膵臓がんになりやすい食べ物は? 甘いもの・コーヒー・加工肉・植物油を国の評価と論文で確かめる

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日本では2024年に41,235人が膵臓がんで亡くなり、がんの部位別死亡数で肺がん・大腸がんに次ぐ3番目となっています(国立がん研究センター がん統計)。しかも、お酒と膵臓がんの記事で確認したとおり、1990年代から日本人の飲酒量や喫煙率は下がっているにもかかわらず、年齢調整死亡率は男性で12%、女性で35%上昇しています。
そのためインターネットや書籍では、膵臓がんと食事についてさまざまな説が語られています。
- 「甘いもの(砂糖・お菓子・ジュース)をたくさん食べると膵臓がんになる」
- 「戦後に増えた小麦・植物油・乳製品・甘いもの(いわゆる『四毒』)が膵臓がんを増やした」
- 「コーヒーを飲むと膵臓がんになるという論文があった」
- 「ベーコンやソーセージなどの加工肉や、肉の焦げが膵臓に悪い」
- 「魚や野菜、葉酸・ビタミンDをとると予防できる」
この記事では、
- 国立がん研究センターと世界がん研究基金(WCRF/AICR)で、食べ物・栄養素と膵臓がんはどう判定されているか
- 日本人の60年間の食事の変化(農林水産省『食料需給表』)と膵臓がんの増え方は一致しているか
- 甘いもの(果糖・ショ糖・加糖飲料・人工甘味料・GI値)の追跡研究
- 1981年に世界を騒がせた「コーヒーで膵臓がん2〜3倍」論文が、なぜ現在「関連なし」に変わったのか
- 加工肉(亜硝酸塩)・赤肉・高温調理の焦げ(ヘテロサイクリックアミン)と飽和脂肪酸・植物油
- リスクを下げる方向で研究されている魚(DHA・EPA)・葉酸・マグネシウム・全粒穀物
を、国内外の公的統計とコホート研究・メタ解析の論文で確かめます。なお、この記事は病気の診断や治療の代わりにはなりません。気になる症状がある場合は消化器内科を受診してください。
結論:単独で「確実」な食品はなく、果糖・加工肉・飽和脂肪酸の摂りすぎと肥満・高血糖が重なることが要点です
- 国立がん研究センターの評価(2026年5月版)では、特定の食品・栄養素で膵臓がんリスクが「確実」「ほぼ確実」と判定されたものはまだありません。 日本人で「確実」なのは喫煙、「ほぼ確実」なのは糖尿病、肥満は男性で「可能性あり」であり、食事は「カロリー過多による肥満や2型糖尿病を通じて間接的に関わる部分」が大きいと考えられます
- 世界がん研究基金(WCRF/AICR 2018年改訂)の評価では、「確実」は体脂肪の過多(肥満)、「ほぼ確実」は成人期の身長の高さで、食品・飲料単独では「限定的・示唆的(Limited-suggestive)」が最高段階です。 リスクを上げる側で「限定的・示唆的」とされているのは果糖(フルクトース)を含む食品・飲料、飽和脂肪酸を含む食品、赤肉、加工肉、多量の飲酒(1日約3杯=純アルコール約30〜45gを超える量)です
- 「砂糖や植物油が増えたから近年の膵臓がんが増えた」という単純な図式は、国の統計と時期が合いません。 農林水産省『食料需給表』を見ると、日本人の1人あたり砂糖類の供給量は1973年度の年28.1kgをピークに2023年度は16.7kgへと約4割減っています。 植物油脂や乳製品も1990年代以降はほぼ横ばいです。近年の高齢女性での増加には、平均寿命の延伸(80歳以上の人口増)やCT・MRI検査の普及による診断の増加など、複数の要因が重なっていると考えられます
- 「コーヒーで膵臓がんが増える」という説は、その後の研究で支持されていません。 1981年の論文は喫煙を統計的に調整していましたが、比較対照に選んだ入院患者に胃腸の病気でコーヒーを控えていた人が多かったこと(対照群の選び方の偏り)などが指摘され、その後の追跡研究でも再現されませんでした。WCRFの解析(13研究)・14コホートの統合解析・日本の約10万人追跡(JPHC研究)ともコーヒーと膵臓がんリスクに関連はみられず、WCRFは「限定的・結論なし」としています
- リスクを下げる方向では、日本のJPHC研究で魚由来のn-3系脂肪酸(DHA・EPAなど)を最も多くとる群のリスクが約3割低く、米国の研究でマグネシウムが少ない人ほどリスクが高い、全粒穀物が多い人でリスクが低い(症例対照研究が中心)といった報告があります。ただし、食事由来の葉酸は14コホートの統合解析で関連がなく、WCRFも魚・葉酸などを「限定的・結論なし」としているため、特定の食品で予防できるとはいえません

国立がん研究センターと世界がん研究基金(WCRF)の判定一覧
まず、日本人の疫学研究をまとめている国立がん研究センターと、世界中のコホート研究を統合している世界がん研究基金・米国がん研究協会(WCRF/AICR)の判定を比較します。

| 食品・栄養素・体格 | 国立がん研究センター(日本人) | WCRF/AICR(世界・2018年) | 主なメタ解析・コホート研究の数値 |
|---|---|---|---|
| 体脂肪の過多(肥満) | 男性で可能性あり(BMI 30以上の男性で1.71倍、Koyanagi 2018) | 確実(Convincing)に上げる | BMI 5増加ごとに1.10倍(WCRF、23研究) |
| 果糖(フルクトース) | データ不十分 | 限定的・示唆的(上げる) | 果糖1日25g増加ごとに1.22倍(Aune 2012、10コホートのメタ解析) |
| 砂糖(ショ糖)・GI値・GL値 | データ不十分 | 限定的・結論なし | ショ糖25gあたり1.05倍など、ショ糖・GI値・GL値とも有意な上昇なし(Aune 2012・Turati 2019) |
| 赤肉(牛・豚など) | データ不十分 | 限定的・示唆的(上げる) | 1日120g増加ごとに全体で1.13倍(有意差なし)、男性で1.29倍・女性は関連なし(Larsson 2012) |
| 加工肉(ベーコン・ハム・ソーセージ) | データ不十分 | 限定的・示唆的(上げる) | 1日50g増加ごとに1.17〜1.19倍(WCRF・Larsson 2012) |
| 飽和脂肪酸(肉の脂・バター等) | データ不十分 | 限定的・示唆的(上げる) | 1日10g増加ごとに1.11倍(WCRF CUP解析、5研究) |
| コーヒー | データ不十分(JPHC研究では関連なし) | 限定的・結論なし(2012年の「実質的な影響は考えにくい」から2018年に変更) | 1日1杯(240mL)あたり1.02倍(有意差なし)(WCRF、13研究)。14コホート統合でも関連なし |
| 牛乳・乳製品 | データ不十分 | 判定の対象外 | 14コホート約86万人統合(Genkinger 2014)で関連なし |
| 小麦・グルテン・全粒穀物 | データ不十分 | 判定の対象外 | グルテン摂取量は関連なし(Wang 2022、米国3コホート)。全粒穀物は0.76倍と低い傾向(症例対照研究が中心) |
| 魚(n-3系脂肪酸:DHA・EPA) | データ不十分(JPHC研究では低下) | 限定的・結論なし | 日本のJPHC研究(約8.2万人)で魚由来のn-3系脂肪酸最多群が0.70倍(魚の総量では有意差なし) |
| 葉酸・マグネシウム(食事由来) | データ不十分 | 葉酸は限定的・結論なし | 葉酸:メタ解析で0.66倍(症例対照研究を含む)だが、14コホート統合では関連なし(1.06倍)。マグネシウム:1日100mg少ないごとに1.24倍(米国VITAL研究) |
出典:国立がん研究センター「がんのリスク・予防要因 評価一覧」(2026年5月版)、WCRF/AICR Continuous Update Project『Pancreatic cancer report』(2012年、2018年改訂)。WCRF の「判定の対象外」は、膵臓がんの評価表に項目がないものです。
胃がんと食べ物の記事では「食塩・塩蔵食品=ほぼ確実」、小麦と大腸がんの記事では「加工肉・赤肉=確実/ほぼ確実」という強い判定がありましたが、膵臓がんでは「体脂肪の過多(肥満)」だけが世界の評価で「確実」であり、個別の食品はすべて「限定的・示唆的」以下にとどまっています。
「甘いもの・植物油・乳製品・小麦(四毒)で膵臓がんが増えた」説を60年統計で確かめる
SNSや動画では、「日本人の膵臓がんが増え続けているのは、戦後に増えた小麦・植物油・乳製品・甘いもの(いわゆる四毒)のせいだ」という主張をよく見かけます。実際の国の統計(農林水産省『食料需給表』の1人1年あたり供給純食料)と、膵臓がんの年齢調整死亡率を年代ごとに並べてみます。
| 年度 | 砂糖類(kg/年) | 油脂類(kg/年) | 牛乳・乳製品(kg/年) | 小麦(kg/年) | 肉類(kg/年) | 膵臓がん年齢調整死亡率(男 / 女) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1960年度 | 15.1 | 4.3 | 22.2 | 25.8 | 5.2 | 4.1 / 2.5 |
| 1973年度(砂糖ピーク) | 28.1 | 11.1 | 52.9 | 30.9 | 17.1 | 8.0 / 4.7 |
| 1985年度 | 22.0 | 14.0 | 70.6 | 31.7 | 25.2 | 11.6 / 6.5 |
| 1996年度 | 21.2 | 14.9 | 93.3 | 33.0 | 30.9 | 12.4 / 7.2 |
| 2010年度 | 18.9 | 13.7 | 86.2 | 32.7 | 29.1 | 13.0 / 8.2 |
| 2023年度 | 16.7 | 14.1 | 92.5 | 30.6 | 33.9 | 13.9 / 9.7(2024年) |
出典:農林水産省『食料需給表』(1人1年あたり供給純食料)、国立がん研究センター がん統計(昭和60年モデル人口による年齢調整死亡率、人口10万対)。
この60年間の数字を見ると、見落とされがちな事実が3つ浮かび上がります。
- 日本人の砂糖消費量は50年前のピークから約4割減っている: 日本人が最も砂糖をとっていたのは1973年度の年28.1kg(1日約77g)で、その後は減少が続き、2023年度には年16.7kg(1日約46g)と約41%減っています。1996年度から2023年度にかけても砂糖類は約2割(21.2kg→16.7kg)減っていますが、この間に女性の膵臓がん年齢調整死亡率は35%上がっています(なお、食料需給表の「砂糖類」には清涼飲料などに使われる異性化糖は含まれません)
- 小麦・植物油・乳製品は1990年代から30年間ほぼ横ばい: 高度経済成長期(1960〜1980年代)には油脂類・乳製品・肉類が大きく増え、この時期の膵臓がん死亡率の上昇(生活習慣の欧米化+当時の男性の高喫煙率+超音波・CT検査の普及)とは時期が重なります。しかし1996年以降の30年間は、小麦(30〜33kg)・油脂類(14kg前後)・乳製品(90kg前後)とも増えていません
- なぜ1990年代以降も高齢女性の膵臓がんが増えているのか: 考えられている要因は、①女性の長寿化と超高齢層の増加(膵臓がん死亡の66%は75歳以上であり、80代・90代まで生きる女性が増えたこと)、②1950〜70年代生まれ以降の世代における女性の喫煙経験率のコホート効果、③男性における肥満・2型糖尿病の増加、④高齢者に腹部CT・MRI検査が広く行われるようになり、かつては「老衰」や「原因不明の黄疸・腹水」とされていた高齢者の膵臓がんが正確に診断されるようになったこと(診断精度の向上)の4つの重なりです(それぞれがどの程度効いているかは、まだ分かっていません)
なお、「四毒」説全体の科学的な検証は「四毒(小麦・植物油・乳製品・甘いもの)を抜けば病気が治る」は本当かで詳しく整理しています。
1. 甘いもの(砂糖・果糖・清涼飲料水・人工甘味料)と膵臓がん
「甘いものを食べると膵臓が疲れてがんになる」という話はよく聞かれます。研究データを「果糖」「砂糖(ショ糖)」「加糖飲料」「人工甘味料」に分けて見てみましょう。
果糖(フルクトース)はWCRFで唯一「限定的・示唆的」
世界がん研究基金(WCRF/AICR)の評価と、その根拠になったAuneらのメタ解析(Annals of Oncology 2012、前向きコホート研究10件、PMID: 22539563)では、糖類の中で果糖(フルクトース)だけが、1日25gあたり1.22倍(95%信頼区間 1.08–1.37)と膵臓がんリスクが高い傾向を示しました。ただし著者らは、交絡の調整がより十分な研究や、米国以外の集団での確認が必要だとしています。
- なぜブドウ糖より果糖が注目されたのか: 培養細胞の実験研究(Liuら, Cancer Research 2010, PMID: 20647326)では、膵臓がん細胞が果糖を「トランスケトラーゼ」という酵素によるペントースリン酸経路(PPP)に取り込み、核酸(DNA・RNA)の合成材料にして増殖に使う仕組みが報告されました
- ただし「果物」で膵臓がんが増えるという結果は出ていない: 北米・欧州・オーストラリアの14コホート約86万人を統合した解析(Koushikら, 2012年, PMID: 22875754)では、果物・野菜を食べる量と膵臓がんリスクの間に関連はみられませんでした。懸念されているのは、コーラやサイダー、スポーツドリンク、加糖コーヒーなどに使われる「果糖ぶどう糖液糖(異性化糖)」などを飲み物で大量にとり、内臓脂肪の蓄積やインスリン抵抗性につながるケースです(果物の果糖と果糖ぶどう糖液糖の違いも参照)
砂糖(ショ糖)・GI値・人工甘味料はどうだったか
- 砂糖(ショ糖)の総量・GI値・GL値: Auneらのメタ解析(2012年)およびTuratiらのメタ解析(2019年)では、食事全体のショ糖(砂糖)摂取量、グリセミック・インデックス(GI値)、グリセミック・ロード(GL値)と膵臓がんリスクの間には有意な関連は見られませんでした(Aune 2012:ショ糖25gあたり1.05、GI値10あたり1.02、GL値50あたり1.03)
- 清涼飲料水(加糖飲料): シンガポール華人健康研究(Muellerら, 2010年)では加糖炭酸飲料を週2本以上、スウェーデンの研究(Larssonら, 2006年)では1日2杯以上飲む人で1.87〜1.93倍と報告されました。一方、14コホート約85万人を統合したプール解析(Genkingerら, 2012年, PMID: 22194529)では、1日250g以上で1.19倍(有意差なし)、飲む量を連続的に見ると1.06倍と、小さな上昇にとどまりました。加糖飲料は肥満や2型糖尿病を通じてリスクに関わる可能性があります
- 人工甘味料(アスパルテーム・スクラロース・アセスルファムK等): イタリアの症例対照研究(Bosettiら, 2009年)などでは、人工甘味料と膵臓がんリスクの間に有意な関連は認められていません。2023年にIARC(国際がん研究機関)はアスパルテームを「発がん性があるかもしれない(グループ2B)」に分類しましたが、主に肝臓がんのデータに基づく判断です(詳しくは人工甘味料の安全性と発がん性評価・人工甘味料と腸内細菌へ)
2. コーヒーで膵臓がんになる? 1981年の騒動と現在の決着
「コーヒーは膵臓がんのもと」という話を聞いたことがある人は、1981年に医学誌の最高峰 New England Journal of Medicine(NEJM) に掲載されたハーバード大学MacMahonらの論文(PMID: 7453739)が発端です。
- 1981年の論文で何が起きたか: ボストンの病院に入院した膵臓がん患者369人と、別の病気の入院患者644人を比べたところ、喫煙を調整したあとでも「コーヒーを1日2杯まで飲む人で1.8倍、3杯以上で2.7倍」という数字が出たため、世界中のニュースで大きく報じられました
- なぜ結果が疑われたのか: この論文は喫煙の影響を統計的に調整しており、著者ら自身も「ほかのデータで確かめるべき」と書いていました。その後に指摘された大きな弱点は、比較相手の入院患者に「胃腸の病気で医師からコーヒーを止められていた人」が多く含まれていたため、見かけ上、膵臓がん患者のほうがコーヒーを多く飲んでいるように見えた可能性(対照群の選び方の偏り)です。同じ研究グループが1986年に行った追加調査(Hsiehら, NEJM 1986, PMID: 3736647)でも、最初の論文ほどはっきりした関連は再現されませんでした
- 現在の結論(関連はみられない): その後、健康な人を長年追跡する前向きコホート研究が世界中で行われました。WCRFのメタ解析(13研究)では1日1杯(240mL)あたり1.02倍(有意差なし)、喫煙・飲酒・糖尿病・BMIを調整した14コホートの統合解析(Genkingerら 2012年)でも関連はなく、日本のJPHC研究(約10万人を平均11年追跡、Luoら 2007年)でも全体として関連はみられませんでした。WCRFは2012年にコーヒーを「実質的な影響は考えにくい」と判定しましたが、2018年の改訂で「限定的・結論なし(Limited – no conclusion)」に整理し直しています。少なくとも「コーヒーが膵臓がんを増やす」という根拠はありません
3. 赤肉・加工肉・高温調理の焦げ・植物油・乳製品
加工肉(ベーコン・ハム・ソーセージ)と赤肉
11の前向きコホート研究(膵臓がん6,643例)をまとめたLarssonらのメタ解析(British Journal of Cancer 2012, PMID: 22240790)では、次のように報告されています。
- 加工肉(ベーコン・ハム・ソーセージなど): 1日50g(ウインナー約2本半)増えるごとにリスクが1.19倍(95%信頼区間 1.04–1.36)
- 赤肉(牛・豚・羊など): 全体では1日120g増えるごとに1.13倍で有意差はありませんでしたが、男性に限ると1.29倍と有意に高く、女性では関連が見られませんでした(米国の多民族コホート Nöthlingsら 2005年でも、赤肉・加工肉を多く食べる群で高い傾向)
加工肉がリスクに関わる仕組みの候補として考えられているのは、発色剤(亜硝酸Na)の記事でも解説しているとおり、保存や発色に使われる亜硝酸塩が肉のアミン類と反応してできるN-ニトロソ化合物(ニトロソアミン)です。N-ニトロソ化合物の一部は、動物実験で膵管のがんを起こすことが知られています。
高温で焼いた肉の「焦げ」と飽和脂肪酸・植物油
- 高温調理(直火焼き・バーベキュー・揚げ焼き)の焦げ: 米国のNIH-AARP食事と健康研究(約50万人、Stolzenberg-Solomonら, Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2007, PMID: 18086772)では、男性で、肉の総量・赤肉・高温で調理した肉を最も多く食べる群の膵臓がんリスクが、最も少ない群の1.41〜1.52倍、直火焼き・バーベキューの肉が多い群で約1.5倍、調理で生じる変異原物質(ヘテロサイクリックアミンなど)の総量が最も多い群で約2倍でした。女性では関連はみられませんでした
- 飽和脂肪酸と植物油(リノール酸・オメガ3): WCRFの評価で「限定的・示唆的(上げる)」に入っているのは、肉の脂身やバター、ラードなどに多い飽和脂肪酸(1日10gあたり1.11倍)です。一方、植物油(大豆油・菜種油・オリーブオイルなど)そのものが膵臓がんを増やすという国際評価はありません(WCRFは一価・多価不飽和脂肪酸を「限定的・結論なし」としています)。 日本のJPHC研究(Hidakaら, American Journal of Clinical Nutrition 2015, PMID: 26537936、約8.2万人を追跡)では、青魚などに含まれる魚由来のn-3系多価不飽和脂肪酸(EPA・DPA・DHA)を最も多くとるグループは、最も少ないグループに比べて膵臓がんリスクが0.70倍(30%減)でした。ただし、最初の3年の発症を除いた解析で、魚の総量では有意な差はありませんでした(油の種類ごとの違いは食用油の比較記事へ)
- 牛乳・乳製品: 世界14コホート・約86万人を統合したプール解析(Genkingerら, Annals of Oncology 2014, PMID: 24631943)では、牛乳、チーズ、ヨーグルト、カルシウム、ビタミンDのどれをとっても膵臓がんリスクとの関連は見られませんでした(牛乳と乳製品の記事も参照)
4. リスクを下げる方向で研究されている栄養素(葉酸・マグネシウム・全粒穀物)
「これを食べれば膵臓がんを防げる」という食品はありません。リスクが低い傾向が報告されている栄養素はありますが、研究によって結果が一致しておらず、WCRFもこれらを「限定的・結論なし」以下としています。
- 食事由来の葉酸(ほうれん草・ブロッコリー・枝豆・納豆・海苔など): 葉酸はDNAの合成と修復、メチル化に欠かせないビタミンB群です。症例対照研究4件・コホート研究6件のメタ解析(Linら 2013年)では、食事からとる葉酸が多い人で0.66倍でしたが、北米・欧州・オーストラリアの14コホート約86万人を統合した解析(Baoら, JNCI 2011, PMID: 22034634)では関連はみられませんでした(1.06倍)。また、葉酸サプリメント(合成葉酸)では膵臓がんリスクの低下は見られていません(葉酸のサプリ成分DBも参照)
- マグネシウム(玄米・雑穀・海藻・豆腐・ナッツ類): マグネシウムはインスリンの働きを助け、血糖値を安定させるミネラルです。米国のVITAL研究(約6.7万人を平均6.8年追跡、Dibabaら, British Journal of Cancer 2015)では、マグネシウム摂取量が1日100mg少ないごとに膵臓がんリスクが24%高く、推奨量の75%未満の人で1.76倍でした。ただし発症は151人と少なく、この関連はマグネシウムをサプリメント(マルチビタミンなど)でもとっている人に限られていました(マグネシウムのサプリ成分DBも参照)
- 全粒穀物(玄米・オートミール・全粒粉パン・もち麦): 8つの観察研究を統合したメタ解析(Leiら, Medicine 2016, PMID: 26945361)では、精白されていない全粒穀物を多く食べる人で膵臓がんリスクが0.76倍(約24%減)でした。ただし症例対照研究が中心で、著者ら自身が前向きコホート研究での確認が必要だとしています。食後の急激な血糖上昇と高インスリン血症を抑える働きが関わっている可能性が考えられています
毎日の献立を整える手段の1つとして、管理栄養士が献立を組んだ冷凍おかずの宅配もあります。持病がある人は、主治医・管理栄養士に相談してから使ってください。
5. 膵臓がんシリーズ:食事以外の原因・初期サイン・検査を詳しく知る
膵臓がんは食事だけで決まる病気ではなく、喫煙、糖尿病、膵のう胞(IPMN)、遺伝・血液型・歯周病、慢性膵炎などが深く関わっています。テーマ別に以下の記事で詳しく検証しています。
- お酒と膵臓がん:飲む量との関係、66年間の死亡数推移と最新治療
- 糖尿病と膵臓がん:「急な血糖値の悪化」が初期サインになる理由とGLP-1薬・インスリン
- 膵臓がんはなぜ見つかりにくい? 初期症状・「膵のう胞(IPMN)」の基準・エコーの限界と新血液検査(APOA2-i)
- 歯周病・血液型・遺伝と膵臓がん:「O型はなりにくい」は本当? ジンジバリス菌とBRCA遺伝子
- 膵臓がんの種類と生存率:9割を占める「膵管がん」とスティーブ・ジョブズ氏の「PNET」の違い
- 急性膵炎・慢性膵炎と膵臓がん:お酒・胆石・中性脂肪のしくみと手術後の食事・MCTオイル
- 膵臓がんの最新治療と臨床試験:手術前後の抗がん剤・コンバージョン手術・KRAS阻害薬・重粒子線・mRNAワクチン
参考にした資料
- 国立がん研究センター がん対策研究所「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」評価一覧(2026年5月26日版)https://epi.ncc.go.jp/can_prev/outcome/index.html
- World Cancer Research Fund / American Institute for Cancer Research (WCRF/AICR). Continuous Update Project. Diet, nutrition, physical activity and pancreatic cancer (2012, revised 2018). https://www.wcrf.org/resources/pancreatic-cancer-report
- 農林水産省『食料需給表』品目別累年表(1人1年あたり供給純食料)https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/
- Aune D, et al. Dietary fructose, carbohydrates, glycemic indices and pancreatic cancer risk: a systematic review and meta-analysis of cohort studies. Ann Oncol. 2012;23(10):2536-2546. (PMID: 22539563)
- Liu H, et al. Fructose induces transketolase flux to promote pancreatic cancer growth. Cancer Res. 2010;70(15):6368-6376. (PMID: 20647326)
- Turati F, et al. Glycemic index, glycemic load and cancer risk: an updated meta-analysis. Nutrients. 2019;11(10):2342. (PMID: 31581675)
- Koushik A, et al. Intake of fruits and vegetables and risk of pancreatic cancer in a pooled analysis of 14 cohort studies. Am J Epidemiol. 2012;176(5):373-386. (PMID: 22875754)
- Genkinger JM, et al. Coffee, tea, and sugar-sweetened carbonated soft drink intake and pancreatic cancer risk: a pooled analysis of 14 cohort studies. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2012;21(2):305-318. (PMID: 22194529)
- MacMahon B, et al. Coffee and cancer of the pancreas. N Engl J Med. 1981;304(11):630-633. (PMID: 7453739)
- Hsieh CC, et al. Coffee and pancreatic cancer (Chapter 2). N Engl J Med. 1986;315(9):587-589. (PMID: 3736647)
- Luo J, et al. Green tea and coffee intake and risk of pancreatic cancer in a large-scale, population-based cohort study in Japan (JPHC study). Eur J Cancer Prev. 2007;16(6):542-548. (PMID: 18090127)
- Larsson SC, Wolk A. Red and processed meat consumption and risk of pancreatic cancer: meta-analysis of prospective studies. Br J Cancer. 2012;106(3):603-607. (PMID: 22240790)
- Nöthlings U, et al. Meat and fat intake as risk factors for pancreatic cancer: the multiethnic cohort study. J Natl Cancer Inst. 2005;97(19):1458-1465. (PMID: 16204695)
- Stolzenberg-Solomon RZ, et al. Meat and meat-mutagen intake and pancreatic cancer risk in the NIH-AARP cohort. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2007;16(12):2664-2675. (PMID: 18086772)
- Hidaka A, et al. Fish, n-3 PUFA consumption, and pancreatic cancer risk in Japanese: a large, population-based, prospective cohort study. Am J Clin Nutr. 2015;102(6):1490-1497. (PMID: 26537936)
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- Lin HL, et al. Folate intake and pancreatic cancer risk: an overall and dose-response meta-analysis. Public Health. 2013;127(7):607-613. (PMID: 23769243)
- Dibaba D, et al. Magnesium intake and incidence of pancreatic cancer: the VITamins and Lifestyle study. Br J Cancer. 2015;113(11):1615-1621. (PMID: 26554653)
- Lei Q, et al. Whole grain intake reduces pancreatic cancer risk: a meta-analysis of observational studies. Medicine (Baltimore). 2016;95(9):e2747. (PMID: 26945361)
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よくある質問
- 膵臓がんになりやすい食べ物は? 甘いもの・コーヒー・加工肉・植物油を国の評価と論文で確かめるの結論・要点は?
- 膵臓がんで「確実」とされる単独の食品はなく、WCRFでは果糖・赤肉・加工肉・飽和脂肪酸が「限定的・示唆的」。コーヒーは日本の約10万人の追跡でも関連がなく、砂糖の供給量は1973年度から約4割減っています。
- 国立がん研究センターと世界がん研究基金(WCRF)の判定一覧についてはどうなっていますか?
- まず、日本人の疫学研究をまとめている国立がん研究センターと、世界中のコホート研究を統合している世界がん研究基金・米国がん研究協会(WCRF/AICR)の判定を比較します。
- 「甘いもの・植物油・乳製品・小麦(四毒)で膵臓がんが増えた」説を60年統計で確かめるについてはどうなっていますか?
- SNSや動画では、「日本人の膵臓がんが増え続けているのは、戦後に増えた小麦・植物油・乳製品・甘いもの(いわゆる四毒)のせいだ」という主張をよく見かけます。実際の国の統計(農林水産省『食料需給表』の1人1年あたり供給純食料)と、膵臓がんの年齢調整死亡率を年代ごとに並べてみます。
- 甘いもの(砂糖・果糖・清涼飲料水・人工甘味料)と膵臓がんについてはどうなっていますか?
- 「甘いものを食べると膵臓が疲れてがんになる」という話はよく聞かれます。研究データを「果糖」「砂糖(ショ糖)」「加糖飲料」「人工甘味料」に分けて見てみましょう。
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