比率は資料によって違います)。
- 肉エキスを大量に作ったのは、南米ウルグアイのフライベントスにあった工場です。ユネスコによると、リービッヒ肉エキス会社は1865年から、欧州に肉エキスとコンビーフを輸出しました。工場の跡は2015年に世界遺産になっています
- ただし、肉エキスに栄養はほとんどありませんでした。1868年には、ドイツの生理学者が犬に肉エキスだけを与える実験をして犬がすべて死に、エキスの栄養の乏しさが大きな論争になりました(同解説)。肉エキスは「栄養」ではなく「味」のものだったわけです
酵母エキスを作るメーカー(興人)の研究者が2001年に書いた総説は、欧州の酵母エキスは「ビーフエキスと味質が似ていることもあり」、その代替品として古くから開発されたと説明しています。
「酵母エキスもリービッヒが発明した」という説明を見かけることがあります。英語版のウィキペディアにも書かれていますが、出典は雑学記事やファンサイトで、リービッヒ自身の文献は確認できませんでした。リービッヒが確かに作ったのは肉エキスです。
酵母の「中身」に注目が集まった
酵母は、パンやビール、お酒を作る微生物(カビやきのこの仲間の菌類)です。1907年のノーベル化学賞は、ドイツのブフナーに贈られました。受賞の理由は「無細胞発酵の発見」で、生きた酵母がいなくても、酵母を壊して搾った汁だけで発酵が起きることを示した研究です(ノーベル財団)。酵母の「中身」には、たんぱく質を分解する酵素などがたくさん詰まっています。酵母エキスは、この中身を食べものとして取り出したものです。
マーマイトとベジマイト
| 年 | できごと | 出典 |
|---|---|---|
| 1902年6月13日 | 英国でマーマイトの会社(Marmite Food Extract Co)が登記される。最初の工場はビールの町バートン・アポン・トレントで、近くのバス醸造所で出たビール酵母を使った | 英国の産業史サイト Grace’s Guide |
| 1920年代 | 豪州で、英国のマーマイトの輸入が第一次世界大戦で途絶えたことをきっかけに、フレッド・ウォーカー社の化学者キャリスターが国産の酵母エキス「ベジマイト」を作る | モナシュ大学の記事、豪州人名辞典 |
| 1930年代 | 医師ルーシー・ウィルスが、ボンベイ(いまのムンバイ)で貧血の治療にマーマイトを使い、のちの葉酸の発見につながったと紹介されている | 英語版ウィキペディアが引く Bastian 2007 |
ベジマイトの発売は、一般に「1923年」とされ、2023年には100周年が祝われました。一方、豪州人名辞典(1979年)は、キャリスターの入社を1923年2月、発売を「1924年はじめ」と書いています。どちらが正しいかは確かめられませんでした。
マーマイトもベジマイトも、パンに塗って食べる黒いペースト(スプレッド)で、ビール工場の「余りもの」の酵母から生まれました。
日本では昭和初期に輸入、1966年に国産化
| 年 | できごと | 出典 |
|---|---|---|
| 昭和初期 | 酵母エキスがオランダから輸入され始める | 興人の総説(2001年) |
| 昭和30年代 | インスタントラーメンのブームとともに需要が伸びる | 同上 |
| 1962年 | 大分県の興人の佐伯工場(もとはパルプ工場)が、木材から取った糖液で酵母を作り始める | 興人ライフサイエンス |
| 1966年 | アサヒグループ食品の前身が、ビール酵母を自己消化させた酵母エキス「ミースト」を発売。同社は「日本で初めて酵母エキスを開発・製品化」と説明 | アサヒグループ食品 沿革、グルメWatch(2026年3月) |
| 昭和40年代はじめ | ビール酵母エキスが国産化され、各社が作り始める。ただし「独特の酵母臭や雑味」で使い道は限られた | 興人の総説 |
| 1991年 | アサヒが酵素で分解するタイプの「スーパーミースト」を発売 | アサヒグループ食品 沿革 |
| 2000年度 | 興人の核酸を多く含む酵母エキス「アロマイルド」が日本食品保蔵科学会の技術賞。単品で売上「10数億円」 | 興人の総説 |
| 2019年 | 興人ライフサイエンスなどが統合し、三菱商事ライフサイエンスになる | 同社 沿革 |
| 2026年 | アサヒグループ食品の酵母エキスの製造量が、従来の1.5倍の約5,700tになる見込みと報じられる | グルメWatch(2024年1月) |
「日本で初めて」は、アサヒグループ食品自身の説明です。興人の総説は会社名を書かずに「昭和40年代初期に国産化」としていて、両者は矛盾しませんが、ほかの会社の記録と比べた裏付けはしていません。
パルプ工場から生まれた「天然調味料」
興人の酵母エキスの原料は、トルラ酵母(学名 Cyberlindnera jadinii、昔の名前は Candida utilis)という酵母です。同社によると、トルラ酵母は、第一次世界大戦中のドイツがたんぱく源として作り始めたのが利用の始まりです。日本の佐伯工場は、1953年に溶解パルプ(紙ではなくレーヨンなどの原料になるパルプ)の工場として動き出し、1962年に木材の糖液で酵母を作り始めました。
「天然調味料」と聞くと、畑や海から取れたものを思い浮かべるかもしれません。酵母エキスの歴史は、ビール工場やパルプ工場の副産物を、どう食べものとして使うかという工業の歴史でもあります。
「化学調味料」への反発と「無添加」の流れ
1960〜70年代、グルタミン酸ナトリウム(いわゆる化学調味料)への批判が強まりました。くわしくは グルタミン酸ナトリウムの記事 にまとめています。
その後、「添加物を使っていない」ことを売りにする商品が増えていきます。消費者庁が2019年の検討会で紹介したところによると、1987年の国の検討会の報告書はすでに、当時は表示しなくてよかった「天然添加物」を使いながら「無添加」と書くのは「国民の信頼を損なう」ので好ましくない、と指摘していました。表示されない別のもので置き換えて「無添加」とうたう構図は、1980年代からあったことになります。
酵母エキスは、この流れの中で需要を伸ばしました。ただし、「無添加ブームで酵母エキスの生産が何倍になった」という国内の統計は、公的な資料にも業界団体の公表値にも見つかりませんでした。言えるのは、作る側の資料が「無添加」の需要を利点に挙げていた、というところまでです(作り手は何と説明してきたか)。
酵母エキスの作り方

酵母エキスは、酵母の細胞を壊して、溶け出した中身を濃縮したものです。
原料の酵母は3種類
| 酵母 | どこから来るか | 特徴 |
|---|---|---|
| ビール酵母 | ビールを造ったあとに残る酵母。ビール1万tあたり150〜200tが出る(Tao ら 2023) | ホップの苦みを除く工程が要る |
| パン酵母 | 糖蜜やブドウ糖で培養した酵母(興人ライフサイエンス) | 酵母エキス用に育てる |
| トルラ酵母 | 木材の糖液やブドウ糖で培養(興人) | 増えるのが速い。核酸を多くためる株が選ばれている |
アサヒグループ食品は2024年1月、アサヒビールの工場で酵母エキス用の酵母を培養し、自社の工場で酵母エキスを作る体制を整えると発表しました。報道によると、培養した酵母は「エキスに含まれる栄養素をコントロールできる」ためです。
細胞の壊し方は4つ
2023年の総説(Tao ら、韓国の微生物学の学会誌)は、酵母の細胞の壊し方を4つに分けています。
| 方法 | 中身 |
|---|---|
| 自己消化 | 加熱などで酵母を死なせ、酵母自身の酵素で中身を分解させる。マーマイトなどの昔ながらの方法 |
| 溶菌剤を使う方法 | 食塩や酢酸エチルなどで細胞の膜を壊す |
| 酵素分解 | たんぱく質を分解する酵素などを加えて分解する |
| 物理的な破砕 | 機械で細胞を壊す。米国の規則にある「パン酵母エキス」は、機械で壊した細胞の溶ける部分を濃縮したもの |
興人の「アロマイルド」の工程は、連続培養 → 酵母を分ける → 熱水で抽出 → エキスを分ける → 酵素反応 → 濃縮 → 殺菌 → 乾燥です(2001年の総説)。日本エキス調味料協会のガイドライン(2023年)は、エキスの作り方を「抽出又は搾汁、自己消化、酵素処理、精製、濃縮等」と書いています。
塩酸で分解する工程は、酵母エキスの代表的な作り方にはありません。塩酸で分解するのは、大豆や小麦のたんぱく質から作る「たん白加水分解物」(アミノ酸液など)の一部です。ただし、米国には「hydrolyzed yeast(加水分解酵母)」という名前の原料もあり、酸で分解した酵母の製品が世界にまったくないとまでは確かめられませんでした。
グルタミン酸型と核酸型
酵母エキスには、うま味の成分の多さで、大きく2つのタイプがあります。
| タイプ | 多い成分 | 作り方のポイント | 例 |
|---|---|---|---|
| グルタミン酸を多くしたタイプ | グルタミン酸(昆布のうま味) | 酵母が持つグルタミン酸を増やす | 三菱商事ライフサイエンスの「アジトップ」。同社は「L-グルタミン酸ナトリウム高含有」と紹介している |
| 核酸を多くしたタイプ | イノシン酸(かつお節のうま味)・グアニル酸(干ししいたけのうま味) | 核酸(RNA)を多くためる酵母を選び、酵素で2段階に分解する | 興人の「アロマイルド」。2001年の規格で、イノシン酸+グアニル酸が20%以上 |
ふつうのパン酵母やビール酵母では、RNA(核酸)は乾いた酵母の重さの4〜8%です。興人は、品種改良でRNA を18%以上ためるトルラ酵母を選び、ヌクレアーゼ(RNA を細かく切る酵素)とデアミナーゼ(アデニル酸をイノシン酸に変える酵素)の2段階の反応で、うま味の核酸に変えています。同社の総説は、この品種改良を「古典的方法による育種」で「遺伝子組み換え体でない」と書いています(どちらもメーカーの社員が書いた総説です)。
酵母エキスに入っているもの
| 成分 | 中身 |
|---|---|
| アミノ酸・ペプチド | たんぱく質を分解したもの。遊離グルタミン酸はタイプによって数%〜30%(くわしくは下の節) |
| 核酸 | イノシン酸・グアニル酸など。核酸を多くしたタイプでは、乾燥重量の25〜55%がうま味の核酸という特許もある(ルサッフル社、2017年優先日) |
| ビタミン | ビタミンB群など |
| 食塩 | 製品による。アロマイルドの規格は「食塩10%以下」、分析例はナトリウム 3.9g/100g(食塩に直すと約9.9g) |
日本エキス調味料協会の定義(2023年)には、「これに副原料、呈味成分を加えたもの」も含まれています。つまり、業界の定義の「エキス」は、うま味の成分を足したものも含みうるということです。ただし同じガイドラインは、加えた添加物は食品表示基準に従って表示するよう書いています。
なぜ「食品」なのか:日本の表示のルール
酵母エキスは表示のうえで「食品」です。ただし、その線引きは見た目ほど単純ではありません。
添加物のリストに名前がない
日本では、添加物は国が決めたリストに載ったものだけが使えます。消費者庁の「別添 添加物関係」(2026年4月版。既存添加物・天然香料の基原物質・一般飲食物添加物などのリスト)を確かめたところ、「酵母エキス」という言葉は1か所も出てきませんでした。だから酵母エキスは添加物ではなく、原材料名の「/」より前に、食品として重さの多い順に書かれます。
なお、天然香料の基原物質のリストには「イースト/酵母」があります。香りをつける目的で酵母から作った香料は「香料」と表示します。香料の表示は 香料の記事 で紹介しています。
成分を1つずつ取り出すと「添加物」になる
おもしろいのは、同じ酵母から作っても、添加物になるものがあることです。
| 酵母から作るもの | 表示上の区分 | 中身 |
|---|---|---|
| 酵母エキス | 食品 | 酵母の中身を、まとめて取り出して濃縮したもの |
| 5’-アデニル酸・5’-シチジル酸 | 添加物(既存添加物・強化剤) | トルラ酵母(Candida utilis)の菌体から、核酸の成分を取り出したもの |
| 酵母細胞壁 | 添加物(既存添加物・増粘安定剤) | 酵母の細胞の壁 |
| ファフィア色素 | 添加物(既存添加物・着色料) | 酵母の培養液から取った色素 |
出典:消費者庁「別添 添加物関係」(2026年4月1日版)、大阪府の既存添加物の新旧対照表(2018年)。
アミノ酸液についての消費者庁の Q&A(加工-76)は、考え方をこう説明しています。個々のアミノ酸まで取り出さず、いろいろなアミノ酸が混ざった状態を保っているものは、肉エキスと同じように食品として扱う。一方、グルタミン酸ナトリウムのように1つの成分にしたものは添加物です。
核酸を20%以上含む酵母エキス(食品)と、酵母から取り出した5’-アデニル酸(添加物)は、原料の酵母も、酵素で核酸を分解する工程も、よく似ています。違うのは「1つの成分まで取り出したか、まとめて取り出したか」です。
「添加物の目的で使えば添加物表示」という Q&A
ここからは、ほかのサイトではあまり書かれていない話です。
消費者庁の食品表示基準 Q&A(加工-75-1)には、次の問答があります。
(問)一般飲食物添加物リストに収載されていない食品は、添加物の目的で使用しても、添加物表示は不要と解してよいですか。 (答)添加物の目的で使用した場合は、当該物が食品であっても、添加物としての表示が必要です。
消費者庁は、2019年9月20日の「食品添加物表示制度に関する検討会」で、この Q&A と、硝酸塩を含む白菜エキスを肉の発色の目的で使えば「発色剤」と表示する、という2007年の通知を例に挙げて、こう説明しました(議事録)。
- 添加物の代わりになるグルタミン酸の代わりに酵母エキスを使うなど、添加物の効果を期待して使う場合には、「スラッシュ(/)の後に添加物として酵母エキスを表示する」方法も考えられる
- ただし、食品として使うか、添加物として表示するかの判断は、あくまで添加物を使う事業者に委ねられる
つまり、「酵母エキスは添加物ではない」は正しい説明ですが、正確には 「ふつうは食品として表示される。ただし添加物の目的で使えば添加物として表示すべき、という Q&A があり、その判断は事業者に任されている」 です。確かめた範囲では、酵母エキスを「/」の後に書いている商品は、ウラヨミの商品データにはありませんでした。
2022年のガイドライン:類型5
消費者庁は2022年3月、「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」を出しました。結局、酵母エキスを添加物の扱いに変えるのではなく、「不使用」の表示の側で対応しています。
ガイドラインの類型5(同じ働き・似た働きを持つ原材料を使った食品への表示)は、表示禁止事項に該当するおそれが高い例として、「原材料として、アミノ酸を含有する抽出物を使用した食品に、添加物としての調味料を使用していない旨を表示」を挙げています。ガイドラインは理由をこう書いています。
食品の特定の成分のみを抽出したこと等により、当該食品との科学的な同一性が失われていると考えられるもので代替することは、社会通念上食品であると考えられるもので代替することとは異なる。
そのうえで、消費者が添加物を避けたいと考えているときに、それと気づかずに買えば、添加物を使った商品より優れていると誤解させるおそれがある、としています。類型5の参考には、国際的な食品規格(コーデックス)の「強調表示に関する一般ガイドライン」が引かれています。
ガイドラインの類型の全体は 「無添加」表示のルールの記事、「化学調味料無添加」の表示が消えた経緯は うま味調味料の記事 にまとめています。
日本・米国・ドイツで答えが違う

同じ「酵母エキスでうま味調味料を置き換えて『不使用』とうたう」ことに対して、3つの国で答えが違います。
米国:「No MSG」とは書けない
米国食品医薬品局(FDA)の Q&A は、酵母エキスなど遊離グルタミン酸を自然に含む原材料を使った食品は、“No MSG”(MSG 不使用)や “No added MSG”(MSG 無添加)と表示できないとしています。
この Q&A は、2026年7月17日に書きかえられました。
| 版 | 書き方 |
|---|---|
| 2012年公開(2018年時点) | MSG は、たん白加水分解物や酵母エキスなどの原材料に「自然に含まれる(MSG occurs naturally)」 |
| 2026年7月17日更新 | 遊離グルタミン酸とナトリウムが、酵母エキスなどの原材料に「一緒に自然に含まれる(free glutamate and sodium occur together naturally)」 |
「酵母エキスに MSG が入っている」から「酵母エキスに遊離グルタミン酸とナトリウムが入っている」へ、より正確な言い方に変わりました。「No MSG」と書けない、という結論は変わっていません。
FDA は、1996年9月12日の連邦官報(規則づくりの前の意見募集)で、すでにこの問題を整理していました。
- 消費者は「No MSG」という表示を、遊離グルタミン酸がまったく入っていないという意味に受け取るおそれが高い
- たん白加水分解物などの原料メーカーは、完成品のメーカーに対して、これらを「『クリーン』な原材料表示と『No MSG』表示を可能にする、MSG の機能的な代替品」として売り込んでいる。ここで「クリーン」とは、原材料名に「グルタミン酸ナトリウム」が出てこないことを指す
- 遊離グルタミン酸を多く含む原材料を使った食品の「No MSG」表示は、誤認を招く
名前のルールもあります。米国の規則(21 CFR 102.22、1993年)は、たん白加水分解物の名前に原料が分かる言い方を求めていて、「autolyzed yeast extract(自己消化酵母エキス)」は認められる名前の例として条文に書かれています。
EU・ドイツ:添加物ではなく原材料。裁判所は「誤認ではない」
EU では、添加物は「それ自体はふつう食品として食べないもの」と定義されています(規則 1333/2008 第3条)。酵母エキスは添加物のリストになく、E番号もありません。オーストリアの労働者会議所は「グルタミン酸は添加物、酵母エキスは原材料」と説明し、そのため「うま味を強める添加物なし(ohne Geschmacksverstärker)」と書けてしまう、と指摘しています。
| 年 | できごと | 出典 |
|---|---|---|
| 2011年 | ドイツの消費者団体の苦情サイトに、「添加物なし」とうたう商品への苦情が集まる。最初の集計(2011年10月)では、「添加物なし」の15品でいちばん多かった例が、「うま味を強める添加物なし」としながら酵母エキスで置き換えていたもの(チップス・インスタントスープ・ソースなど) | ドイツ消費者団体連盟 |
| 2011年12月 | 欧州の酵母製品の業界団体が「酵母エキスは100%天然の原材料で、MSG と混同すべきでない」と反論。同じ月、小売大手の Lidl が、酵母エキス入りの商品に「グルタミン酸ナトリウム不使用」と書くのをやめると表明したと報じられた | FoodNavigator、t-online |
| 2016年9月8日 | ザクセン州の消費者センターが、酵母エキス入りのクノールのスープの「自然に、うま味を強める添加物なし」という表示を訴えた裁判で、ハンブルク上級地方裁判所は「誤認ではない」と判断(事件番号 5 U 265/11) | 消費者センターの発表を伝えた報道 |
この判決は、報道の時点で確定していないと伝えられていました。判決の本文と、その後の確定の有無は確かめられませんでした。EU には、「No added MSG」のような表示を全体で決めた共通ルールも見つかりませんでした。
3か国を並べると
| 日本 | 米国 | ドイツ(EU) | |
|---|---|---|---|
| 酵母エキスの区分 | 食品(添加物のリストにない)。ただし添加物の目的なら添加物表示(Q&A。判断は事業者) | 食品原料。パン酵母エキスは「一般に安全と認められる」(GRAS)、食品中5%まで | 原材料(添加物の定義に当たらない)。E番号なし |
| 酵母エキスを使って「うま味調味料不使用」 | 2022年のガイドラインで「表示禁止事項に該当するおそれが高い」例(類型5)。ガイドライン自体は解釈の目安で、個別の禁止規定ではない | “No MSG” “No added MSG” は不可(FDA) | 2016年、高等裁判所が「うま味を強める添加物なし」を誤認ではないと判断 |
| 考え方 | 同じ働きをする原材料での置き換え。コーデックスの考え方を参考にしている | 消費者は「No MSG」を遊離グルタミン酸全体の不在と受け取る(1996年) | 誤認表示の一般規定(規則 1169/2011 第7条)で個別に判断 |
日本と米国は「置き換えたなら『不使用』は誤解を招く」で近い考え方です。ドイツの裁判所だけが別の答えを出しました(理由は確かめられていません)。
「隠れ MSG」説はどこから来た?
「酵母エキスは隠れ MSG」という言い方は、SNS や一部のサイトでよく見かけます。たどると、1990年代の米国にたどり着きます。
| 年 | できごと | 出典 |
|---|---|---|
| 1993年1月 | FDA が、自己消化酵母エキスなどの名前に「(contains glutamate)」(グルタミン酸を含む)を付ける案を出す。FDA 自身は「健康上の懸念によるものではない」と説明 | FDA 1996年の連邦官報 |
| 1994年 | 脳神経外科医ブレイロックの本『Excitotoxins: The Taste That Kills』(興奮毒:命を奪う味)が出版される | 書誌情報 |
| 1994年12月31日 | MSG の表示を求める団体(Truth in Labeling Campaign)のサミュエルズ夫妻や研究者オルニーらが、加工食品の遊離グルタミン酸の有無と量の表示を求めて FDA に請願 | FDA 1996年の連邦官報 |
| 1995年 | FDA の依頼で、米国実験生物学会連合(FASEB)が報告書をまとめる | 同上 |
| 1996年9月 | FDA が、1食に遊離グルタミン酸0.2g以上を含む食品に表示を求める案などで意見を募集(事前通知)。消費者が「酵母エキスなどで MSG を隠している」と訴えていることも官報に書く | 同上 |
| 2011年 | ドイツで「酵母エキスは隠れグルタミン酸」という批判が広がる | 消費者団体、報道 |
| 2016年 | ドイツの高等裁判所が、酵母エキス入りの「うま味を強める添加物なし」を誤認ではないと判断 | 報道 |
| 2018年 | 米国の酵母エキス業者の連合(Savory Taste Alliance)が「隠れ MSG ではない」と広報 | FoodNavigator |
| 2022年 | 日本のガイドラインが類型5を定める | 消費者庁 |
| 2026年 | FDA が Q&A を「遊離グルタミン酸とナトリウムが一緒に自然に含まれる」に書きかえる | FDA |
FDA の1993年の案も、1996年の案も、規則にはなりませんでした(その後どう扱われたかは確かめられませんでした)。表示を求めた団体のサイトは、いまも酵母エキスを「製造された遊離グルタミン酸を必ず含む」ものに分類しています。ブレイロックの本が酵母エキスを名指ししているかは、原本で確かめられませんでした。ネットに出回る「隠れ MSG の一覧」は、第三者がまとめたものが多く、だれが最初に作ったのかははっきりしません。
この流れから分かるのは、「隠れ MSG」の出発点は「危険だから」より「表示されずに口に入るのがいやだ」という表示の要求だったことです。
| よく聞く話 | 判定 |
|---|---|
| 酵母エキスは MSG そのもの | 違う。酵母エキスは遊離グルタミン酸を含む原材料で、MSG(グルタミン酸ナトリウム)という1つの物質ではない。FDA も2026年に書き方を改めた |
| 酵母エキスのグルタミン酸は MSG のグルタミン酸と別物 | 違う。体の中では同じ(次の節) |
| 酵母エキスは添加物より体に悪い | 根拠となる研究は見つからなかった |
| 酵母エキスは天然だから安全 | 根拠にならない(宣伝の言葉)。評価は「グルタミン酸は由来によらず同じ」 |
| 酵母エキスで置き換えて「無添加」とうたうことがある | 事実。業界の資料にも、米国 FDA の官報にも書かれている(作り手は何と説明してきたか) |
酵母エキスは体に悪い? 説ごとに確かめる
グルタミン酸は「どこから来たか」で変わらない
酵母エキスのグルタミン酸と、うま味調味料のグルタミン酸は、体の中で同じものです。
- FASEB(1995年)は、味を強めるのは L 型のグルタミン酸だけで、その化学的な性質は、工場で作ったものでも、食品に自然にあるものでも同じと結論しました(FDA 1996年の官報が引用)
- FDA は同じ官報で、「作られた遊離グルタミン酸が、自然にある遊離グルタミン酸と体の中で違う働きをするという主張を、科学的な証拠は支持しない」と書いています
- 欧州食品安全機関(EFSA)は2017年の再評価で、分析では「もともと含まれる」グルタミン酸と「添加物として加えた」グルタミン酸を区別できないとし、酵母エキスがグルタミン酸の供給源として使われていることを注記しました
- ドイツの商品テスト財団(Stiftung Warentest)も2008年に「酵母エキスのグルタミン酸は、工業的な添加物と化学的に同じ」と書いています
FDA によると、大人は食べもののたんぱく質から1日に約13gのグルタミン酸をとっていて、加えたグルタミン酸ナトリウムは1日約0.55gです。グルタミン酸ナトリウムの1日の摂取許容量(ADI)と、人での試験は グルタミン酸ナトリウムの記事 にまとめています。酵母エキスのグルタミン酸も、この評価がそのまま参考になります。
「興奮毒」説
「グルタミン酸は神経細胞を興奮させすぎて壊す『興奮毒(エキサイトトキシン)』で、酵母エキスにも入っている」という説があります。
- グルタミン酸は、脳の中では神経の信号を伝える物質で、脳の中で大量に出るとたしかに神経を傷つけます(脳卒中などで問題になる)
- しかし FASEB(1995年)は、「食事からとる MSG やその他の遊離グルタミン酸が、アルツハイマー病・ハンチントン病・ALS(筋萎縮性側索硬化症)など、神経細胞が壊れていく長期の病気を起こしたり悪化させたりする証拠はない」と結論しました
- EFSA(2017年)は、脳が傷ついた動物実験は、大量を注射などで全身に与え、血液脳関門(脳を守る関所)に守られていない場所で起きたものだと整理しています。食べたグルタミン酸は、腸と肝臓を通る段階でほとんどが使われることも紹介しています(早産児の研究など)
酵母エキスは「グルタミン酸を含む原材料」なので、興奮毒の説は MSG の議論にそのまま乗っています。酵母エキスに特有の神経への害を示した研究は、見つかりませんでした。
「中華料理店症候群」と加水分解物
グルタミン酸ナトリウムを食べたあとに頭痛やほてりが出るという訴え(中華料理店症候群)は、グルタミン酸ナトリウムの記事 で人の試験を紹介しています。酵母エキスについては、次のことが分かっています。
- FASEB(1995年)は、たんぱく質の加水分解物(微生物・植物・動物由来。酵母も含む)で、グルタミン酸による有害な反応を示した科学的な報告はないとしました。加水分解物を使う量は、ふつう食品の1%未満だとしています
- 一方で FDA は同じ官報に、MSG に反応すると訴える人たちが「加水分解たんぱくや自己消化酵母エキスでも同じ症状が出る」と報告していることも記録しています。これは体験の報告で、試験ではありません
- PubMed で「酵母エキス」と「中華料理店症候群・MSG 症状」を組み合わせて探しましたが、酵母エキスで症状が出るかを確かめた試験は見つかりませんでした(2026年10月3日検索)
- 米国の消費者団体 CSPI は、酵母エキスを「一部の人は避けたほうがよい」に分類しています。理由は、MSG に反応する人とカビのアレルギーの人です。ただし同じページで、グルタミン酸は MSG よりずっと少ないので反応は起きにくい、とも書いています
プリン体:違いが出るのは「核酸」
酵母エキスとうま味調味料のグルタミン酸は同じですが、体の中で違いが出るものがあります。一緒に入っている核酸です。
イノシン酸・グアニル酸などの核酸は、プリン体の一種です。体の中で分解されると、最後は尿酸になります。尿酸が多すぎる状態が続くと、痛風の原因になります。グルタミン酸ナトリウムには、この経路はありません。
| 食品 | 総プリン体(mg/100g) | 出典 |
|---|---|---|
| 乾燥ビール酵母(サプリ) | 2,995.7 | 金子ら 2014 |
| ビール酵母製品 | 1,206.2 | 同上 |
| 乾燥酵母 | 847.1 | 金子ら 2020 |
| 粉末うま味だし(イノシン酸入り) | 684.8 | 金子ら 2014 |
| 中華だし(乾燥) | 508.9 | 金子ら 2020 |
| 粉末スープ(コンソメ) | 179.8 | 金子ら 2014 |
| こいくちしょうゆ | 45.2 | 同上 |
- 酵母エキスそのもののプリン体を測った公的な表や論文は、見つかりませんでした。米国農務省と国立衛生研究所(NIH)のプリン体データベース(2025年3月版)にも、酵母エキスの行はありません
- 日本のガイドラインは、痛風・高尿酸血症の予防のために、食事からとるプリン体を1日400mg未満にすることを勧めています(金子ら 2014 の説明)
- 金子らは、プリン体の中でもヒポキサンチン(イノシン酸から来る形)の割合が高い食品に注意が要るとしています。粉末うま味だしは、プリン体の9割以上がヒポキサンチンでした
重さあたりで見ると、たしかに多く見えます。ただし、ウラヨミで1回に使う量に直すと、次のとおりです。
| 1回に使う量 | プリン体(計算) |
|---|---|
| 粉末うま味だし 1g(みそ汁1杯分) | 約6.8mg |
| 粉末スープのコンソメ 5.3g(固形1個の重さ) | 約9.5mg |
| こいくちしょうゆ 大さじ1(18g) | 約8.1mg |
| 赤みそ 12g(みそ汁1杯分) | 約7.6mg |
| 1日の目安 | 400mg 未満 |
「酵母エキスはプリン体が多い」は、重さあたりでは正しいのですが、調味料として使う量では1日の目安の2%前後です。金子らも、粉末うま味だしはプリン体が多いものの、調理に使う量はわずかだとしています。
気をつけたいのは、ビール酵母のサプリ(錠剤や粉末)です。乾燥ビール酵母は100gあたり約3,000mgで、たとえば1日に3gとれば約90mgになります。調味料としての酵母エキスとは、とる量の桁が違います。ビールそのもののプリン体は ビールと健康の記事 で紹介しています。
3-MCPD:EU の調査では定量できる量が出なかった
3-MCPD(クロロプロパノール類)は、植物のたんぱく質を塩酸で分解するときに、原料の脂質と塩素が反応してできる物質です。たん白加水分解物・アミノ酸液での話は うま味調味料の記事 にまとめています。
- EU の科学協力事業の報告(SCOOP 3.2.9、2004年6月)は、酵母エキスの試料からは、定量できる量の 3-MCPD も 2-MCPD も検出されなかったとしています。同じ報告で、塩酸で分解したたん白加水分解物の平均は 0.068mg/kg、酵素で分解したものは 0.005mg/kg でした
- 酵母エキスは自己消化や酵素で作るのがふつうで、塩酸を使う作り方とは違います。興人の総説も「塩酸加水分解工程がない」ので含まない、と書いています(メーカー自身の説明です)
- PubMed で「酵母エキス」と「3-MCPD・クロロプロパノール」を組み合わせて探すと、論文は0件でした。日本の農林水産省の実態調査は、しょうゆとアミノ酸液が中心で、酵母エキスを測ったかは確かめられませんでした
言えるのは、「EU の調査で定量下限より少なかった」「作り方が塩酸での分解と違う」までです。「酵母エキスには 3-MCPD がまったくない」とまでは言えません。EU の調査の酵母エキスの試料数も、本文からは確かめられませんでした。
酵母アレルギー
- フィンランドの症例報告(2006年)では、カビに反応するアレルギーのある人が、酵母エキス入りのパスタソースで、くり返しアナフィラキシー(全身の強いアレルギー反応)を起こしました。血液の検査で、パン酵母や食品用の酵母エキスへの抗体が陽性で、酵母とカビの交差反応(似た成分に反応すること)が確かめられています
- 英国でも、1989年に医学誌 BMJ に「マーマイトへのアレルギー?」という投書があります
- 米国の消費者団体 CSPI は、カビに反応する人の一部は酵母エキスでも反応する、と注意しています
どれもまれな症例です。日本で表示が義務・推奨されているアレルギーの28品目に、酵母は入っていません。なお、原材料名に「酵母エキス(小麦を含む)」とあるのは、酵母エキスに小麦由来の原料が使われていることを示す書き方です(消費者庁の Q&A の例)。
抗うつ薬(MAO 阻害薬)とマーマイト
MAO 阻害薬(モノアミン酸化酵素阻害薬)は、うつ病などの治療に使われる薬の一種です。この薬を飲んでいる人が、チラミン(熟成した食品に多い物質)を多く含む食品を食べると、血圧が急に上がることがあります。
- 1965年、医学誌ランセットに「MAO 阻害後の酵母エキスの作用」という題の報告が2本載りました(確かめられたのは題名と書誌までで、本文は確かめられませんでした)
- カナダ・トロント大学の研究者がチラミンを100品以上測った食事指導(1989年)では、絶対に避けるべきものとして、熟成チーズ・ザワークラウトなどと並んで「濃縮酵母エキス(例:マーマイト)」が挙げられています。1996年の指導でも、マーマイトは避ける食品に入っています
- 精神科医の解説によると、1970年代の測定ではマーマイトのチラミンは1kgあたり約300mgで、作り方が変わった今はもっと低い可能性があります
対象はMAO 阻害薬を飲んでいる人で、パンに塗って食べるスプレッドのような濃い酵母エキスの話です。だしの素やルウに少し入っている酵母エキスでどうかを測ったデータは、見つかりませんでした。薬を飲んでいる人は、主治医や薬剤師に確かめてください。
減塩の研究は味の評価まで
「酵母エキスを使えば減塩できる」という説明を、メーカーの資料でよく見かけます。人を対象にした研究を探すと、次のとおりでした。
| 研究 | 種類・人数・期間 | 分かったこと | 資金・利益相反 |
|---|---|---|---|
| Bolhuis ら 2011(オランダ) | 116人(平均21歳)、4週間、朝食ビュッフェの食パン | 食パンの塩を毎週減らすと、52%減までは食べる量が変わらず、67%減で減った。塩化カリウムと酵母エキスで味を補った群は、67%減でも食べる量が減らなかった | 大学と国の研究所。資金源は確かめられなかった |
| Santana ら 2026(ブラジル) | 官能試験(人数は抄録に書かれていない) | 牛肉パティで塩を50%減らし、酵母エキスを2%加えると、好まれ方が元の塩の量と同じくらいだった | 利益相反なしと申告 |
| Şen Yılmaz 2023(トルコ) | 官能試験(エビのマリネ) | 塩の半分を塩化カリウムに置き換え、苦みを酵母エキスで隠した | 利益相反なしと申告 |
- 血圧や尿のナトリウムを測った人の試験は、見つかりませんでした(PubMed、2026年10月3日検索)。確かめられているのは「味」と「食べる量」までです
- 酵母エキスの減塩の研究には、中国の酵母エキス大手(Angel Yeast)の社員が共著者に入っているものがあります(塩味を強めるペプチドを探した2022年の論文など)。2024年の論文(香りの成分の研究)は、共著者のうち3人が同社の所属なのに「利益相反なし」と申告していました
- 豪州の全国栄養調査(2011〜12年、12,153人)の分析では、ベジマイトのような酵母エキスのスプレッドはビタミンB群などの摂取に役立つ一方、ナトリウムの摂取も押し上げていました(Whatnall ら 2024)。酵母エキス自体にも食塩が含まれることがあります
グルタミン酸ナトリウムの記事 で紹介したうま味調味料の減塩研究と、同じ構図です。食塩のとりすぎについては 食塩摂取量の記事 にまとめています。塩そのものを減らしたい人は、はじめから塩を減らして作られた食品から選ぶ方法もあります。
各国の評価:食品なので ADI はない
| 機関・国 | 酵母エキス(うま味づけ用)の扱い |
|---|---|
| JECFA(FAO/WHO 合同食品添加物専門家会議) | うま味づけ用の酵母エキスの評価は見当たらない。評価したのはワイン用の「マンノプロテインを含む酵母エキス」だけで、2017年に「ワイン1Lあたり最大400mg の安定化の用途なら、健康上の懸念がある可能性は低い」とした。根拠に「酵母製品の長い食経験」を挙げている |
| EFSA(EU) | 酵母エキスは添加物ではなく原材料なので、評価の対象外。2017年のグルタミン酸塩類の再評価で、グルタミン酸の供給源として注記しただけ |
| FDA(米国) | パン酵母エキスを規則(21 CFR 184.1983)で GRAS と確認。ヒ素0.4ppm未満・鉛0.2ppm などの重金属の規格、微生物の規格があり、用途は香味料などとして食品中5%まで。自己消化酵母エキスは規則には載っておらず、1959〜1972年の FDA の意見書などで GRAS とされてきた |
| 日本 | 食品なので、食品安全委員会の個別の評価の対象ではない(評価書は見つからなかった) |
添加物は、1日の摂取許容量(ADI)を決めるために、動物の試験などのデータを出して評価を受けます。酵母エキスは食品なので、この手続きがありません。代わりに支えになっているのは、原料の酵母が昔から食べられてきたこと、米国では重金属・微生物の規格と使用の上限があること、です。
ここから言えるのは、「評価されていない=危険」でも、「食品だから安全と証明された」でもないということです。グルタミン酸については MSG と同じ物質なので、MSG の評価がそのまま参考になります。
ウラヨミの食品69品で数えてみた
実際の商品に、酵母エキスはどれくらい入っているのでしょうか。ウラヨミに載せている食品69品(日用品2品を除く)の原材料名を、2026年10月3日に数え直しました。
| 分類 | 品数 | 酵母エキス入り | うま味調味料入り | たん白加水分解物入り |
|---|---|---|---|---|
| カレー・シチューのルウ | 11 | 11 | 5 | 2 |
| スープの素 | 7 | 5 | 5 | 3 |
| だし | 6 | 3 | 3 | 1 |
| ソース | 6 | 2 | 1 | 1 |
| ドレッシング・マヨネーズ | 4 | 1 | 2 | 0 |
| そのほか(たれ・びん詰・香辛料・塩・酢・しょうゆ・みそ・麺など) | 35 | 1 | 5 | 2 |
| 合計 | 69 | 23(33%) | 21 | 9 |
※「酵母エキス」は、酵母エキス調味料・酵母エキス発酵調味料・酵母エキス加工品・酵母エキスパウダーを含む。「うま味調味料」は、調味料(アミノ酸等)・グルタミン酸ナトリウム・イノシン酸・グアニル酸。そのほかのうま味調味料5品のうち1品は、乳児用ミルクの栄養強化(5’-イノシン酸ナトリウムなど)。
- 3品に1品に、酵母エキスが入っていました。カレー・シチューのルウは11品すべて、スープの素は7品中5品です。ルウの原材料の読み方は カレールウの記事 にまとめています
- 組み合わせで見ると、酵母エキスとうま味調味料の両方が12品、酵母エキスだけが11品、うま味調味料だけが9品、どちらもなしが37品でした。酵母エキスは、うま味調味料の「代わり」としてだけでなく、一緒に使われることも多いことが分かります
- 原材料名は重さの多い順に書かれます。酵母エキスは23品中19品で、原材料名の後ろ半分に書かれていました。量としては少ないということです。ただし、酵母エキスだけを使う品の中には、前のほうに来るものもありました(ムソー「野菜のおかげ」10品中3番目、創健社のカレールウ11品中4番目、ユウキ食品のガラスープ9品中5番目)
「〇〇不使用」の表示と酵母エキス
メーカーが「〇〇不使用」「無添加」を表示している16品のうち、6品は酵母エキス入りでした。ただし、6品とも不使用の対象は、うま味とは関係のないものです。
| 品名 | 不使用・無添加の表示の対象 |
|---|---|
| コスモ直火焼 米粉のカレー・ルー 甘口 | 小麦粉 |
| コスモ直火焼 米粉のカレー・ルー 中辛 | 小麦粉 |
| 小林農園 元祖の本造りなめ茸 | 増粘剤、保存料 |
| MAYO×MAYO マヨ | 保存料、増粘剤、酸化防止剤 |
| ムソー 野菜のおかげ | 動物性エキス |
| 創健社 植物素材の本格カレールウ | 酸味料、乳化剤、動物性原料 |
一方、うま味・調味料・添加物全体の不使用をうたう7品(焼肉のたれ2品、やきそばソース、だしパック2品、ふりかけ、ナンプラー)は、どれも酵母エキスを使っていませんでした。うま味調味料の不使用をうたいながら酵母エキスで置き換えている品は、この69品にはありませんでした。
2022年のガイドラインのあと、「うま味調味料不使用」をうたう商品は、酵母エキスも使わない方向に見えます。ただし、ウラヨミが選んで載せた69品で、無作為の標本ではありません。市場全体の割合を表すものではないことに注意してください。
酵母エキス不使用と書いてある3品
さらに3品は、「酵母エキス」まで不使用の対象として明記していました。
| 品名 | 分類 | 表示の文言 |
|---|---|---|
| 光食品 有機やきそばソース | ソース(名称:ウスターソース) | 公式サイトの商品特徴に「保存料、調味料(アミノ酸等)、カラメル色素、酵母エキスは使用していません」 |
| 鰹節のカネイ 無添加かつおふりかけ | ふりかけ | パッケージ表面の「無添加」の表示(グルタミン酸ナトリウム・酵母エキス・着色料・保存料)。公式ショップでは「調味料(アミノ酸)、酵母エキス、着色料、保存料無添加」 |
| 風と光 有機トウバンジャン | 中華調味料 | 公式サイトのお知らせ(2024年8月)に「気になる防腐剤、着色料、酵母エキス、アルコールを一切使用していません」 |
3品とも、うま味はこんぶ・かつお節・しいたけ・しょうゆ・魚醤などの素材でつけています。「酵母エキス不使用」は、酵母エキスが体に悪いという意味ではなく、うま味を何でつけているかをはっきりさせる表示として読むのがよさそうです。
どれくらいの量で、うま味調味料と同じになる?
酵母エキスの「グルタミン酸の量」は、ほとんど公表されていません。ここでは、分かっている数字から計算してみます。
酵母エキスのグルタミン酸は、タイプで数%〜30%
| 区分 | 遊離グルタミン酸(乾燥重量あたり) | 出典 |
|---|---|---|
| 業界の説明 | 約5% | 米国の酵母エキス業者の連合(2018年) |
| 従来品の例 | 4〜7% | アサヒビールの特許(2010年公開)の比較例 |
| 市販品に多い | 10%前後 | 同じ特許の説明 |
| グルタミン酸を多くしたタイプ | 20〜30%(最高29.1%) | 同じ特許の発明品 |
| 参考:グルタミン酸ナトリウム | 約79%(グルタミン酸として) | 分子量から計算 |
どの数字も、作る側の資料です。公的機関が市販の酵母エキスを横断的に測った値は、見つかりませんでした。業界の団体は「5%くらい」と小さめに、高グルタミン酸タイプの特許は「20〜30%」と大きめに書いていて、立場によって数字が変わります。「酵母エキスのグルタミン酸は○%」と1つの数字で言い切ることはできません。
うま味調味料と同じにするには何g要る
グルタミン酸ナトリウムの記事 では、料理1人分に加えるうま味調味料を約0.2gとしました(日本うま味調味料協会の目安「炒め物・汁物4人分で0.8g」から)。「味の素®」0.2g(グルタミン酸ナトリウム97.5%)に含まれるグルタミン酸は、分子量から計算すると約153mgです。
同じ量のグルタミン酸を酵母エキスでとるには、
| 酵母エキスのグルタミン酸 | 必要な酵母エキス |
|---|---|
| 5% | 約3.1g |
| 10% | 約1.5g |
| 20% | 約0.77g |
| 30% | 約0.51g |
ふつうのタイプ(5〜10%)では、うま味調味料の約8〜15倍の重さが要る計算です。高グルタミン酸タイプなら、2.5〜4倍ほどで済みます。逆に言うと、10%のタイプの酵母エキス1gに含まれるグルタミン酸(100mg)は、昆布だし(真昆布3%の煮出し)100g分と同じくらいです(日本食品標準成分表のアミノ酸成分表で、昆布だしのグルタミン酸は100gあたり100mg)。
ただし、うま味の強さはグルタミン酸の量だけでは決まりません。核酸を多くしたタイプは、グルタミン酸が少なくても強いうま味を出します。次の節の「めんつゆ」の例がそれにあたります。
だしの素1回分は、公表値では「上限」しか出せない
では、市販のだしの素1回分に、酵母エキスから来るグルタミン酸はどれくらい入っているのでしょうか。答えは「公表されている数字だけでは決められない」です。
例として、ムソー「野菜のおかげ」(1袋5g、スープ1杯300ml分)で計算してみます。
- 原材料名は「食塩、でん粉分解物、酵母エキス、…」の順です。重さの多い順なので、酵母エキスは多くても5gの3分の1、約1.7g以下です
- 栄養成分表示のたんぱく質は1袋0.5gです。仮に、このたんぱく質がすべて酵母エキスから来ていて、酵母エキスの半分〜3分の2ほどがたんぱく質だとすると、酵母エキスは多くても約0.8〜1.0gです。ただし Tao ら 2023 がまとめた例では、酵母エキスのたんぱく質は製法によって14〜64%と幅があり、たんぱく質の少ない製品なら上限は手順1の約1.7gのままです。実際にはしょうゆや野菜の粉末にもたんぱく質があるので、酵母エキスはもっと少ないはずです
- ふつうのタイプ(4〜10%)なら、グルタミン酸は多くても約30〜100mg(上限1.7gで計算すると約70〜170mg)。300mlのスープにすると、100mlあたり約10〜33mg(同 約23〜57mg)で、昆布だし(100mlあたり約100mg)より少ない計算です
- ただし、高グルタミン酸タイプ(20〜30%)を使っていれば、最大で約300mg(上限1.7gなら約500mg)まで幅が広がります
メーカーが酵母エキスの配合量と、どのタイプを使ったかを出さない限り、「うま味調味料何 mg 分」とは決められません。ウラヨミでは、ここを推測で埋めずに、分からないまま示します。
作り手は何と説明してきたか
「酵母エキスで置き換えて『無添加』」は、批判する側だけの言い方ではありません。作る側の資料にも、同じことが書かれています。
業界自身の言葉(2001年の総説)
興人の社員が2001年に日本食品保蔵科学会誌に書いた総説(核酸を多く含む酵母エキスの開発で、学会の技術賞を受けたもの)には、次のようにあります。
- 酵母エキスは、グルタミン酸やイノシン酸などの食品添加物とは違い「天然系調味料」に分類されているので、オール天然で組み立てる加工食品では「『食品添加物としての表示義務が無い』というメリット」がある
- 製品の資料に「『アロマイルド』は、食品添加物無添加の開発に役立ちます」
- めんつゆ(3倍濃縮)の試作で、グルタミン酸ナトリウム15gを使った対照に対し、アロマイルド0.8gで完全に置き換えた「オール天然レシピ」を例示
総説は、ふつうの酵母は核酸が少なく、イノシン酸などを加えて補強すると「調味料(核酸)」などの表示が必要になる、とも書いています。核酸を多くした酵母エキスは、その表示をしなくて済むように作られた、という説明です。
なお、この総説は製造元の社員が書いたものです。「天然」「健康志向」などの評価の言葉は宣伝の性格があるので、この記事では製法と数字だけを使っています。
米国 FDA も同じことを書いていた
米国の節で紹介したとおり、FDA は1996年の官報で、原料メーカーが加水分解物などを「クリーンな原材料表示と No MSG 表示を可能にする MSG の代替品」として売り込んでいる、と書いています。日本の業界の総説と米国の公文書に、同じ構図が残っているわけです。
日本でも、2019年の消費者庁の検討会の資料(それまでの委員の主な意見のまとめ)に、「化学調味料無添加製品の多くは酵母エキスやたんぱく加水分解物等のうま味調味料とありますが」と、原材料での置き換えをどこで線引きするかを問う意見や、「20年前に代替物質、代替技術ができたように、また同じようなことも出てくるのではないか」という意見が載っています。
うま味調味料と酵母エキスを、同じ会社グループが作っている
「化学調味料 対 天然の酵母エキス」という対立の図式は、作り手の側では成り立っていません。
三菱商事ライフサイエンスは、2019年に、旧キリン協和フーズの流れをくむ MCフードスペシャリティーズと、トルラ酵母の酵母エキスを作る興人ライフサイエンスなどを統合してできた会社です。同社は、グルタミン酸ナトリウムを発酵で大量に作る方法を「世界で初めて確立した」と説明するうま味調味料のメーカー(旧協和発酵の食品事業の流れ)であり、同時に酵母エキスの大手でもあります。自社の酵母エキス「アジトップ」を「L-グルタミン酸ナトリウム高含有」と紹介しています。
うま味調味料を使うか、酵母エキスを使うかは、同じ会社の製品の中での選び分けでもあるということです。
裏面の読み方と選び方
酵母エキスを避ける必要があるかどうかは、その人の考え方と体の状態しだいです。ここでは、事実にもとづいて選べるように、読み方と選び方をまとめます。
裏面チェックのポイント
- 「/」の前の「酵母エキス」を見る:酵母エキスは食品なので、「/」より前に書かれます。うま味調味料(「/」の後の「調味料(アミノ酸等)」)を使っていなくても、酵母エキスでうま味をつけていることがあります
- 酵母エキスの位置を見る:原材料名は重さの多い順です。後ろのほうなら少量、前のほうなら多めです(ただし量そのものは分かりません)
- 「〇〇不使用」は、何が不使用なのかを読む:ウラヨミの69品では、不使用の表示があっても対象が保存料や小麦粉で、酵母エキスが入っている品がありました
- 「酵母エキス不使用」まで書いてあれば、表示で確かめられる:酵母エキス不使用と書いてある3品 のように明記した品もあります
- 「酵母エキス(小麦を含む)」はアレルギーの表示:小麦のアレルギーがある人は確かめます
酵母エキスを使っていないものを選びたいとき
いちばん確実なのは、原材料が素材だけでできているものを選ぶことです。だしなら、魚の節や煮干し、昆布、しいたけだけを詰めた「だしパック」があります。顆粒のだしの素のようにそのまま溶かすものではなく、煮出して使うタイプです。
ウラヨミに載せているだしパックのうち、次の2品は、原材料が魚介・昆布・しいたけだけで、酵母エキスもうま味調味料も食塩も使っていません。
自分でだしをとるなら
かつお節と昆布で自分でだしをとれば、何が入っているかは全部分かります。昆布だしのグルタミン酸は100mlあたり約100mg(真昆布3%の煮出し、日本食品標準成分表)で、うま味の量も分かっています。かつお節を買うなら、メーカーの公式の通販があります。
気をつけたい人
| こんな人 | 気をつけること |
|---|---|
| MAO 阻害薬を飲んでいる人 | マーマイトのような濃い酵母エキスのスプレッドは、食事指導で避ける食品に入っている。主治医・薬剤師に確かめる |
| 痛風・高尿酸血症の人 | 調味料として使う量のプリン体は数 mg。気をつけたいのはビール酵母のサプリ(1日に何g もとる) |
| カビのアレルギーがある人 | まれに酵母エキスで反応した症例がある。心配なら医師に相談する |
| うま味調味料を避けたい人 | 酵母エキスのグルタミン酸は、体の中では同じもの。「うま味調味料不使用」の品でも、酵母エキスやたん白加水分解物でうま味をつけていないか、原材料名で確かめる |
この記事で紹介したもの(まとめ)
記事の中で紹介したものを、もう一度まとめました。理由や原材料は、それぞれの節に書いています。
| 紹介したもの | 購入先 |
|---|---|
| 無塩ドットコム(減塩・無塩食品の専門通販) | 他では買えない減塩食品がたくさん!減塩専門店「無塩ドットコム」 |
| かね七 料亭仕込み 天然だしの素パック 30袋入(8g×30袋) | 楽天市場で見る(くすりのiQ) PR Amazonで見る PR Yahoo!ショッピングで見る PR |
| マエカワテイスト だしパック 十二単(10g×20袋) | 楽天市場で見る(にっぽん津々浦々) PR Amazonで見る PR Yahoo!ショッピングで見る PR |
| マルトモ公式直販(かつお節・だし) | かつお節・だしを楽しむ通販サイト【マルトモ公式直販】 |
まとめ
| 気になること | 分かったこと |
|---|---|
| 酵母エキスはどこから来た? | 19世紀の肉エキスの代わりとして欧州で広まった。英国のマーマイトは1902年に会社ができた。日本では昭和初期に輸入、アサヒは1966年の「ミースト」を国内初と説明 |
| どうやって作る? | 酵母を自己消化や酵素で分解し、溶け出した中身を濃縮する。塩酸で分解する工程は代表的な作り方にない。グルタミン酸型と核酸型がある |
| 添加物ではないの? | 表示上は食品。成分を1つずつ取り出すと添加物、まとめて取り出すと食品。ただし「添加物の目的で使えば添加物表示」という Q&A があり、判断は事業者 |
| 日本と海外で違う? | 酵母エキスで置き換えた「不使用」表示を、米国は不可、日本はガイドラインで「表示禁止事項に該当するおそれが高い」例、ドイツの高裁は「誤認ではない」と判断 |
| 「隠れ MSG」は本当? | 酵母エキスは MSG そのものではないが、遊離グルタミン酸を含む。出発点は表示の要求。作る側も「表示義務がない」ことを利点に挙げていた |
| 体に悪い? | グルタミン酸は由来によらず同じで、酵母エキスに特有の害を示した研究は見つからなかった。違いは核酸(プリン体)だが、1回分は数 mg |
| 気をつけたい人は? | MAO 阻害薬を飲んでいる人(濃い酵母エキスのスプレッド)、まれな酵母アレルギー。3-MCPD は EU の調査で定量下限未満 |
| どれくらい入っている? | ウラヨミの食品69品の33%、カレールウは11品すべて。うま味の不使用をうたう7品は0品。うま味調味料0.2g分のグルタミン酸は、ふつうのタイプで約1.5〜3.1g |
参考にした資料
歴史
- Science History Institute「Where’s the Beef?」Distillations(2013年12月14日)https://www.sciencehistory.org/stories/magazine/wheres-the-beef/
- UNESCO World Heritage「Fray Bentos Industrial Landscape」https://whc.unesco.org/en/list/1464/
- The Nobel Prize in Chemistry 1907, Eduard Buchner https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/1907/summary/
- Grace’s Guide「Marmite Food Extract Co」、Australian Dictionary of Biography「Callister, Cyril Percy」(1979年)、Monash Lens(2023年7月14日)
- 青柳吉紀ほか「高機能酵母エキスの開発と食品への利用」日本食品保蔵科学会誌 2001;27(2):99-106(著者は製造元の社員)
- 井村勉「酵母エキス」生物工学会誌 2014;92(2):81(著者は製造元の社員)
- アサヒグループ食品「沿革」、興人ライフサイエンス「会社概要」「拠点紹介」「酵母エキスとは」、三菱商事ライフサイエンス「沿革」「酵母エキス」
- グルメWatch(2024年1月25日・2026年3月2日)
作り方・成分
- Tao Z, et al. Yeast Extract: Characteristics, Production, Applications and Future Perspectives. J Microbiol Biotechnol 2023;33:151(PMID 36474327)
- 日本エキス調味料協会「エキスの表示に関するガイドライン」(2023年7月20日)
- 特許 JP4503700B1(アサヒビール、2010年公開)、US11896042B2(Lesaffre、優先日2017年12月13日)
- FoodNavigator「Savory Taste Alliance」(2018年9月5日)
- 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)アミノ酸成分表編」
表示のルール
- 消費者庁「食品表示基準 別添 添加物関係」(2026年4月1日)、「食品表示基準Q&A」第2章(2026年10月1日版)加工-75-1・加工-76
- 消費者庁「第5回 食品添加物表示制度に関する検討会」議事録・資料3(2019年9月20日)
- 消費者庁「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」(2022年3月30日)
- 米国 FDA「Questions and Answers on Monosodium glutamate (MSG)」(2012年公開、2026年7月17日更新)
- 米国 FDA, Federal Register 61 FR 48102(1996年9月12日)https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-1996-09-12/html/96-23159.htm
- 21 CFR 102.22、21 CFR 101.22、21 CFR 184.1983(eCFR)
- Regulation (EC) No 1333/2008 第3条、Regulation (EU) No 1169/2011 第7条
- ドイツ消費者団体連盟 Lebensmittelklarheit 集計(2011年10月)、FoodNavigator(2011年12月7日)、Leipziger Internet Zeitung(2016年9月、ハンブルク上級地方裁判所 5 U 265/11 の報道)、オーストリア労働者会議所「Geschmacksverstärker」
安全性・人体への影響
- EFSA ANS Panel. Re-evaluation of glutamic acid (E 620), sodium glutamate (E 621) …. EFSA J 2017;15(7):4910
- JECFA 第84回会合(2017年)マンノプロテインを含む酵母エキスの評価(OIV の CCFA50 報告資料)
- Kaneko K, et al. Total purine and purine base content of common foodstuffs for facilitating nutritional therapy for gout and hyperuricemia. Biol Pharm Bull 2014;37:709-721
- 米国農務省・NIH「Purine Content of Foods」Release 2.0(2025年3月)
- European Commission. SCOOP Task 3.2.9 Collection and collation of data on levels of 3-monochloropropanediol (3-MCPD) and related substances in foodstuffs(2004年6月)
- Airola K, et al. Ann Allergy Asthma Immunol 2006;97:294(PMID 17042133)/Higson N. BMJ 1989;298:190(PMID 2493858)
- Blackwell B, et al. Lancet 1965(PMID 14275831・14287333)/Shulman KI, et al. J Clin Psychopharmacol 1989;9:397(PMID 2592589)/Gardner DM, et al. J Clin Psychiatry 1996;57:99(PMID 8617704)
- Bolhuis DP, et al. J Nutr 2011;141:2249(PMID 22049293)/Santana LP, et al. Meat Sci 2026(PMID 41671679)/Şen Yılmaz EB. Molecules 2023(PMID 38202767)/Whatnall M, et al. J Hum Nutr Diet 2024(PMID 37853549)/Shen DY, et al. Food Chem 2022(PMID 35447578)/Shan Y, et al. Food Chem X 2024(PMID 38721385)
- CSPI「Chemical Cuisine: Autolyzed yeast extract」、Stiftung Warentest(2008年3月27日)
ウラヨミの集計
- ウラヨミの商品データ(食品69品の原材料名・不使用の表示)、2026年10月3日集計